猿八座 渡部八太夫

古説経・古浄瑠璃の世界

忘れ去られた物語たち 40 古浄瑠璃 清水の御本地⑥ 終

2015年11月17日 18時49分35秒 | 忘れ去られた物語シリーズ
清水の御本地⑥ 終

 内裏での奇蹟の後、御門は、公卿大臣にこう命じました。
「東山の音羽の滝に住んでいる真如夫婦こそ、生き仏であるぞ。彼らの住家こそ、極楽浄土と呼ばれるものである。流れ清き滝の水に因んで、清水寺(せいすいじ)と名付けて、未来の罪を逃れようではないか。」
そうして、数々の宝を寄進して、清水寺を信仰なさったので、公家大臣に止まらず、人々は皆、清水寺を篤く信心したのでした。
 さてある時、姫君は、真如に向かい、こう仰りました。
「我が君様。よくお聞き下さい。私たちは、今生においてこの様に楽しく暮らせたとしても、三悪道に沈み行けば、紅蓮の炎に包まれたり、氷に閉ざされたりして、再び浮き上がるなどと言う事は、至難のことなのです。ですから、願うべきことは、菩提なのです。この世は仮りの宿ですが、来世は、永遠の住家です。後世の道こそ、大事なのです。さあ、ご一緒に修行して、補陀落世界に生まれ変わりましょう。」
真如も、既に正覚しておりましたので、
「おお、それは全く道理なことである。」
と答えると、夫婦連れだって、音羽の滝へと出向きました。それからというもの、三百三十三度の水垢離を行い、三十三巻のお経を、毎日、転読する修行に入ったのでした。修行の生活が、三年と三月が経った時、いよいよ所願が成就されて、お体が光明で輝き始めました。その光は、三十三観音菩薩の光です。そして、衆生済度の御利益の為に、一首の歌を詠じなされるのでした。
『ただ頼め しめぢが原の さしも草 我世の中に あらん限りは』(古今集)
 その後、真如殿は、丹波の国にいらっしゃる父上様を、穴太(あのう)の観音としてお祀りになると、真如殿を貶めた為に地獄に落ちていた兄兄弟を救い上げて、不動尊、毘沙門天として祀ったのでした。さて一方、姫君は、大和の国の長谷観音となられました。
 真如殿は、清水寺に留まって貫主となり、更に衆生済度利益の為に、祈願を続けました。今日まで、十八日を観音様の縁日としているのは、その日が、真如夫婦の正覚した日だからです。
さてさて、この本を買って、三遍読むならば、必ず悪病災難から免れて、富貴の身分になることは疑い無し。これを疑って、危ない目に遭っても知りませんぞ。清水寺には、今でも、身分の上下を問わず、お参りをしない人はありません。

おわり

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