猿八座 渡部八太夫

古説経・古浄瑠璃の世界

忘れ去られた物語たち 34 古浄瑠璃 よりまさ ①

2014年12月25日 18時31分43秒 | 忘れ去られた物語シリーズ
「よりまさ」とは、源頼政のことである。以仁王(高倉の宮)が、平家追討の令旨を出すに至るのは、頼政が平氏打倒を持ちかけたからである。その辺りの消息は、平家物語に詳しい。この古浄瑠璃は、平家物語をベースとして、頼政の鵺(ぬえ)退治と、平等院・宇治川の合戦の様子を描いている。
出展:古浄瑠璃正本集第1(21)「よりまさ」天下一若狭守藤原吉次正本。刊期は、正保三年(1646年)。版元は、二條通丁子屋町 とらや左兵衛。

よりまさ ①
清和天皇の第6子、貞純親王より二代後の多田満仲(源満仲:まんじゅう)。その満仲の嫡子、源頼光より更に三代の後胤であり、三河の守源頼綱の孫であり、兵庫の守源仲政の子であるのが、源頼政である。
 さて、頼政は、大将として保元の合戦を戦いました。勝ち組だったので、殿上人にはなりましたが、平家の人々と比べれば、たいした恩賞も無いままでした。これを、長年、恨みとしていた頼政は、やがて打倒平家の野望を巡らすのでした。しかし、この企みは、やがて六波羅の知れる所となりました。清盛は、直ちに一門を集めると、
「兵庫の守(頼政)には、我等平家を滅ぼし、天下を治める野心があると聞く。かの頼政の力など知れたもの、攻め寄せて、絡め取り、平家一門を更に勢い付けよ」
と、言うのでした。しかし、一門の者達は、色よい返事をしません。すると、嫡子重盛が進み出て、
「恐れながら、申しあげます。あの様な微力な者が、昼夜、付け狙って来たとしても、何の危害となりましょうや。頼政の様な似非者(えせもの)を討ち取ることは、簡単ですが、宣旨、院宣の無い私戦をするならば、上を軽んずる事になります。その上、検使の軍勢をも相手にしなければならなくなります。これまで、上を重んじて、御門を敬い、平家の運を開いて来たではありませんか。どうか、只々、理を曲げて、この戦を思い留まり下さい。」
と、諫めるのでした。重盛が、どうしても譲らないので、流石の清盛も折れたのでした。小松殿(重盛)の心を褒めない者は、ありませんでした。
 これは、源平両家の物語。さて一方、内裏では、不思議な事件が起きていました。東の方の三条の森から、黒雲が湧き上がり、火炎を噴き出します。形はよくは見えないのですが、蜘蛛の糸を吐き出して、天上を這い回ったり、雲の中を飛び廻ると言った次第です。御門は、ひどく心配をなされました。不思議な事が起こったと、人々も大騒ぎです。公卿大臣は、集まって善後策を話し合いました。結局、貴僧高僧を呼び集めて、大法・秘法を尽くしましたが、化け物を封じることはできませんでした。
つづく

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