ワニなつノート

本のノート2012 (その3)

『ひとりじゃない ドキュメント震災遺児』NHK出版

(P136~139)
(雄貴くん・小学校6年生。家族四人が津波によって命を奪われた。祖父母と母と一歳半の弟)


『運動会が終わり、帰ろうとしていた二人に雄貴くんの担任の先生が声をかけた。

…スポーツ大会の直前、体調がよくないにもかかわらず練習に参加していた雄貴くんに、「そんなにがんばらなくてもいいよ」と声をかけると、グランドの真ん中で泣き出したことがあった。

先生は孝幸さんに話しかけた。
「今の雄貴くんにとってがんばりすぎないこと大事かもしれない。今までずっとがんばってきたから」

後日、雄貴くんに先生から「がんばらなくていい」と言われたときの気持ちについて尋ねてみると、雄貴くんは自分自身のことを語ってくれた。

「先生が言うとは思わなかったから、今でも不思議です。
おれなんか、お父さんと比べたら全然、1パーセントもがんばってない。0.1パーセントもがんばってないと思ってます。
家の家事とか全部、お父さんがやってるし。いろいろお父さんの役にたてることがないなあって。
そのなかで自分ができることって……」

(お父さんについて)
「おれがいないところでいろいろくやしがってる。
たったひとりでがんばってるから。
お父さんは津波に流される前に一度(家族に)会ってるから。
『逃げろ』って言ってから、亡くなったのは自分の判断ミスだ、くやしいって。
おれのくやしさよりも、おれなんかよりも全然くやしさが違う」

「本心言いますけど… 全員助かってほしいと思いましたけど、おれと一世選ぶんだったら、どっち選ぶんだ。どっちかってときに、やっぱ一世のほう選ぶんだって。
両方は助けられないっていう状態なら」

「おれは11歳、一世はまだ1歳くらしかたってないから。おれより一世の笑顔のほうが救われるのかなって」

雄貴くんが顔を向こう側に向けた。その肩が震えていた。



            


この本には、5人の子どもたちの生活や時々の思いが報告されています。
私たちが知ることのできない、子どもたちの思いを「ことば」にして伝えてくれることに感謝しつつ、記者の人の言葉はどれもしっくりきません。

でも、どこかずれている大人の言葉は脇に置いて、子どものことばだけをそっと掬い取って、何度も何度も読み返していると、編著者たちの作った「本」とはまったく別のものがたりが聞こえてきます。

そのことを私もうまく表現することができません。
ただ、子どもたちはいつも、大人よりも多くのことばや思いを飲み込んでいるのは確かなことだと思います。

『子どもを尊重しその傷ついた心を知るというのは、知的な行為ではありません。
もしそれがそんなものだったら、もうずっと前に世間一般に広まっていたことでしょう。』
(アリスミラー)


          ◇

(P47~48)
(海音{かのん}ちゃん・小学2年生・津波で両親と姉をなくし、隣の県で祖父母と暮らしている。)

…テレビを見ていると、震災によって自殺する人が多いというニュースが流れた。

「なんで自殺する人多いの?」

「みんなほらね、この津波でお父さんやお母さん、きょうだいがいなくなったりして、悲しくてしょうがなかったりしたからね。結局、みんな負けてしまった人たちなのかなぁ……。
でも、あーちゃんもね、海音がいなかったら大変だったよ」

「……ねえ、あーちゃん。海音だって死にたい、自殺したいって思ったときあったよ」

小学校2年生の孫の思わぬ言葉に、隆子さんは驚いた。

「何、海音! 何考えてるの! 海音が死んだら、悲しすぎてあーちゃんも死んじゃうんだよ。第一、パパとママとお姉ちゃんと小さいばあばが何て言うと思う?!」

「うそだよ。心配しないで」

            ◇



「おれは11歳、一世はまだ1歳くらしかたってないから。おれより一世の笑顔のほうが救われるのかなって」

「うそだよ。心配しないで」

子どもは、いつも寛容だなーとおもいます。
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