《「希望」は人と人のつながりとともに》
「ことばが話せなくて、字も読めなくて、一人で着替えもできません。食事もトイレも人の手をかりなければできません。この子が、ふつうにみんなと一緒に、街のなかでふつうに生活ができるかどうか、それを見極めるにはどうしたらいいでしょうか?」
その見極めに必要なのは、個人が「できる・できない」を見ることではありません。
身辺自立が「できる・できない」ではありません。
言葉を話したり、文字を書いたりすることが、「できる・できない」ではありません。
学校の勉強が、「できる・できない」ではありません。
最も肝心なことは、子どもと親が周りの人を信じることが「できるかどうか」にかかっているのだと思います。
そのためには、まず「将来、子どもが、どれくらい話せるようになるか、どれくらい読み書きができるようになるか、どれだけ身辺自立ができるようになるか」に左右されない今が大切です。
「将来、何かができるようになるか、どうか」を目指して、「できる姿」に今の生き方を左右されていたら、目指した姿以外の姿には希望が見えなくなります。
今のありのままの姿で生きることに希望を感じながら、今を生きることが、希望につながります。
「できないまま」で、どれだけ「人を頼ることができるか」、「どれだけ人の手をかりることができるか」。それは、日本の社会では、人に「めいわくをかける」ことと、解釈されています。
それを「めいわく」と「自覚」するのではなく、「信頼」と「安心」があるからこそ、ゆだねられるのだと感じる心を、どれだけ育てられるか。
「手をかりるように、知恵をかりること」、それこそが人類の進化の課程で一番大事なことであり、人間の一番の知恵であり、仲間を孤独にさせない、自分を孤独にしない知恵であり、工夫だと、理解すること。
いえ、理解より先に、「ともに生きる」ことで身につけてしまうこと。
空気のように、生まれたときから呼吸してしまうこと。
人は誰も、空気の必要性や成分や呼吸の仕方を理解してから、息をするのではない。
だから、人は、孤独という、人にとって一番の苦痛、を避けるために、親子、家族、友人、仲間を必要とする生き物なのです。
だから、生まれたときから空気を呼吸するように、生まれたときからお互いを思い合う関係を呼吸することが大切なのです。相手がしゃべるか、歩けるか、字がよめるか、そんなこととは別の話です。
子どもは分けることも、分けられることも望みません。
「人と人との現実的なつながり感」を、幼いときから呼吸してきた子どもは、親になっても、子どもを障害で分けようとはしません。
「この子が、ふつうにみんなと一緒に、街のなかで、ふつうに生活ができるかどうか」
そのために、一番してはいけないことは、子どもをみんなと別に分けることです。
なぜなら、「大切に思い合う人と人との現実的なつながり感」がなければ、ほかの何ができるようになっても、どんな技能を修得しても、この子が寂しい思いをすることになるなら、それは何の意味も持たなくなるから。
一番大事なことは、この子が大切な人やものをうしない最も辛い時に、一人じゃないと感じられること。それは、一人の能力でどうにかなるものではありません。
「この子が、ふつうにみんなと一緒に、街のなかで、ふつうに生活ができるかどうか」
ひとりの人間として尊重され、大事に思われる実感をともなった、具体的な人間関係のなかで子供時代を過ごし、成長することがもっとも重要な自立の基盤となるのです。
そのために大切なことは、子どもがいま自分に起きている現実を、自分で感じることです。
そして、自分の感情を、包み隠さずありのままに、表現できることです。
ことばにしたり、言葉以外の表現で伝えること。堂々と手をかりること、知恵を借りることができる関係が、必要になってきます。
誰にも打ち明けることができず、一人で抱え込んでいる当事者の孤独は、個人の能力ではどうにもなりません。
大切なのは仲間の力です。
正しさの力や、言葉の力ではありません。
子どもの行き先に、いくつかの道があるとき、
子どもの気持ちに耳を傾け、
「子どものために一番遠慮のない道を行こうよ」と
話せる仲間がいることが大切です。
遠慮の積み重ねの人生では、子どもが一番つらいとき、
誰かに話していいと思えなくなってしまうから。
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