毎日新聞 4月20日(水)10時36分配信
被災者支援について調査・提言している関西学院大学教授で精神科医の野田正彰さん(67)が15、16日、宮城県沿岸部に入り遺族や被災者の話を聞いて歩いた。
東日本大震災では2度目の被災地入り。家族を失って1カ月が過ぎた遺族らと接した野田さんは「復興ばかりに重点を置いて『がんばろう』を繰り返せば、遺族の疎外感と喪失感は強まる。復興支援は一番つらい遺族の視点に立つべきだ」と安易な復興ムードに警鐘を鳴らす。
県南部、福島県境にある山元町。641人が死亡し、131人の行方が分かっていない(18日現在)。
野田さんは山元町立坂元中学校の避難所を訪ねた。「家族全員が見つかるまでは」と震災後ひげをそっていない男性がいた。目黒裕一さん(36)。両親、祖母、姉の5人家族だったが、4人の行方が分からない。
「避難所にいれば、いつかみんなが顔を出すんじゃないかって。甘い考えだったかな。携帯もメールもつながらないんです」。
今月上旬、姉ゆかりさん(39)に目元が似た遺体の写真を見つけた。DNA鑑定の結果を待っている。
「家族が夢に出てこない。俺って冷たい人間なんですか」。
そう尋ねた目黒さんに野田さんは「そんなことはない。家族もあなたのことを思って流されたはずだよ」。
目黒さんは「それならやっぱり俺が早く見つけてあげたい」とつぶやいた。
仙台市の南隣、名取市閖上(ゆりあげ)地区。
「あれは、妻が育ててたんだ」。汚泥をかぶったビニールハウスを指して、荒川勝彦さん(63)は野田さんに言った。中に、ピンクや白のカーネーションが、枯れずに残っていた。
妻八千代さん(58)はあの日、ハウスにいた。近所の人の話では地震後、自宅にいた三男孝行さん(27)を迎えに車で自宅に戻り、一時公民館に避難。更に約500メートル離れた中学校に向かう途中、津波にのまれた。孝行さんは遺体で見つかったが、八千代さんは見つかっていない。
自宅から公民館まで、野田さんは荒川さんと八千代さんの話をしながら歩く。
「なかなか気持ちの整理がつかなくて……」。
そう話す荒川さんに、野田さんは「奥さんが生きた記憶を忘れずに生きていくんだよ。奥さんの生前の姿を一番伝えられるのはあなたなんだから」と声をかけた。八千代さんの足取りを荒川さんに追体験してもらうことで、少しでも心の整理をしてもらおうと、野田さんは考えた。
野田さんによると、遺族は被災直後、家族を失った現実をなかなか受け入れられない。遺体が見つかり数カ月が過ぎたころ、喪失感に襲われる人もいるという。そんな時「遺族に寄り添って、悲しみを共有してあげることが大切」という。
野田さんは「遺族ほど悲しみや苦しみに耐え、頑張っている存在はいない。周囲が死を見ないようにして『頑張ろう』と復興ばかり強調すれば遺族は『放っておかれている』と思う。喪失感は増し、最悪自殺という手段を選択させてしまう」と遺族の孤立化を危惧している。
【村松洋】
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