わたしたちはみんな「誰かに守られた子ども」
先生も子どもも、わたしたちはみんな「誰かに守られた子ども」だった。
戦後に生まれた私たちは「みんな誰かに守られて」高校で学ぶことができた。
「私」ががんばって勉強して能力・適性を身につけたから、高校や大学で学ぶことができたのではなかった。そのことを、きちんと書いてみたい。
◆
私が生まれる少し前に、戦争があった。多くの子どもや若者が死んだ。学校は、戦争で死ぬことが国のためだと、子どもに教えた。
国にも学校にも「守ってもらえなかった子ども」は、それを信じて戦争に行き、殺し、死んだ。
日本軍に食料や壕を「提供」させられて死んだ子どもが、沖縄には1万人以上いた。(「守ってもらえなかった」子どもたちが死んだ理由は、子どもが自ら「提供した」と記録されている。)
◆
1950年の高校進学率は、42.5%だった。この数字では、「高校くらい、みんなに」とは誰も言わない。
それから11年。1961年には男子63.8%、女子60.7%に達する。
「高校くらい、みんなに」
親の思いは、私が生まれた時代に始まった。
「高校くらい、みんなに」
十代で何を学び、誰と出会うか。
そこから人生が拓かれることを大人は知っている。
「高校くらい、みんなに」
そういう強い願いをもった親たちは、戦争の時代、国にも学校にも「守ってもらえなかった子ども」だった大人たちだった。
だからこそ、親は子どもたちに「せめて高校だけは」と願い、「高校を増設してほしい」「希望するものは全員入学させてほしい」という運動に発展していった。
◆
【1962年になると日教組、総評、母親大会連絡会などが世話人となって「高校全員入学問題全国協議会」(全入全協)の準備会が開かれました。
この準備会は、
「一、 進学希望者全員を入学させるため、国庫負担で高校を増設させる。
一、 入試地獄を解消し、高校教育を国民の要求に応えるため、差別行政を廃し、学区制、男女共学制、総合制を確立する。
一、 定時制高校を充実し、働く青年に公教育の機会を確保する。」
ということを掲げました。】(※1)
先生も子どもも、わたしたちはみんな「誰かに守られた子ども」。
そして、戦後に生まれた私たちはみんな「誰かに守られて」高校で学ぶことができたのです。
私ががんばって勉強して、能力・適性を身につけたからではありません。
もし、高校の進学率が60%のままだったら、私は高校生になれなかったし、いまの国民の40%は高校生になれなかったのです。
◆
高校どころか小学校の教育さえ奪われた世代の親や大人たちが、次の世代の子どもたちのために、「高校を増設してほしい」「希望するものは全員入学させてほしい」と願い、実現してきた数字が、99%です。無償化です。特別支援学校の希望者全入です。
そうした先の時代の大人たちのおかげで守られ、学ぶことができた私たちの世代が、99%から取り残された子どもを、「定員内入学拒否」する。
その取り残された子どもとは、親から虐待され施設で暮らす子ども、貧困家庭で育った子ども、障害のある子どもであるとき、私たちはただの「恩知らず」の人でなしではないのか。
去年の、千葉県の中卒者の就職率は0.3%である。そして千葉県で「定員内入学拒否」された子どもの数はたった164人、0.3%である。
◆
21世紀の私たちはもう、「すべての子ども」に高校で学ぶことくらいの「守り」を贈ることができるはずなのだ。
定員はあり余っているのだから。
わたしたちはみんな「誰かに守られた子ども」だった。
だから、私たちはもう、子どもを分けたり、拒否することをやめよう。
点数が足りないなら、「それを一緒に勉強しよう」と言えばいい。
「希望する子」だけでなく、「勉強したい」と口にできない子どもたちにも。
「自分はバカだから」とあきらめている子どもたちにも。
私たちが守られ贈られた、大切な教育や仲間との時間を。
すべての子どもたちに贈りたい。
私たちは、みんな誰かに守られた子どもだったのだから。
(※1)山田真「母親たちの願いから始まった高校全入運動」
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