ワニなつノート

寄る辺なさをうめるもの (メモ2)

寄る辺なさをうめるもの (メモ2)


石牟礼さんの「花を奉る」という一文がずっと宝物でした。
いつごろからか、折あるごとに声に出して読んできました。

いま本を手に取ってみると、初版1990年3月とあります。
チェルノブイリの事故から4年…。
娘が生まれる二か月前…。

原発だらけの日本でいつか同じような事故が起こるかもしれない…、子どもの未来は大丈夫なんだろうかと不安だったのを覚えています。
そんなときに「花を奉る」を何度も何度も読みました。

そういえば、娘が生まれた時、松下竜一さんから「Niiが読めるようになる日に向けて」と著書を送っていただきました。
それもまた自分の不安を支える大切な宝物になりました。

先日、手にした『なみだふるはな』(石牟礼道子・河出書房新社)に、新たな「花を奉る」をみつけました。

   ◇


花を奉る


春風萌(きざ)すといえども われら人類の劫塵(ごうじん)
いまや累(かさ)なりて 三界いわん方なく昏(くら)し

まなこを沈めてわずかに日々を忍ぶに なにに誘(いざな)われるにや
虚空はるかに 一連の花 まさに咲(ひら)かんとするを聴く

ひとひらの花弁 彼方に身じろぐを まぼろしの如くに視れば
常世(とこよ)なる仄明りを 花その懐に抱けり

常世の仄明かりとは あかつきの蓮沼にゆるる蕾(つぼみ)のごとくして 
世々の悲願をあらわせり 

かの一輪を拝受して 寄る辺なき今日(こんにち)の魂に奉らんとす
花や何 ひとそれぞれの 涙のしずくに洗われて 咲きいずるなり

花やまた何 亡き人を偲(しの)ぶよすがを探さんとするに 
声に出(いだ)せぬ胸底の想(おも)いあり 
そをとりて花となし み灯(あか)りにせんとや願う

灯(とも)らんとして消ゆる言の葉といえども 
いずれ冥途の風の中にて おのおのひとりゆくときの
花あかりなるを 

この世のえにしといい 無縁ともいう
その境界にありて ただ夢のごとくなるも 花

かえりみれば まなうらにあるものたちの御形(おんかたち) 
かりそめの姿なれども おろそかならず
ゆえにわれら この空しきを礼拝す
然(しか)して空しとは云わず 

現世はいよいよ地獄とやいわん
虚無とやいわん
ただ滅亡の世せまるを待つのみか 
ここにおいて われらなお 
地上にひらく 一輪の花の力を念じて合掌す

   二〇一一年四月 大震災の翌月に




      ◇


「寄る辺なき」という言葉は、九〇年の「花を奉る」には使われていなかった言葉です。
私が勝手に、いまの自分への贈り物のように感じる所以です。
そう思いながら、前の本をめくっていて、次の言葉にも救われました。


       ◇


「死ぬのになんの覚悟もない。
今日を大切にとは思うが、
それも毎日やりそこなってばかりいる。」


(『花をたてまつる』石牟礼道子 葦書房)

http://sun.ap.teacup.com/applet/waninatu/20101017/archive

コメント一覧

yo
コメント下さる方々へ

すみません。
コメントへの返信ができないでいます。

抗がん剤の治療が始まり、倦怠感と集中力のなさに困っています。

うつというほどではないのですが、人と対話することが困難な感じです。

相手の話している言葉が、うまく理解できない、というか、どう対応していいのか、よく分からないように感じるのです。

退院後はほとんど家とホームだけで過ごしていて、娘や子どもたちと話すのはなんともないのですが、
コンビニでのちょっとした会話でさえ、相手の発する言葉が聞こえるのと、その内容を理解するのに時差があるような、
自分が返事をしているのを、他人事のように聞いている自分がいる感じです。

思ったことを書くことはできるのですが、いったん立ち止まってしまうと頭の中が散らかってしまって、何も考えられなくなります。
考えようとする、ことが、なかなかできません。

なので、6年ぶりくらいの?懐かしい名前のコメントにも、懐かしすぎて、何語でしゃべればいいのか、分からない感じです。

ちなみに、ブログの本文は、ほとんど以前のノートの写しです。

いまは抗がん剤の中止期間なので、少し目が覚めている感じですが、また点滴をうつとしばらく起き上がれない日が続きます。ご容赦ください(>_<)
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