『治りませんように』&ワニなつ翻訳メモ(その3)
【共同住居『ひだまり』編 ①】
(217)
『ひだまり』には、9人の女性メンバーが暮らしている。
それぞれに引きこもりや幻聴、妄想や爆発を抱えながら、
ていねいに生きようとして、
それができたり、できなかったりの日々である。
2008年冬のある日曜日、
久しぶりにみんなでキムチ鍋を囲もうということになった。
「キムチ鍋、久しぶりだね」
「これで雑炊いっぱいできるよ」と、
食べながら声があがり、笑いがおこる。
ひとしきり食べたところで清水さんが鈴木さんに話しかける。
「さっき、半泣きだったね」
「少し、おさまってきたのがくやしい」
「いやあ、《なつひさお》だと思った」
「単純に、朝から気づいたらだれとも
しゃべってないってのが原因だったりさ、
お腹すいてるのにご飯食べる暇もなくってっていうのが重なると、
つらくなったりするのが、うちらは如実にあらわれるんだよね。
健常者よりそういうところが正直っていうか、
気がついたらお腹すいてただけなんだってのが。
そんなことぐらいで片づけないでほしいって思うんだけどね。
でもなんかご飯食べてるとしあわせになってくる、ははは」
「いやあ結局、単純なんだわ、うちらは」
「人と食卓囲むのってしあわせだよね。
……だからへこんでるときこそ、
みんなで食卓かこんだらいいんだなって。
それができたらつながりが感じられるし、
しあわせといえるし」
□ □ □
(yo)
彼女たちは、統合失調症という「病名」がつき、
「引きこもり」や「幻聴」、「妄想」や
「爆発」という症状に苦しんでいる。
その苦しみの原因は「病気」だということになっているのだが、
べてるの当事者たちの間で言われているのが
「なつひさお」という言葉です。
病気は病気としてあるのだが、
日々の生活の中で、調子が悪くなること、気持ちが落ち込むこと、
そしてパニックになったり爆発して暴れたりすることの、
「原因」は「なつひさお」であるといいます。
《な》悩んでいる。
《つ》疲れている。
《ひ》ひま。
《さ》さびしい。
《お》お金がない。お腹がすいた。
この言葉を読んだり、思い出すたびに、
私も子どもも同じだなと思うのです。
みんな「なつひさお」の時は、大変になるよなと思うのです。
学校で、障害のある子が調子が悪くなったり、
気持ちが落ち込んだり、パニックになったりすると、
すべてを「障害」のせいにされます。
パニックになっている子どもをみて、
「ああ、これは自閉症だからだ」と「理解」されます。
でも、それは、その子の気持ちを「理解」することや、
その子の気持ちを感じることとは違います。
たとえば、その場の苦しいという気持ちを、
言葉がない子どもや、言葉で表現できない子どもが、
泣いたり、暴れたり、という「表現」を使うとき、
「言葉が出ない」のは「障害」のせいかもしれないけれど、
その子の調子が悪いのは「なつひさお」かもしれないのです。
そうした、子どもの気持ちに寄り添うことは、
「障害の理解」とは違うのだと思います。
その上に、「だから、普通学級では無理なんだ」とか、
「普通学級は障害児にはストレスなのだ」と答えを出して、
「特別支援」に送るというのはあまりにむごい話です。
障害児は『《な》悩んでいる《つ》疲れている《ひ》ひま
《さ》さびしい《お》お腹がすいた』ときには、
「特別支援教育」へどうぞ、と行かされているのでしょう。
「人と食卓囲むのってしあわせだよね。
……だからへこんでるときこそ、
みんなで食卓かこんだらいいんだなって。
それができたらつながりが感じられるし、
しあわせといえるし」
岩田めぐみさんのこの言葉を読んで、
私はすぐに小学校の「給食」が浮かびました。
クラスの大勢いの仲間と食卓を囲むのって、しあわせだよね。
へこんでいるときこそ、
みんなで食卓をかこんだらいいんだなって。
勉強ができないから別のクラスとか、
一人で食事ができないから別の教室で、というのではなく、
みんなで食卓をかこんだらいいんだなって。
それができたら、「つながり」がかんじられるし、
しあわせといえるし。
「障害児の障害を克服して、将来の幸せのために、
特別な個別の場所」に行くよりは、
いま、6歳なら6歳の子どもが、
6歳の仲間と食卓をかこみ、
「つながり」を感じるしあわせは、
どんな子どもでも感じることができるし、
そのしあわせな「食卓」を用意する場所を、
学校というんだよね。
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