ワニなつノート

舩後議員&木村議員 要望書全文





2020年2月26日

文部科学大臣 荻生田一文殿

参議院議員 舩後靖彦
参議院議員 木村英子


障害のある受験生の定員内不合格をなくし、本人が力を発揮できる合理的配慮の提供を求める要望書



 貴職に置かれましては、障害ある子もない子も共に学ぶインクルーシブ教育の推進への御尽力に心より敬意を表します。

 さて昨年の文教科学委員会で私は大臣に高校受験における定員内不合格問題につき質問をさせていただきました。その経緯で「全国・定員内不合格をなくし高校希望者全員入学を実現する会(代表仲村晃氏)様から、高校受験に際して障害のある受験生が直面している様々な課題をお寄せいただいています。中には今年の受験で緊急性を要するものもございますので、ここに緊急要望書を提出させていただきます。

1987年東京で「音読・代筆の介助者」等の入試の合理的配慮が実現して以来、全国で多くの障害児が高校受検に挑戦してきました。2016年には障害者差別解消法が施行され、障害のある受験生に合理的配慮を提供することが法的義務になり、その門戸は広がりつつあります。

ところが、全国では、多くの障害のある子どもが「定員内不合格」により入学を拒否されている実態があります。今年もすでに千葉県の前期試験において、募集人員72人に受験生46人という高校で、一人の障害児が定員内不合格になりました。同様に、熊本県でも前期試験で募集人数20名のところ15名受検し14名が合格、定員内にも関わらずその女性ただ一人不合格という結果でした。(補充資料p2-3)

さらに、熊本の受験生の場合、合理的配慮として受験時についた意思疎通支援者は県教育委員会が指定した受験生とは面識のない人でした。そのため、意思が支援者に的確に伝わらず、力を出し切れないままテストが終わってしまいました。(同様のケースで、沖縄県では保護者により差別解消条例に申し立てが行われ、この取り扱いは差別であるとして次年度からは本人が希望する人が配置されています。)(補充資料p3-4)

 大臣は、2020年2年18日の衆議院予算委員会で、重度知的障害者の普通高校入学について「障害を理由に入学を拒否されることは絶対にあってはならない」と述べておられます。そこで、障害のある人の後期中等教育を受ける権利が保障されるよう、以下について要望いたします。後期試験が差し迫っておりますので、なにとぞ迅速な対応をご検討いただけますよう、お願い申し上げます。

           記

1、 入試で提供される合理的配慮は、本人が力を十分発揮できるよう、日常的に本人と介助や意思疎通の経験がある者を指定することを、全国の教育委員会に周知して下さい。


2、 障害のある生徒が、定員内で不合格になった場合、障害を理由としていないことを立証するよう教育委員会に指示してください。


                         以上



【補充資料】


1《定員内不合格にされる障害のある生徒の現実》



2020年2月現在で、沖縄県で2年浪人、熊本県で2年浪人、愛知県で2年浪人、山形県で2年浪人、香川県では15年浪人している障害のある受験生がいます。千葉県では7年間高校を目指してきた渡邊純さんが、高校で学ぶ機会を得られないまま昨年11月に亡くなりました。渡邊純さんは7年間で27回の受検。そのうち25回が定員内不合格でした。

純さんには重度の障害があり、医療的ケアも必要です。そのため毎年県教育委員会との話し合いを継続しました。入学後の医療的ケアについても、看護師、介助員等の配置について理解を得ていました。純さんが小学校中学校を卒業した成田市教育委員会は、浪人後も含め3年間、高校入試の看護師を派遣して頂きました。また県病院局等の協力のもと、入学後の訪問看護師の配置についての協力体制も整えられました。受検の合理的配慮についても、本人の希望する介助者の配置、学力テスト、面接等、可能な限りの配慮がなされました。千葉県教育委員会、千葉県、成田市教育委員会、中学校、そして民間の訪問看護ステーション等が、「障害」への配慮を最大限に行うなか、ひとり校長の「判断」により、障害のある子の「教育を受ける機会」が拒否され続けたのです。

不合格の理由は「障害が理由ではありません。総合的判断です」としか説明されません。開示された入試点数が「77点」の年もあり、当会の他の障害のある受験生の中には、これよりも低い点数で入学したケースも数多くあります。このことは、「点数」ではなく、「障害」そのものが「不合格」の理由とされていることの一つの証です。

また純さんは2016年に3部制高校の「秋季募集」を受検しました。この時も4人募集で受検者が4人であったにも関わらず入学不許可=入学拒否という結果でした。その際(2016年8月25日)、指導課・〇室長より、「渡邊純さんは最重度の障害」、「純君が高校生になるのは無理」等の発言がありました。生浜高校が「定員内不合格」という判断をした日、本人を前にしての発言でした。まさに「障害」を理由に、「定員内不合格」とされたことが明らかな発言でした。(※添付資料3=千葉県教育委員会宛て要望書2通) 

その後、純さんが二十歳になり、学力テストのない「面接・作文のみ」の「定時制高校・成人枠」の受検をした際にも、「定員内不合格」により入学を拒否されました。


また広島県の中村天哉さんは2年間「定員内不合格」とされ高校で学ぶ機会を得られず19歳で亡くなりました。彼は昨年春に次のように書いています。


《ともに育ってきた仲間たちがそうだったように、僕も地域の高校への進学を選びました。オープンスクールに参加して、自分の居場所はここしかない!と思った高校を受験することにしたのです。…(制度上)選択問題しかできない僕にとって、広島県公立高等学校の入試問題は選択問題が少ないので、大きな痛手でした。それでもまばたき受検が認められたことや、3年間一生懸命やってきた調査書や面接もあるから大丈夫だろうと、慌ただしい状況の中でも、なんとか受検に臨むことができました。しかし結果は…1人だけ不合格。それも定員内不合格でした。情報開示請求をしましたが、不合格になった理由は分かりませんでした。当然落ち込みましたが、意を決して次の年もチャレンジしました。結果はというと、大幅な定員割れにもかかわらず、また1人だけ不合格になったのです。この時、県教委から最初に言われた「受検することは拒まない」という意味が初めて分かりました。ショックで倒れた僕は、病院で点滴を受けながら、「真面目にずっとやってきたのに…」と自暴自棄になりました。》


渡邊純さんや中村天哉さんのように障害がある若者が「定員内不合格」という理由で入学を拒否されるのは、「学ぶ席」がないのではありません。「先生」が足りないのでもありません。たとえば沖縄県では87人の「定員」が空いていながら、千葉県の定時制高校では50人余りの「定員」が空いていながらの「定員内不合格」です。87人の空席、50人の空席、つまり教室が一つ、二つ、まるごと「空いている」のです。


それでも障害児が「定員内不合格」とされるのは、「障害を理由」とした「入学拒否」であることは明らかです。しかも学びのセーフティーネットの役割を果たしている定時制高校でも「定員内不合格」が横行しています。2017年、北海道で、「定員内不合格」にされたのは全道で一人だけ、定時制高校を受験した「障害児」でした。2018年、兵庫県でも、全県でただ一人「定員内不合格」とされたのが定時制高校を受検した「障害児」でした。また愛知県の「定員内不合格」は2年間で2例だけ。どちらも全県でただ一人の「障害児」です(2018年・2019年)。これらの実態は、「定員内不合格」の理由が「障害」であることを明らかに示しています。



2《沖縄県教育委員会の見解》

 さらに沖縄県教育委員会は2019年11月、「高校では法的に重度知的障害児の学びを保障できない」と発表しました。

また同委員会は、2019年3月の入試で、87人の定員が空いている状態での不合格の理由を尋ねた時には、以下のように回答しています。

県:「コミュニケーションができない」「意思の疎通ができなかった」「質問に対してしっかり答えが返ってこなかった」「国語でも数学でも、質問に対する答えじゃなかった」

会:「それは、障害を理由に入学を拒否するということではないのですか?」

県:「いいえ。入学拒否ではありません。定員内不合格の理由です。入学拒否という言葉は、我々は使っていません。」「障害が理由ではありません。コミュニケーション能力です。」

会:「それは障害が理由ということと同じ意味ではないですか?」

県:「いえ、障害を基本、基礎として、総合的に判断した結果です」

会:「《能力・適性がない》と答えていますが、《能力・適性がない》と判断したのは、教育委員会ですか? 校長ですか?」

県:「校長です」


 このように、障害児が定員内不合格とされるときに、校長、教育委員会が「意思の疎通」「コミュニケーション能力」「意思の疎通」という言葉に言及するのは、沖縄県だけではありません。千葉県でも、北海道でも、愛知県でも、言及されてきました。「意思疎通のできない重度障害者は人の幸せを奪い、不幸をばらまく存在。」と言ったのは、やまゆり園事件の犯人です。障害児の教育機会を話し合う場で、「コミュニケーション能力」「意思の疎通」という同じ言葉が語られ、「学ぶ機会を奪われている」現実があります。



3《受検の介助者について》

また、高校入試においては、本人が安心して受検するための介助者(音読・代筆等を含む意思疎通支援者)が認められず、「入試」を実施する側が行っているケースがあります。今年も熊本県と岐阜県で認められていません。これは本人のための「介助者」の配置ではなく、「試験を実施する側、監督する側」の「介助」であり、明確な合理的配慮の不提供であり差別に当たります。

 沖縄県では、受検の際の「介助者」を、「障害のある受験生主体の介助者」ではなく、入試を実施する側の「介助者」(意思疎通支援者)を配置したため、「不十分な配慮」(障がいを理由とする差別事例)であることを、『沖縄県障害を理由とする差別等の解消に関する調整委員会』に申し立てた結果、以下のような「助言」を得ました。


【助言(あっせん)申請に係る処理の結果について(通知)

1 助言先:沖縄県教育委員会 教育長 平敷昭人

《助言の内容》・・・本調整委員会から県教育委員会に対し、以下のとおり提言します。

代筆・代弁・代読する介助者等の配置又は機器の活用といった意思疎通支援について、第三者の立ち合いなど他の受検生に疑義が持たれない対応が可能と思われます。今後、さらに合理的配慮の事例等を収集し、検討の上、個々の障害の特性に応じた意思疎通支援を実施していただきたい。】(※添付資料7=沖縄県調整員会通知)


この介助者の選定が、「障害の特性に応じた意思疎通支援」=合理的配慮の不提供であり、その結果の「定員内不合格」であれば、これも「障害による不利益」であり、「障害」を理由とした「入学拒否」の実態を示しています。



4《障害のある生徒の入学を不許可とする校長判断の根拠》

1991年の尼崎市立尼崎高校処分取り消し訴訟では、入学不許可処分に関して、重大な事実誤認に基づく「校長の裁量権の逸脱または乱用があった。」ことが認められました。その判決文には、次のようにあります。


【校長が高等学校の全過程履修可能性の判断において、専門医の意見や判断よりも医学書などから得た一般的知識を優先して履修可能性なしと判断したことは事実誤認による裁量権の逸脱である。また原告は中学における通学や学習状況から市尼高での全過程履修が可能であるにもかかわらず体育の単位取得が困難であると判断したことや、設備の整った養護学校の方が望ましいという理由で不合格の判断をしたことは校長の裁量権の逸脱であるとされた。】


「高校の入学拒否処分、入学選抜方法については学校長の裁量的判断に任されて」いるのは当時も現在も同じですが、「障害者差別解消法」と「障害のある人の権利に関する条約」が存在の有無が大きな違いとしてあります。しかし、「定員内不合格」についても、「受検の介助者」についても、教育委員会と校長はこれらの法律の主旨を理解していないおそれがあります。


「障害のある人の権利に関する条約」の「第24条 教育」。

2 締約国は、1の権利を実現するに当たり、次のことを確保する。
(a) 障害のある人が障害を理由として一般教育制度から排除されないこと、及び障害のある子どもが障害を理由として無償のかつ義務的な初等教育又は中等教育から排除されないこと。



学校教育法施行規則第五十四条には「児童が心身の状況によって履修することが困難な各教科は、その児童の心身の状況に適合するように課さなければならない」とあり、(準用規定)第百四条には「高等学校に準用する」とあります。


高等学校学習指導要領解説総則編には、次のように書かれています。
【教育基本法第2条(教育の目標)及び学校教育法第51条(高等学校教育の目標)は、いずれも「目標を達成するよう行われるものとする。」と規定している。これらは、生徒が目標を達成することを義務付けるものではないが、教育を行う者は「目標を達成するよう」に教育を行う必要があることに留意する必要がある。】


そして、高等学校教育の目標は、義務教育の成果を発展・拡充させることであり、高校において「義務教育段階の学習内容についての学び直し」のための教科・科目を開設し単位を与えることも「高等学校の目標に適合する」とされています。



このように、「履修することが困難な各教科は、その児童の心身の状況に適合するように課」し、「生徒が目標を達成することを義務付けるものではな」く、高校において「義務教育段階の学習内容についての学び直し」のための教科・科目を開設し単位を与えることも「高等学校の目標に適合する」のであれば、「定員」が空いている公立高校で、障害のある生徒の入学を不許可(拒否)する理由はありません。


したがって、今後、「障害」のある生徒を「定員内不合格」とする判断をする校長に対し、

①【障害のある人が障害を理由として一般教育制度から排除されないこと、及び障害のある子どもが障害を理由として無償のかつ義務的な初等教育又は中等教育から排除されないこと】に反していないかどうか。

②【専門医の意見や判断よりも医学書などから得た一般的知識を優先して履修可能性なしと判断したことは事実誤認による裁量権の逸脱である】から、校長が「履修可能性の有無によって判断し」て、定員内不合格とした場合には、その「履修可能性の有無」の判断の根拠を示す説明責任が求められます。

以上
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