彼を知的障害とは呼ばない(1)
《53人の定員が空いていて、
ただ一人不合格にされる理由はあるか》
私は、今日以降、彼を「知的障害」とは呼ばない。
新ちゃんもまなちゃんもヒデもなっちもこうちゃんも誰も「知的障害」と呼ばない。
私は子どもたちから、人生でもっとも大切な「やさしさ」と「知」を教わった。
人として恥ずかしくない自分であるために、もっとも大切なものを、子どもたちから教わった。
教わった「知」は、学校で学んだ「知」より大切なものだった。
その「師匠」を、なぜ私は「知的障害」と呼んできたのだろう。
◇
2018年3月16日、彼の受験番号はなかった。
62人募集の定時制高校を、10人が受検した。
合格者は9人。
彼の受験番号はなかった。
定員はまだ53人分空いている。
教室一つ以上、53個の机と椅子が余っている公立学校が、一人を捨てる。
県教委は、この結果を「公平・公正」だと言った。
6年で22回の不合格のうち19回が、「定員内不合格」という名の入学拒否。
それを「公平・公正」という知的健常者たち。
「特別支援学校」なら「希望者全入」で、「少人数で本人に合った教育」を受けられるという。
でも、普通高校では一クラスまるまる「定員」が空いていても入学を拒否する。
53人分なら一クラス以上の数字だから、少人数どころか、1対1でもおつりがくる……。
高校授業料を無償化し、障害者差別禁止条約を批准し、障害者差別解消法を作り、試験の際には「合理的配慮」を行う。
しかし「結果」は53人分の空きがあっても「教育しない」。
その校長判断は、公平公正な判断なのだと教育委員会がいう。
つまり、高校入試という制度そのものが、障害児の存在を無視した制度だという証明だ。
知識と権力に勝る大人が、「障害児・者」に、いかさまな試験を吹っ掛ける制度を、高校入試という。
◇
…怒りと憎しみ、恨みと憎悪の言葉が私の中から湧きあがるなか、そこに堕ちないでと呼び止める声がある。
出会った子どもたちの声が聞こえる。
彼(ら)の意志の強さ、あきらめない気持ち、自分を差別する人間を見極める力、希望への意志、そして人間への信頼を、私は心の底から尊敬する。
私が今まで、彼を「知的障害」と呼ぶことこそが差別だったのだと、あらためて気づく。
私は、今日以降、彼を「知的障害」とは呼ばない。
誰にも、その言葉を使わない。
彼らのあきらめない希望とひとを憎まないこころ、にんげんを信じるきもち。
私はそれを、彼から教わった。
ことばのない子どもたちから教わった。
ことばで、教えられたのではない。
ことばの生まれる前に、大切なものはそこにある。
もともとそこにある、大切なものを、ことばでも伝えることができるというだけ。
追記:
3月17日、あーさんも「定員内不合格」という判断で、入学拒否された。2年目の受検だった。
二人とも、小学校1年生のころから私にたくさんのことを教えてくれた師匠であり、にんげんへの信頼を教えてくれる大切な人だ。
私にできることは何か…。
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