The President's Barber 大統領の理髪師
満足度 ★★★★★
感動度 ★★★★★
話の展開 ★★★★★
問題定義 ★★★★★
映像美 ★★★★★
台詞の意味の深さ★★★★★+おまけ★★
時代的背景をふまえたコメディタッチの描き方★★★★★+おまけ★
2004年 韓国 117分
監督 イム・チャンサン
脚本 イム・チャンサン
キャスト ソン・ハンモ/ソン・ガンホ
キム・ミンジャ/ムン・ソリ
大統領/チョ・ヨンジン
チンギ/リュ・スンス
ソン・ナガン/イ・ジェウン
ノ・ヒョンウク(青年になってから)
パク・ジョンマン(中央情報部長)/パク・ヨンス
チャン・ヒョクス(大統領府警護室長)/ソ・ビョンホ
わかりやすい筋なのであらすじは省かせていただきます。
韓国現代史を的確に踏まえて重い内容をコメディタッチに描いた秀作の一作品。
おそらく韓国の方ならばウンウンとうなずきながらこの映画を観られたのではないでしょうか。
感心した点はいくつもあったが、そのなかで興味深い箇所を数項だけ紹介したい。
①台詞の一つ一つが歴史的な関連性が深く、映画の将来(韓国史の将来)を暗示しており、興味深い。
例えば最後に出て来た仙人風の漢方医の言葉 ( 「蛇が竜に化けて、この子にとりついている。竜の目を削って菊の花に入れて飲ませなさい。」 ) なども、朴大統領を暗殺をほのめかしている。あのときの老人のふと笑った表情は見逃してはならない。
朴大統領の葬儀の車に飾られた菊の花の『黄色』と『竜のイメージの黄色』が強烈に重なって印象深い。
一方理髪師は自分の子どものために・・・(ここはいいずらい映像のため、控えさせていただきます。)
時代的意味合いだけではなく、このあたりのヒューマンコミカル映画としても微笑ましく感動を覚える描き方は見事といえよう。
②厳寒のさなか、息子を負ぶって漢方医を訪ねての放浪の旅。このパターンは中国、韓国映画の私の個人的に好きなテーマの一つでもある。
凍える川を渡り①出の漢方医をたずねる。意味深い言葉を老人は二度繰り返す。
この老人宅を出るとそこには淡色墨絵風の美しい景色。朴大統領の暗殺においての韓国の将来の希望を暗示する場面だ。
一方父親はその時はやぶ医者だとはきすてるが、数年後実際には竜の目を泣く泣く削る。
③北朝鮮のゲリラ進入事件をコミカルに表現する快感も見事だ。
ゲリラ→下痢→捕まる→マルクス主義
が凝り固まって
下痢→マルクス主義→処刑
実際に当時の韓国では何でもない言いがかりで処刑される、また冤罪も多かったようだ。
実際には重苦しい耐え切れない内容ヲコメディタッチで大笑いできる場面に仕立てているこの映画センスは素晴らしい。
④「豆腐一丁」「チョッキンチョッキン」「四捨五入のナガン」とからかわれていた息子に父親は
「昔は病院も美容院も同じだったんだ。」
といって店の前のグルグルまわる赤青白の目印を指差す。
その昔医者の地位は現在にくらべて低かった。あのグルグル回る赤青白は実際に動脈と静脈と包帯の色を表しており、昔は病院の前にも本当に置かれていたようだ。この映画は楽しくわかりやすく描かれているが、事実を上手くとらえている。
⑤子どもを生ませたいために独自の四捨五入論を面白く描く感覚ははまってしまう。見事。
⑥この映画は単なる歴史にとどまることなく、歴史を把握していなくともヒューマン映画として万人に楽しませる事のできる本質的な映画の意味合いをも持ち合わせる所が素晴らしい。色合いや構図といった美術的な関点からも楽しめ、台詞や表情も細やかに表されている。
最後には子どもの足の回復でめでたしめでたしの涙をさそうあえて大衆映画風に仕立てたこの監督の潔さとセンスに感動した。
重厚感と軽快さを兼ね合わせた素晴らしい作品であった。
ということで こういった映画も好きだな・・・・・・が、感想でした。