日常

ロベール・クートラス クレマチスの丘

2016-08-17 00:56:39 | 芸術
三島駅から15分くらいのところにある「クレマチスの丘」は本当に素晴らしいところだった。
初めて行ったが、東京から何度も通いたいと思った。

公園を含めた広い敷地に、様々な施設が複合的に有機的に配置されている。
訪問者は、美術作品を歩きながら体験して、噛みしめながらゆっくりと吸収するように空間を体験する。
美しく手入れの行きとどいたお庭、センスのいいヴァンジ彫刻庭園美術館、IZU PHOTO MUSEUM、ベルナール・ビュフェ美術館、井上靖文学館・・・などなど。
空間や場、という美術を裏から支える領域への心遣いが本当に素晴らしいと思った。


特に、ベルナール・ビュフェ美術館で開催されている「ロベール・クートラス 僕は小さな黄金の手を探す」が、うなってしまうほど素晴らしい展示だった。

ロベール・クートラス(1930-1985、パリ)の絵ははじめて見た。そして一目で心を持って行かれた。
自分は、画家の生の絵画を初めてみたときの記憶、というものを大切にしている。
その時の驚きや感動。
そこを核としながら、あまり自分の偏見や思い込みを介入させないように気をつけて、絵画そのものを見る。
絵画として描かれているものをじっくりと見る。そこに自分の余計な概念は入れ込まないように注意しながら。
対象をありのままに見る、というのは簡単なようで意外に難しく、自分への戒めにも似た態度が要求されるものだ。


ロベール・クートラスは、世界大戦の真っ只中に、自由を求めて画廊を離れ、困窮の中で孤独に創造しつづけ人だった。
幼少期の自殺未遂や、死から生還したストーリーにはぐっとくるものがあった。

クートラスの絵画世界には、静謐な中に神聖さがある。観るものの心の奥底にある静謐な空間へと誘う。

小さな紙片に小さな生命を書き続けたカルトと呼ばれる一群の作品や、御先祖さまの連作、月の世界の住人の絵など、、、
こんなにも抽象度の高いテーマを質と純度を保ちながら描ける画家がいたのかと、驚きと共に感動した。 


ロベール・クートラスとコントラストを持ってベルナール・ビュフェの作品群も対峙して展示されていた。

ベルナール・ビュフェは若いころから高い評価を得ていた。
画壇のど真ん中を、太陽の光を浴びるように歩き続けた天才的な画家。
そんなビュフェの画風は、多彩で天才的で情熱的なもので、それでいて戦争の気分を大きく受け、暗く重く深いタッチの絵を描く。

ビュフェとクートラスの生涯は対照的だった。
ただ、それはいいとか悪いとか簡単に言えるものではなく。
時代と波長があったかどうかの違いで、こうも他者の評価は変わり、人生の様相は変わるものかとも思った。

ただ、作品の評価は最終的には画家自身が決めるものだと思う。
他者の評価は二の次で、最も厳しい鑑賞者であり評価者は、自分自身でしかない。
クートラスの思いはそこにあり、だからこそ画廊を離れた。
孤独に自分の感性を信じて、孤高の道を歩んで美の探究者となった。


三島にある「クレマチスの丘」は、ロベール・クートラスの絵を見に行くだけでも価値がある展示だと思います。東京から新幹線で行けます。


ヴァンジ彫刻庭園美術館で同時に開催されていた「生きとし生けるもの」展もほんとうに素晴らしく、時間が足りないほどだった!(こちらが本展?)
自分が以前から天才と思っている高木正勝さん(音楽家でもあり映像作家でもある)の作品も見れた。
他の作家のみなさんも作品の質の高さが際立っていて、空間の中で美術を体験するように歩き、本当に幸せな気持ちになった。


改めて、「クレマチスの丘」の展示は場全体を作りだすスタッフやキュレーターの方々が素晴らしい!
芸術に対する深い理解と深い愛情を端々に感じました。
ああ、この人たちは本当に芸術を愛し、芸術と強く結ばれているんだな、と思いながら。

今後、何度でも訪れたい場所となりました。
是非何かの機会にお立ち寄りください。空間全体にも空間のディテールにも感動します。



ロベール・クートラス 僕は小さな黄金の手を探す
会期:2016年3月12日(土)-2016年9月6日(火)
会場:ベルナール・ビュフェ美術館

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(HPより)
フランス・パリ生まれの画家、ロベール・クートラス(1930-1985)。当時「現代のユトリロ」、「第二のベルナール・ビュフェ」として売り出されたこの画家は、流行に左右される美術界での活動に苦しみ、画廊を離れ困窮の中で制作することを選びます。画家がその生涯をかけて描いたのは、小さな紙片を独自の神話のイメージや抽象的な模様で彩ったカルト、人間と動物の間のような生物が佇む静謐なグアッシュといった、一見ユーモラスな中に静かな悲しみを湛えた作品でした。画家を捉えていたのは華やかな美術界の流行よりもむしろ、石工として働いた青年時代に育まれた中世の職人世界への憧憬、パリの街角に暮らす人々や動物たちの生活、古きフランス人の精神が宿る民衆芸術といった、長い時間が醸成したものだったのです。 2015年に没後30年を迎え、フランス・日本で続く回顧展により再評価の流れにあるクートラス作品。本展ではこの流れを受けながらも、リヨン時代の初期油絵から制作の様子が伝わる資料まで、未公開のものも含む多彩な作品を構成します。深い部分で私たちをとらえ続けるクートラスの創造世界をご覧ください。
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ベルナール・ビュフェ美術館







クレマチスの丘











ヴァンジ彫刻庭園美術館

「生きとし生けるもの」展
会期 2016年7月24日(日)—11月29日(火)


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(HPより)
生きとし生けるもの
All Living Things
14名の想像力が生み出す未知の動物たちと、美術館で出会う
現代を生きる私たちにとって、動物はどういった存在なのでしょうか。人類が歩んできた歴史を振り返ってみると、動物は大切な家族や友として、生命を脅かす危険な敵として、人知を超えた聖なる神やその使いとして、いつでも人とともにありました。また精神の営みだけでなく、狩猟や農耕、畜産といった生の営みにおいても、動物は欠かすことができない特別な存在であり続けています。しかし、そうして育まれてきた関係が、いつの時代も調和に満ちていたとは限りません。むしろ現代では、文明や科学技術の発達がもたらした生態系への影響によって、人間と動物のつながりは失われながら錯綜しています。
展覧会「生きとし生けるもの」では、動物をテーマとした14名のアーティストによる多様な作品表現を通じて、現代の人間と動物の複雑な関係を見つめ直していきます。絵画や彫刻、写真、映像、マンガ、詩など、人間の想像力が生み出す未知の動物たちとの出会いが、美術館で待っていることでしょう。作品がもつ生命の力強さや躍動は、人間社会が動物を隔てていた規範や固定観念を解きほどき、今一度つながるための手がかりとなるかもしれません。
生きとし生けるものすべてが等しく宿している、生のかけがえのなさ。人間社会と自然、日常と幻想の境界を飛び越え、軽やかに行き来する動物たちは生命の連鎖と生の根源的な価値を、私たちに気づかせてくれることでしょう。
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