日常

「棟方志功 祈りと旅」展

2011-02-22 20:22:02 | 芸術
月に一回ほど、土日をすべて潰して仕事で静岡に行っている。

2日間の仕事なのでどっと疲れるけど、帰りすがらに回転すしを食べ、静岡の熱いお茶を飲む。そして、さらについでに、静岡市美術館に絵を見に立ち寄る。
そんなささやかな「コトリップ」(=小さな旅ってことね)は、自分の中のささやかな楽しみ。


静岡市美術館では、いまは「棟方志功 祈りと旅」展をやってる。
とにかく、すごかった。感動した。思わずポスターのようなものも買った。
  

この棟方志功というひとは、ほんとに突き抜けてると思う。 

芸術を呼ぶ名前として、原始美術とか現代アートとか版画とか・・・いろいろな概念があるのだけど、そういう表面上の概念を全部突き抜けてる感じ。 

青森と東北の土地の記憶をすべて背負って、その上でたったひとりの個人で積みあげたような作品群だ。


棟方志功は、目が悪いので、版画に極限まで顔を近づけて製作している様子が有名。
ここの写真にもそういう姿がある。
ユーモラスでもあり、敬虔な祈りのように宗教的でもあり、狂気をも感じてしまう。
棟方志功は、常に多義的な存在だ。岡本太郎のように。



「棟方志功 祈りと旅」展には、ある特定の年代ではなく、若いひともお年寄りも、いろんな年齢層が来ていた。それがとてもよかった。
お経とか仏教的なモチーフも多いから、お年寄りで祈っている人もいた。それがとてもよかった。
こういうものが、芸術の力なのだと思った。 

棟方志功には、女性への底知れぬ愛と優しさがある。 
それは、決して安いフェミニズムでもなく、安いヒューマニズムでもない。
もっと深く深く、生命やいのちの根源そのものにも達する、敬虔で宗教的な境地に近い。
なぜなら、すべての人間は女性から生まれたのだから。
女性が、全ての人間を生んだ。
そういうことへの深い敬意や畏怖の念がある。


・・・・・・・

日本人ではじめてベネチアビエンナーレに出展したとされる「二菩薩 釈迦十大弟子」という大きな版画。テレビでは見た事があったけれど、はじめて本物を見た。
圧倒的で、とても素晴らしいものだった。
そこには、彼独自の宇宙観(コスモロジー)がある。



「青苔日厚(せいたいにっこう)」という書にも目を惹かれた。
正式には
「青苔日厚白無塵」
(=青苔日に厚うして 塵おのづから無し)

というらしい。 
『苔は、目に見えないほど遅いけれど、日に日に厚くなり日々更新されているから、塵が積もるスキもない。』 
千利休が露地(茶室の庭)について聞かれた時の返答の言葉らしい。
棟方志功にもすごく似合う言葉だと思う。
とても好きな言葉になった。

棟方志功の圧倒的なコスモロジーに触れて、何かが自分の中にしっかりと伝わってきた。
まるで種子が植え込まれるように。

鎌倉にある棟方版画美術館は、この巡回展のおかげで今は休館みたい。
青森にある棟方志功記念館も行ってみたい。これでいつか青森に行く理由もできた。


自分も、苔のように地道に地道に、そして真摯にしっかりと生きていきたいと、改めて思ったのでした。

4 コメント

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私も行きました (MY)
2011-03-21 19:45:59
稲葉さん,ブログ上でも,その他でも,大変ごぶさたしてしまいました。静岡に時々いらしていたとは!私は3月末までしか静岡にいないので,もう少し早く知っていれば美味しい静岡のお店にご案内したのに!と残念です。
棟方志功展,私も先日行きました。ちょうど仕事で根詰めていた気持ちがふと途切れて,色々インスピレーションをもらいたくて行ったのですが,本当に期待以上の迫力でした!思わず展覧会の画集を買ってしまいました。
何を見ても,何を読んでも版画になってしまう,という感じでしたね。人生も文学も旅も,すべてがエネルギーとなって版画としてあふれ出てくるような,命を燃やしている…という印象を受けました。
稲葉さんが書かれていたように,女性を描いたものは本当に,その優しさだけでなく,力強さ,逞しさが余すところなく描かれていて,女性としてもぐっとくるような深い愛を感じました。圧倒的な迫力の大作も良かったですが,草野心平とのコラボ作品や東海道棟方版画も良かったです(駿府博物館で東海道五拾三次を一揃い見た後だったので)。
・・・それに,すべてを見終わった後の,歓喜自板図と胡須母寿花頌が言いようもなく温かかくて,なんだか感動してしまいました。
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ほんと素晴らしい展覧会でしたよね! (いなば)
2011-03-22 20:47:07
>>>MYさま
いやはや。なんか音沙汰ないので、まさか静岡にいるとは思いもしませんでした。
いつも、徹夜で働いた後なので、抜け殻のように疲れ果てていますが・・。こんど、そのご飯どころ教えてください。行ければ行きます。
自分は、いつも静岡駅の駅ビルにある「沼津 魚がし鮨 静岡パルシェ店」
で遅い昼ご飯を食べて、いつも大満足で帰っています。
ここは安くてうまいです。

棟方志功展,ほんとよかったですよね。
そんじゃそこらの芸術家をはるかに超えた圧倒的なコスモロジーを感じました。
もっといろんな作品を見たくて見たくてたまらない気持ちにさせてくれました。

ぼくも、見た後はしばし放心状態で、改めて大ファンになってしまいましたよ。
ここまで圧倒的なひとって、いないかもですね。
岡本太郎しかり。
みんな、スケールが小さくなっている気がしますよ。
スケールがでかくてすごい世界観を感じるのは、いまのひとだとアントニオ猪木くらいです。笑

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はじめまして (AI)
2011-03-27 01:18:42
竹内整一先生についての記事でこのブログにこさせていただきました。プロフィールやブログの記事を読ませていただくと、なんだか自分の興味や考え方と重なる部分がある気がして、メッセージ送っています。私はアメリカの大学院の博士課程で植物のゲノム学と育種について研究しています。研究とは別に文学、芸術、思想にも興味があります。もちろん生物にも興味があるので医療の話もすごく好きです。幅広い内容のブログを読ませていただいて、自分の世界観も広がっていくような気がします。これからちょくちょく来させていただきますがよろしくお願いします。
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ありがとうございます。 (いなば)
2011-03-27 23:26:44
>>>>AIさま
はじめまして。
竹内先生の検索でこちらに来られたとコメントに書いてもらったのはお二人目だと思います。
竹内先生、ほんとダンディーで物腰柔らかくてイイ先生なのですが(少林寺拳法もやってるので実は武闘派)、世間的にはみんな竹内先生のことブログに書いていないんですかね。笑
竹内先生からは、いま思うとほんとうに色んなことを学びました。
古典も宗教も思想も、むかしはそれほど興味を持ってなかったのですが、医療の現場で働きつつ、人間の深い領域の場所を考えるにつれ、いかに先人たちがそういう領域(精神と物質や、たましいの問題や・・)を扱っているか、学ぶことが多いと感じています。

植物のゲノム学と育種の研究ですか!すごいですね。
植物はとても興味があります。僕ら動物とは全く違う時間と世界を生きている生きものですから。

以前、人体の中の植物性臓器と動物性臓器に関しても書いたことがあります。
⇒「動物と植物から見た人体」(2010-01-13)
http://bit.ly/g0SUld

植物と昆虫の共生関係も興味あります。蜂の授粉とか、この世界は昆虫と植物との共生の世界から、いかに人間が恩恵を受けているか感じますし・・。


是非今後もブログ遊びに来て下さい。研究の事も色々教えてください。
コメントも残していただいて嬉しいです。ありがとうございました!
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