列島だより
人と環境に優しい稲作
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食料自給率が四割を切り、食べものの安全も心配と「食」をめぐる不安が強まっています。そんな中、山間地で規模は小さくても地域が育てる米作りや、人と環境に優しい米作りをすすめている取り組みがあります。二つの例を紹介します。
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コウノトリとの共生
兵庫・豊岡
環境にやさしい農業を実践する農業者として二〇〇三年に兵庫県からエコファーマーに認定されたのを契機に、「おいしくて安全な米作り」をと専業農家五人で豊岡(とよおか)エコファーマーズを結成しました。折しも、野生のコウノトリの生息地だった豊岡市では、〇五年九月にコウノトリ野生復帰の取り組みとして放鳥を開始する計画で、えさ場として水田の管理が重要なポイントでした。これを米作りと両立させようとする試みでした。
■38年前に絶滅
一九五五年代、水田の圃場(ほじょう)整備や河川改修によって湿田は姿を消し、川と水路が分断され生き物は激減しました。農薬でえさになる生き物はいなくなり、コウノトリの体もむしばまれ、七一年に野生のコウノトリは絶滅しました。
一度絶滅したコウノトリを野生に帰すわけですから、農業を通して多様な生き物を育(はぐく)む農業の方法を模索、実践する必要がありました。農業者は兵庫県、豊岡市をはじめ各機関と連携してコウノトリと共生するために試行錯誤を重ね「コウノトリ育む農法」として環境にやさしい米作りに取り組みはじめました。
そのため、冬には田んぼに水を張り、七月中旬まで水を残し田んぼのなかの生き物を育みます。殺虫剤を使わなくとも、害虫にはカエルやカマキリ、クモ、トンボといった益虫が活躍し、被害を最小限におさえてくれます。
■微生物も大切
現在、コウノトリ育む米作りをしている農家は法人も含めて百十農家、百八十ヘクタールです。当地域の平均的な収量は十アール当たり約八俵、コウノトリ米は五―六俵くらいです。
消費者とのつながりは、量販店や米屋を通して、豊岡エコファーマーでは各々が直接全国の消費者に、また兵庫農民連では遠くは秋田県の米屋にまで及んでいます。消費者のみなさんからは「コウノトリとの共生ができる環境のおかげで、安全で安心できるとともに、大変おいしい」と好評を得ています。
田んぼの中の目に見える生き物だけでなく、微生物やミジンコ、イトミミズなどの大切さ、それを育む田んぼの大切さや可能性に気づきました。まだまだ収量も少なく、害虫の被害もないわけではありませんが、田んぼの面白さを実感しながら、また人間をはじめ生き物にとって良い自然環境とは何かを考えながら楽しい米づくりをしていきたいと思います。(豊岡エコファーマー・田中定)
地域で守る農村風景
宮城・大崎
現在、一般的な米の価格は農業を続けていける価格を大幅に下回っています。このままでは日本の風景だけでなく、暮らしそのものが失われかねません。宮城県大崎(おおさき)市の「鳴子の米プロジェクト」は、県内最北の小さい「鳴子」という地域にこだわり、無理せず鳴子ができることをやろうと地域の力を集めて二〇〇六年に始まりました。
■新品種が誕生
このプロジェクトをモデルにNHK仙台局がドラマ「お米のなみだ」を制作し、放送されました(二〇〇八年)。全国の若者から食や農を考え直したいという大きな反響がありました。
プロジェクトの目標は(1)農を地域全体で考え、農家と地域住民が協力し合う(2)市場経済の価格に合わせるのではなく、作り手の再生産可能な価格を食べ手が支える―です。現在、生産者米価は一俵約一万二千円。それを約十年前の価格の一俵約一万八千円を作り手に保障し、プロジェクト事業や若者の受け入れなどの経費六千円をプラスし、一俵二万四千円で販売することです。
実践行動として、山間地の適地適作の米を探し、「東北181号」に出合いました(新品種登録され「ゆきむすび」と命名)。〇六年に三人三十アールから試験栽培を始め、三年目は三十五人十ヘクタールに広がりました。収穫された六百俵の「ゆきむすび」はプロジェクトが活用する分を除き、地元鳴子をはじめ全国各地の人々にすべて届けられました。地域のお母さん方が五十種類のおむすびを試作したり、くず米の米粉を使って団子屋、パン屋がお菓子やデザートを作り、漆職人やおけ職人が器を作ってくれました。お米から、地域の力で「鳴子ならではの食」になりました。また、暮らしや食文化の聞き取りや「鳴子の米通信」を発行してきました。
お米を農家だけでなく地域のみんなで育てるという、この取り組みに賛同の輪が広がっています。販売を予約のみにしているのも、お米を食べる支え手の“安心して作ってください”という思いと“おいしいお米を届けます”という作り手との「信頼」がプロジェクトの柱にあるからです。
■関心持つ若者
これからの大きい目標は、若者と向き合っていくことです。食や農がどうなるのか、どうしたらいいのかと、鳴子に話を聞きに来る大学生などの若者が多くなりました。希望の持てる思いが、若い人たちの中に芽生えているのを感じます。
そういうきっかけを通して、一人ひとりの気持ちの変化がとても大事なことと思っています。
三年目を迎え、二〇〇八年十月一日に「特定非営利活動法人 鳴子の米プロジェクト」に発展させ、持続できる取り組みへ新しい挑戦を始めました。この鳴子温泉地域で、NPO法人鳴子の米プロジェクトは農と食、地域を大切に、鳴子の田んぼや米作りをあきらめず、じっくり行動していきたいと思います。(大崎市鳴子総合支所観光農政課 安部祐輝)
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コウノトリ 翼を広げると二メートルにもなり、体は白、風切羽とくちばしは黒、目の周りと足が朱色で肉食の鳥です。野生で生息するには里山や田んぼ、川や水路にバッタ、ドジョウ、フナ、カエル、ミミズなど多様で膨大な生き物が生息する自然環境が必要です。
(出所:日本共産党HP 2009年2月16日(月)「しんぶん赤旗」)
農地法等「改正」案についての見解
もうけ本位の農外企業に農地をゆだねるわけにはいかない(下)
日本共産党国会議員団
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企業参入で地域農業は活性化し、耕作放棄地はなくなるか
政府は、耕作放棄の広がりを強調し、「意欲」ある担い手に農地利用を広げれば、解消できるかのようにいいます。しかし、耕作放棄が広がる最大の原因は、輸入自由化や価格暴落の野放し、減反の押しつけなど農家経営を成り立たなくしてきた歴代自民党政府の農政ではありませんか。農地制度に原因を転嫁するのは、無責任な議論です。大多数の農家の「意欲」を奪ってきた農政をそのままにして耕作放棄の解消はありえません。
まして、農外企業の参入で地域農業が活性化するなどというのは幻想です。全国農業会議所が行った農外法人・企業の調査(二〇〇八年八月)によれば、黒字の法人は11%にすぎず、63%が赤字です。〇八年九月の農水省調査では、農業に進出した三十一企業・法人がすでに撤退しています。オムロンやユニクロといった有数の企業が、最先端の農業経営ともてはやされながら数年であえなく撤退したのも、農業の厳しさと企業経営の無責任さを物語るものです。
地域に密着した土建業や食品会社などで、雇用対策や原材料の確保のために農業に進出し、住民の雇用、就業の場の確保などに一定の役割をはたしている例があるのも確かです。しかし、もうけ第一の株式会社が農業に進出するとすれば、耕作放棄地は敬遠し、平場の優良農地に集中し、そこで営農する認定農業者などと競合する形になるのが一般的でしょう。実際にも、企業参入の多くは、施設園芸など「もうけの見込める分野」であり、環境保全の役割が大きいのに収益性の低い水田や畑作では少ないのが現状です。地域の共同の財産として将来にわたっての利用が求められる農地を、目先の利潤追求が第一の農外企業に無制限に“解放”すれば、農業の活性化どころか、農地利用や農村社会に重大な混乱と障害を持ち込むものになるでしょう。
参入意思が真剣ならば道は開けている
財界などは、農外からの参入規制の厳しいことが農業衰退の原因とさかんにいいます。新規参入にとって、資金や技術、住宅の確保などの負担が重いのも確かですが、最大の障害は、現役の農家でさえ続けられない劣悪な経営条件にこそあります。それらを除くために政治や社会が力を尽くすのは当然です。しかし、農地取得に関していえば、個人に求められるのは「みずから農作業に従事する」ことです。農業への参入意欲が真剣なものならば、当然に満たせる条件です。
企業についても、農業生産法人に参加するか、特定法人貸付事業(耕作放棄地の多い地域で自治体とリース契約する)という形ですでにかなり道は開けています。後者の場合、役員の一人が農作業に従事すればよく、個人の参入条件と比べても緩やかです。にもかかわらず、いっそうの規制緩和を迫るのは、農業の振興などより、農業と農地を対象にしたビジネス機会の拡大や農地にたいする大企業支配の自由化にねらいがあるとみないわけにはいきません。
「改正」案は、そうした財界の意向にそったものにほかなりません。
農地の有効利用は大多数の農家経営が成り立ってこそ
食料自給率の回復がまったなしのわが国で、耕作放棄地の解消や農地の有効利用が不可欠であることはいうまでもありません。国土や環境の保全にとっても欠かせません。「改正」案に盛り込まれた農地転用の規制や違法転用への罰則の強化、遊休農地対策の強化などは、そのために必要とされる面もあります。さらに、農業者の高齢化が極端に進むなかで、農外からの新規参入者の確保・定着に社会全体が真剣に取り組むのは当然です。そのなかで、自治体や農協などとともに地域に密着した食品企業などの協力・共同を強めるのも必要でしょう。
国政にいま求められるのは、条件不利地を含めて大小多様な農家が、そこで暮らし続け、安心して農業にはげめる条件を抜本的に整えることです。それと地域の努力が結びついてこそ耕作放棄の解消もすすむのであり、農地をもつ人は「適正に利用する責務」があるなどとするだけでは、問題の解決にはなりません。
日本共産党は、その立場から昨年、農業を国の基幹的生産部門に位置づけ、食料自給率50%台回復を国政の最優先にする農政への転換、価格保障や所得補償の抜本的な充実、輸入自由化ストップなどを柱とする総合的な農業政策「農業再生プラン」を発表しています。その実現をめざしながら、当面する農地問題、農業の担い手対策について、以下の提案をするものです。
●日本農業の担い手は、現在も、将来も、みずから耕作に従事する人と地域に基盤をもつその共同組織を基本にする。農村社会や文化、国土や環境の保全という観点からも、現在の農家戸数を減らさず、できるだけ維持することに努める。
●集落営農や農業生産法人、農作業の受委託組織、NPO法人、農協などさまざまな形で生産や作業を担っている組織も家族経営を補い、共存する組織として支援する。地域に密着し、地場農産物を販売し、または原材料とし、住民の雇用、地域経済の振興にもつながる食品企業なども家族経営を補完する農業の担い手として位置づける。
●農地に関する権利(所有権、貸借権など)は、「耕作者主義」の原則を堅持し、農業生産法人の構成員・役員・事業などの要件は、現行以上に緩和しない。特定法人貸付事業については、地域に基盤を置いた企業に限定し、県外からの参入申請は認めない。
●農地転用の規制を強めるために、病院・学校等の用地だけでなく公共事業用地の多くを転用許可の対象に加える。国土開発政策の一環として制度化された転用許可の例外規定を抜本的に見直す。
●定年後のいきがいや市民農園など小規模な農地取得の希望が広がっている地域に限定して、農地取得の下限面積(現在は原則五十アール)制限を「利用権」に限って緩和できるようにする。
●都会に移転した人や相続により不在村地主となった人の遊休農地・耕作放棄地について、現状より容易に利用権を設定できる制度や事業、農地保有合理化法人による買い取り制度を創設する。
●農地の権利移転や転用、利用状況などについて、農業委員会が的確な判断や監視、必要な指導が可能になるよう、関係予算や体制を抜本的に強化する。(おわり)
(出所:日本共産党HP 2009年4月23日(木)「しんぶん赤旗」)
人と環境に優しい稲作
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食料自給率が四割を切り、食べものの安全も心配と「食」をめぐる不安が強まっています。そんな中、山間地で規模は小さくても地域が育てる米作りや、人と環境に優しい米作りをすすめている取り組みがあります。二つの例を紹介します。
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コウノトリとの共生
兵庫・豊岡
環境にやさしい農業を実践する農業者として二〇〇三年に兵庫県からエコファーマーに認定されたのを契機に、「おいしくて安全な米作り」をと専業農家五人で豊岡(とよおか)エコファーマーズを結成しました。折しも、野生のコウノトリの生息地だった豊岡市では、〇五年九月にコウノトリ野生復帰の取り組みとして放鳥を開始する計画で、えさ場として水田の管理が重要なポイントでした。これを米作りと両立させようとする試みでした。
■38年前に絶滅
一九五五年代、水田の圃場(ほじょう)整備や河川改修によって湿田は姿を消し、川と水路が分断され生き物は激減しました。農薬でえさになる生き物はいなくなり、コウノトリの体もむしばまれ、七一年に野生のコウノトリは絶滅しました。
一度絶滅したコウノトリを野生に帰すわけですから、農業を通して多様な生き物を育(はぐく)む農業の方法を模索、実践する必要がありました。農業者は兵庫県、豊岡市をはじめ各機関と連携してコウノトリと共生するために試行錯誤を重ね「コウノトリ育む農法」として環境にやさしい米作りに取り組みはじめました。
そのため、冬には田んぼに水を張り、七月中旬まで水を残し田んぼのなかの生き物を育みます。殺虫剤を使わなくとも、害虫にはカエルやカマキリ、クモ、トンボといった益虫が活躍し、被害を最小限におさえてくれます。
■微生物も大切
現在、コウノトリ育む米作りをしている農家は法人も含めて百十農家、百八十ヘクタールです。当地域の平均的な収量は十アール当たり約八俵、コウノトリ米は五―六俵くらいです。
消費者とのつながりは、量販店や米屋を通して、豊岡エコファーマーでは各々が直接全国の消費者に、また兵庫農民連では遠くは秋田県の米屋にまで及んでいます。消費者のみなさんからは「コウノトリとの共生ができる環境のおかげで、安全で安心できるとともに、大変おいしい」と好評を得ています。
田んぼの中の目に見える生き物だけでなく、微生物やミジンコ、イトミミズなどの大切さ、それを育む田んぼの大切さや可能性に気づきました。まだまだ収量も少なく、害虫の被害もないわけではありませんが、田んぼの面白さを実感しながら、また人間をはじめ生き物にとって良い自然環境とは何かを考えながら楽しい米づくりをしていきたいと思います。(豊岡エコファーマー・田中定)
地域で守る農村風景
宮城・大崎
現在、一般的な米の価格は農業を続けていける価格を大幅に下回っています。このままでは日本の風景だけでなく、暮らしそのものが失われかねません。宮城県大崎(おおさき)市の「鳴子の米プロジェクト」は、県内最北の小さい「鳴子」という地域にこだわり、無理せず鳴子ができることをやろうと地域の力を集めて二〇〇六年に始まりました。
■新品種が誕生
このプロジェクトをモデルにNHK仙台局がドラマ「お米のなみだ」を制作し、放送されました(二〇〇八年)。全国の若者から食や農を考え直したいという大きな反響がありました。
プロジェクトの目標は(1)農を地域全体で考え、農家と地域住民が協力し合う(2)市場経済の価格に合わせるのではなく、作り手の再生産可能な価格を食べ手が支える―です。現在、生産者米価は一俵約一万二千円。それを約十年前の価格の一俵約一万八千円を作り手に保障し、プロジェクト事業や若者の受け入れなどの経費六千円をプラスし、一俵二万四千円で販売することです。
実践行動として、山間地の適地適作の米を探し、「東北181号」に出合いました(新品種登録され「ゆきむすび」と命名)。〇六年に三人三十アールから試験栽培を始め、三年目は三十五人十ヘクタールに広がりました。収穫された六百俵の「ゆきむすび」はプロジェクトが活用する分を除き、地元鳴子をはじめ全国各地の人々にすべて届けられました。地域のお母さん方が五十種類のおむすびを試作したり、くず米の米粉を使って団子屋、パン屋がお菓子やデザートを作り、漆職人やおけ職人が器を作ってくれました。お米から、地域の力で「鳴子ならではの食」になりました。また、暮らしや食文化の聞き取りや「鳴子の米通信」を発行してきました。
お米を農家だけでなく地域のみんなで育てるという、この取り組みに賛同の輪が広がっています。販売を予約のみにしているのも、お米を食べる支え手の“安心して作ってください”という思いと“おいしいお米を届けます”という作り手との「信頼」がプロジェクトの柱にあるからです。
■関心持つ若者
これからの大きい目標は、若者と向き合っていくことです。食や農がどうなるのか、どうしたらいいのかと、鳴子に話を聞きに来る大学生などの若者が多くなりました。希望の持てる思いが、若い人たちの中に芽生えているのを感じます。
そういうきっかけを通して、一人ひとりの気持ちの変化がとても大事なことと思っています。
三年目を迎え、二〇〇八年十月一日に「特定非営利活動法人 鳴子の米プロジェクト」に発展させ、持続できる取り組みへ新しい挑戦を始めました。この鳴子温泉地域で、NPO法人鳴子の米プロジェクトは農と食、地域を大切に、鳴子の田んぼや米作りをあきらめず、じっくり行動していきたいと思います。(大崎市鳴子総合支所観光農政課 安部祐輝)
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コウノトリ 翼を広げると二メートルにもなり、体は白、風切羽とくちばしは黒、目の周りと足が朱色で肉食の鳥です。野生で生息するには里山や田んぼ、川や水路にバッタ、ドジョウ、フナ、カエル、ミミズなど多様で膨大な生き物が生息する自然環境が必要です。
(出所:日本共産党HP 2009年2月16日(月)「しんぶん赤旗」)
農地法等「改正」案についての見解
もうけ本位の農外企業に農地をゆだねるわけにはいかない(下)
日本共産党国会議員団
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企業参入で地域農業は活性化し、耕作放棄地はなくなるか
政府は、耕作放棄の広がりを強調し、「意欲」ある担い手に農地利用を広げれば、解消できるかのようにいいます。しかし、耕作放棄が広がる最大の原因は、輸入自由化や価格暴落の野放し、減反の押しつけなど農家経営を成り立たなくしてきた歴代自民党政府の農政ではありませんか。農地制度に原因を転嫁するのは、無責任な議論です。大多数の農家の「意欲」を奪ってきた農政をそのままにして耕作放棄の解消はありえません。
まして、農外企業の参入で地域農業が活性化するなどというのは幻想です。全国農業会議所が行った農外法人・企業の調査(二〇〇八年八月)によれば、黒字の法人は11%にすぎず、63%が赤字です。〇八年九月の農水省調査では、農業に進出した三十一企業・法人がすでに撤退しています。オムロンやユニクロといった有数の企業が、最先端の農業経営ともてはやされながら数年であえなく撤退したのも、農業の厳しさと企業経営の無責任さを物語るものです。
地域に密着した土建業や食品会社などで、雇用対策や原材料の確保のために農業に進出し、住民の雇用、就業の場の確保などに一定の役割をはたしている例があるのも確かです。しかし、もうけ第一の株式会社が農業に進出するとすれば、耕作放棄地は敬遠し、平場の優良農地に集中し、そこで営農する認定農業者などと競合する形になるのが一般的でしょう。実際にも、企業参入の多くは、施設園芸など「もうけの見込める分野」であり、環境保全の役割が大きいのに収益性の低い水田や畑作では少ないのが現状です。地域の共同の財産として将来にわたっての利用が求められる農地を、目先の利潤追求が第一の農外企業に無制限に“解放”すれば、農業の活性化どころか、農地利用や農村社会に重大な混乱と障害を持ち込むものになるでしょう。
参入意思が真剣ならば道は開けている
財界などは、農外からの参入規制の厳しいことが農業衰退の原因とさかんにいいます。新規参入にとって、資金や技術、住宅の確保などの負担が重いのも確かですが、最大の障害は、現役の農家でさえ続けられない劣悪な経営条件にこそあります。それらを除くために政治や社会が力を尽くすのは当然です。しかし、農地取得に関していえば、個人に求められるのは「みずから農作業に従事する」ことです。農業への参入意欲が真剣なものならば、当然に満たせる条件です。
企業についても、農業生産法人に参加するか、特定法人貸付事業(耕作放棄地の多い地域で自治体とリース契約する)という形ですでにかなり道は開けています。後者の場合、役員の一人が農作業に従事すればよく、個人の参入条件と比べても緩やかです。にもかかわらず、いっそうの規制緩和を迫るのは、農業の振興などより、農業と農地を対象にしたビジネス機会の拡大や農地にたいする大企業支配の自由化にねらいがあるとみないわけにはいきません。
「改正」案は、そうした財界の意向にそったものにほかなりません。
農地の有効利用は大多数の農家経営が成り立ってこそ
食料自給率の回復がまったなしのわが国で、耕作放棄地の解消や農地の有効利用が不可欠であることはいうまでもありません。国土や環境の保全にとっても欠かせません。「改正」案に盛り込まれた農地転用の規制や違法転用への罰則の強化、遊休農地対策の強化などは、そのために必要とされる面もあります。さらに、農業者の高齢化が極端に進むなかで、農外からの新規参入者の確保・定着に社会全体が真剣に取り組むのは当然です。そのなかで、自治体や農協などとともに地域に密着した食品企業などの協力・共同を強めるのも必要でしょう。
国政にいま求められるのは、条件不利地を含めて大小多様な農家が、そこで暮らし続け、安心して農業にはげめる条件を抜本的に整えることです。それと地域の努力が結びついてこそ耕作放棄の解消もすすむのであり、農地をもつ人は「適正に利用する責務」があるなどとするだけでは、問題の解決にはなりません。
日本共産党は、その立場から昨年、農業を国の基幹的生産部門に位置づけ、食料自給率50%台回復を国政の最優先にする農政への転換、価格保障や所得補償の抜本的な充実、輸入自由化ストップなどを柱とする総合的な農業政策「農業再生プラン」を発表しています。その実現をめざしながら、当面する農地問題、農業の担い手対策について、以下の提案をするものです。
●日本農業の担い手は、現在も、将来も、みずから耕作に従事する人と地域に基盤をもつその共同組織を基本にする。農村社会や文化、国土や環境の保全という観点からも、現在の農家戸数を減らさず、できるだけ維持することに努める。
●集落営農や農業生産法人、農作業の受委託組織、NPO法人、農協などさまざまな形で生産や作業を担っている組織も家族経営を補い、共存する組織として支援する。地域に密着し、地場農産物を販売し、または原材料とし、住民の雇用、地域経済の振興にもつながる食品企業なども家族経営を補完する農業の担い手として位置づける。
●農地に関する権利(所有権、貸借権など)は、「耕作者主義」の原則を堅持し、農業生産法人の構成員・役員・事業などの要件は、現行以上に緩和しない。特定法人貸付事業については、地域に基盤を置いた企業に限定し、県外からの参入申請は認めない。
●農地転用の規制を強めるために、病院・学校等の用地だけでなく公共事業用地の多くを転用許可の対象に加える。国土開発政策の一環として制度化された転用許可の例外規定を抜本的に見直す。
●定年後のいきがいや市民農園など小規模な農地取得の希望が広がっている地域に限定して、農地取得の下限面積(現在は原則五十アール)制限を「利用権」に限って緩和できるようにする。
●都会に移転した人や相続により不在村地主となった人の遊休農地・耕作放棄地について、現状より容易に利用権を設定できる制度や事業、農地保有合理化法人による買い取り制度を創設する。
●農地の権利移転や転用、利用状況などについて、農業委員会が的確な判断や監視、必要な指導が可能になるよう、関係予算や体制を抜本的に強化する。(おわり)
(出所:日本共産党HP 2009年4月23日(木)「しんぶん赤旗」)