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岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

短歌・日本語・斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・社会・歴史について考える

禽獣の死の歌:尾崎左永子の短歌

2022年08月27日 01時37分16秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・禽獣の死は悼(いた)たまるることなくて岩のあひだに骨片乾く「彩紅帖」所収。 禽獣は「鳥や獣の類」。獣の死はだれも悼まずに「骨片」が野ざらしになる。「岩のあひだ」だから、かなり強い語調の作品である。尾崎左永子の作品の特長のひとつは、この強さ、鋭さにある。 かつて僕は、斎藤茂吉の作品を「黒糖」に例え、佐藤佐太郎の作品を「グラニュー糖」に例えたことがある。尾崎左永子の作品は「鋭さ」に特長がある。佐藤佐 . . . 本文を読む

目に見えぬ不安の歌:尾崎左永子の短歌

2022年08月25日 03時34分57秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・透明のゆゑの不安か上層の広き窓よりつづく快晴「彩紅帖」所収。 不安には形がない、目に見えないのだ。心には形がない、それ故、具体的な目に見えるものに仮託するこれが本来の象徴。塚本邦雄のサンボリスムとはここに差異がある。 そこで作者は、目に見えぬ不安を、透明な窓と快晴に仮託している。佐藤佐太郎の「象徴的技法を駆使した写実歌」を引き継いでいる、作者と佐藤佐太郎の違いは「鋭さ」にある。斎藤茂吉が「黒糖の . . . 本文を読む

追憶の夫(つま)の歌:尾崎左永子の短歌

2022年08月23日 17時00分00秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・種子多きみかん食みつつ追憶のゆゑに優しき夫と思わん「彩紅帖」所収。 ここでの夫(つま)は離婚した元夫だろう。「追憶のゆゑ」とあるからだ。離婚は心身ともに疲弊する。僕の知り合いにも離婚に際して嘔吐した人がいる。 苦しく、悔しい思いを抱えながら、追憶(過去の記憶)の中では、「優しいとそう思おう」と作者は言う。「離婚」「元夫」「苦しい」「悔しい」は捨象されている。 上の句の表現に追憶を嚙みしめている作 . . . 本文を読む

内乱の記事を読む歌:尾崎左永子の短歌

2022年08月22日 05時51分48秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・内乱のみじかき記事をよみしがど乾きし砂に花の種蒔く「彩紅帖」所収。 昭和32年から昭和42年までに発表された作品群。刊行は平成2年。「さるびあ街」再刊を機とした歌集だ。第二歌集「土曜日の歌集」の冒頭につなぎの意味でこの時期の作品、80余首を「彩紅帖」として抄録したという。それを拡大して歌集にまとめたのだから、作者には余程こだわりのある作品群なのだろう。 さてこの作品。「内乱」の記事を読んでいる。 . . . 本文を読む

独りの喪・深い悲しみの歌:尾崎左永子の短歌

2022年08月20日 21時58分28秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・冬の苺匙に圧(お)しをり別離よりつづきて永きわが独りの喪 「さるびあ街」所収 自己凝視の深い作品だ。「別離」は「作者の離婚」。「つづきて永き」から忘れ得ぬ悲しみを噛みしめている様子が読み取れる。「わが独りの喪」が作者の孤独を際立たせる。 それを象徴しているのが「冬の苺」と「匙で圧(お)しをり」だ。「悲しみの心」を更に際立たせる。「冬の苺」の寂しさ・冷たさ。「匙で圧(お)しをり」悲しみをブツブツと . . . 本文を読む

堪えがたき心の空白の歌:尾崎左永子の短歌

2022年08月19日 01時30分37秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・悔しまむ罪さへなくて堪へがたきこの空白は夜半につづかむ 「さるびあ街」所収 強い自己凝視作品だ。「悔しまむ」「罪」「堪へへがたき」「空白」とたたみかけられて、作者の限界に近い苦しみを表現して余りある。 「何を悔しむ」「なぜ悔しむ」「原因は何か」これらは全て捨象されている。「捨象」「自己凝視」佐藤佐太郎の技法を引き継いでいるが、佐太郎にはこのように強い表現はない。 そこが作者の独自性だろう。 作風 . . . 本文を読む

われを責むるものを感じる歌:尾崎左永子の短歌

2022年08月17日 23時51分37秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・殻うすき鶏卵を陽に透かしつつ内より吾を責むるもの何 作者は鶏卵を陽に透かしている。今は滅多に見ないが、昭和40年代まではよく見られた場面だ。鶏卵に傷みがあるかを確認するためである。 場所は特定されていない。捨象されているのだ。下の句に「感動の中心」があるので、そこに絞ったのだ。ここに「表現の限定」がある。 「責むるもの何」とあるが、作者は自分で自分を責めているのだ。理由はわからない。読者としては . . . 本文を読む

悲しい夕餉(白き独活)の歌:尾崎左永子の短歌

2022年08月17日 01時20分42秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・悲しみをもちて夕餉に加われば心独りに白き独活食む  「さるびあ街」所収 悲しみの歌だが、まず表現の限定が効いている。「表現の限定」とは余剰の捨象だ。誰との夕餉かが省略されている。場所も省略されている。つまり「悲しみ」という感動の中心が一点に絞られているのだ。佐藤佐太郎の「純粋短歌論」の核心。 次に象徴性が効いている。「夕餉」「白き独活」これが、感動の中心を際立たせている。「昼餉」や「大根」と入れ . . . 本文を読む

反響のない草原・孤独の歌::尾崎左永子の短歌

2022年08月16日 02時19分32秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・反響のなき草原に佇つごときかかる明るさを孤独といふや 「さるびあ街」所収。歌意に難解なところはない。注目すべきは、上の句の比喩。「ごとき」を使用した直喩だが、比喩の独自性が際立っている。 孤独の心情を形容するのに「反響のなき草原」で始まり、「佇つごとく」と続く。「佇つ」は「佇む」の漢字を使用しているが「まつ」と読ませるようだ。では作者ま何を「まつ」のか。そこは読者にゆだねられるが「現在の孤独とは . . . 本文を読む

辛夷のつぼみの歌:尾崎左永子の短歌

2022年08月13日 21時42分02秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・あらあらしき春の疾風(はやち)や夜白く辛夷のつぼみふくらみぬべし「さるびあ街」所収。先ずは歌意から。「あらあらしい春の強い風が吹いている。そういう夜に辛夷の蕾はきっと膨らみつつあるのだろう」 この歌集は作者が結婚に失敗して離婚した時期の心情をテーマにしている。一首から感じ取られるものは、「深い悲しみと、めげまいとする心の強さ」。 作品中の「あらあらしき」「春の疾風」「夜」が波乱のなかでの深い悲し . . . 本文を読む

生きる意味の歌:尾崎左永子の短歌

2022年01月26日 23時16分44秒 | 尾崎左永子(長澤一作・川島喜代詩)の短歌を読む
・生くるとは己の意思の外にある大いなる流れと思う他なし                         「星座α」27号より 何のために生きるのか。僕の高校時代に倫理社会でアンケートを実施していた上級生がいた。僕はそのアンケートにこう答えた。 「人間の何のために生きるのか。そんなものに結論はない。寿命まで生きて、死後に明らかになるものだ。生きた結果で初めてわかるものだ。」と。 しかしそ . . . 本文を読む