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イマを見つめて
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映画『靖国』は何を伝えられるか?

2008年04月04日 16時48分00秒 | 政治
李纓(リ・イン)とかいう中国人の映画監督が撮った『靖国 YASUKUNI』とかいう映画が上映中止騒動などで注目されている。なんでも10年間に渡って撮影した映像をナレーションなど一切加えずに淡々と見せ続ける内容らしい。というとしっかりしたドキュメンタリー映画のように思えるが、事実を見せることが必ずしも真実を伝えることではない。チベット騒乱で中国国営テレビは、投石して窓ガラスを割るチベット人や警官隊に殴りかかる暴徒の群れなどの映像を淡々と流し続ける。それも事実であるが真実ではない。

靖国の風景をただ見せられたところで、そこから真実を見出せる人間がどれほどいるのか疑問だ。そもそも「なんで靖国神社に戦犯を祀っちゃったの?そんなことしたからややこしくなる」と意見を持つ日本人すら多い。大切なのは正しい情報を元に靖国問題を考えてもらうことである。


第二次世界大戦に日本が参戦して降伏したこと。ここまでは説明不要だろう。戦争が終われば「戦後処理」という問題が生じる。一般の犯罪であっても解決は、原因を究明して犯人を裁いて終わる。戦争も同様。そこで極東軍事裁判(通称・東京裁判)が開かれる。戦争はそれぞれの国の事情によって起こる。簡単に言えば国のエゴだ。開戦時は、どこも「自分たちが正当」という。思想や主義が違うのだから同じモノサシで計ることがそもそも不可能だ。結局は勝った側の主張が正しく、敗れた側が間違っていたと決着するしかない。湾岸戦争だってイラク戦争だってそうだ。フセインは処刑されたがブッシュは何の罪にも問われない。
東京裁判によって日本側の戦争犯罪者が裁かれた。ここで最初の誤解が多い。A級・B級・C級を「罪の重さ」と思っている人が意外に多い。「死刑・無期懲役・有期懲役」みたいに……。A級・B級・C級とは、そういう区分ではなく罪状の区分である。簡単にいうと「どんな罪か」の区別。だからA級戦犯で死刑を間逃れた人物もいるし、B級C級で死刑になった人もいる。
A級戦犯とは「戦争を計画・準備・実行した罪」、B級とは「戦争時における指導的な役割を果たした罪」C級とは「戦争で非人道的な行為をした罪」である。会社に例えると解りやすい。会社が違法行為をしたとする。すると会社の方針を決めて経営していた社長や重役がA級戦犯だ。現場でその指示を部下に伝えて実行させた課長や係長がB級戦犯、上司に命令されて実行した平社員がC級戦犯となる。
日本が「私が悪うございました。悪いことをしたヤツラは全部、処分いたしました」ってオトシマエを付けて国際社会に復帰した。ここで、とりあえず戦後処理の幕が閉じる。

しかし、やがて国内で問題が生じる。息子などを徴兵されて戦死させられた遺族。彼らには「国が子供を奪って殺した」ということで遺族年金や恩給が支払われた。戦争がなければ子供に老後の面倒を看てもらえたのに、その子供を国が奪ってしまったのだから当然だ。だが戦犯として処刑された兵士には、そういう補償は一切ない。犯罪者だから当たり前だ。たとえば殺人で死刑にされた犯人がいたとする。その犯人の家族に「犯人を殺したのは国ですから、年金を補償します」なんてバカなことはない。だが戦犯と戦死者の場合は微妙だ。全く同じ行動を取っていながら、戦争中に戦死した者には遺族年金が支払われる、生き延びて後に裁かれた者には支払われない。「戦死してれば得」――そんな馬鹿げた話はない。
そこで昭和28年、国会である決議が成される。「外国の裁判によって裁かれた者と国内の裁判によって裁かれた者を区別する」という内容。今でいえばアメリカが「三浦和義は日本の裁判で無罪とはなったが、アメリカで裁判されていないから、アメリカでの罪はこれから決める」というのと似たようなもの。
A級戦犯・B級戦犯・C級戦犯は外国が行った裁判で裁かれた者であるから、日本の裁判で下された罪とはちがう――ということだ。これによって戦犯の遺族にも補償が可能になった。
そして、これに反応したのが靖国神社。「あっ、戦犯は犯罪者じゃないんだ。ならば戦死者として祀りましょう」というわけ。かくして戦犯の合祀が実行された。

以上のことから解るように、遺族保護というのは国が果たすべき責任であり、そのネックとなっていたのが「戦犯」というレッテルだった訳で、それを解消するために行った国会決議がこの問題の発端となってしまっているのです。いつもの「政治的決断」ってやつの一種ですね。政治家の本音は「他に方法がなかったから、戦犯は国内犯とは区別するって見解を示したけど、だからといって何も合祀しなくてイイじゃん。空気読んでよ靖国神社さん」という感じか? しかし靖国神社側としても「戦没者を慰霊するのが目的なんだから祀っても問題ないとされた御魂を放置しておけない」って理屈でしょう。

ともかく、この問題は単に軍服で参拝したり、日の丸の燃やす暴徒などの映像を延々と見せられても何の問題解決にもならないし、そもそも真実を伝える意味さえほとんどないと感じる次第です。

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