ニッポン男子レスリングをバカにするなかれ

　先日コペンハーゲンで行われたIOC総会で2016年の五輪に立候補した
東京だったが、2度目の投票で落選という形になった。

　ところで東京開催を熱望していた都知事は意外にスポーツ音痴で、かつて
4場所連続休場明けに大鵬に勝って全勝優勝した一番を八百長呼ばわり
した事は有名だが、北京五輪の後に
‘女子レスリングはすばらしい、それにくらべて男子は ふがいない'
と男子レスリングを酷評するコメントをした事がある。

　コメントの理由が女子は実施された4階級で金2・銀1・銅1と全階級でメダル
を獲得したのに対し男子はグレコ・フリー全14 階級で出場権を獲得したのが
3階級づつで銀1・銅1だったというもの。

　しかし このコメントこそレスリングに対する

認識のなさを露呈しているのだ。

　よく言われるのが日本の男子レスリングは52年のヘルシンキ大会以来
ボイコットしたモスクワを除いて14大会連続でメダルを獲得しているし、その
内訳は戦後でいうと金20・銀15・銅12個の計47個となる。 　

　最高が東京大会で金を5個取っているのだが、最近はメダル1個を取る
のに奮闘している感が強い。

　最大の理由が底辺の広さ。

　五輪競技で格闘技系はレスリング以外では柔道とボクシングがメジャー
だが、世界各国に自前の格闘技が存在する中でレスリングが最も適応しや
すく経費がかからないので発展途上国でも強化に力を入れやすい。

　しかも黄金時代のライバルである旧ソ連が分裂したのでレベルの高い国が
大幅に増えているし、昔は1カ国1階級エントリーできていたがシドニー
あたりから参加国が増えすぎたため1階級に20カ国ぐらいに枠が減っている。

 　更に60年代まで10階級だったのが97年から8階級に、02年からは 7階級
に減っているので日本が得意だった軽量級も階級が減っているのだ。

　しかもアジアは もともと韓国など東アジアだけでなくインドやパキスタンの
南アジア勢にイランなどの中東勢も強く、更にソ連の分裂で中央アジアに
位置するウズベキスタンやキルギスタンなどの強豪が集結しているので出場
権を確保するだけでも大変なのだ。

　さらに追い討ちをかけるのがルール変更。
　巷では‘日本が強くなるとルールが変わる’という声をよく聞くが、レスリン
グは毎回のように試合形式が変わるケースが多くメダルを量産していた
東京やメキシコの頃とは事情が違う。

　そんな中で毎回メダルを確保しているのだからルール変更にもしっかり
対処できている証拠だし よく健闘しているのが分かるだろう。

　ちなみに女子レスリングは世界的に歴史が浅く日本が先立って女子の
五輪種目入りを見越して早めに強化をしているのが実を結んでいるが、
五輪の正式種目になったという事で各国が本格的に力をいれてきている
ので油断はならない。

　そういう事情も省みずに結果だけ見て
‘女子レスリングはすばらしいが、男子は ふがいない'などと
言う事は、これこそ恥ずべき事だと思う。