丸刈り騒動

　高1の1学期の期末テストが終るといよいよ夏の大会が
迫ってくる。
　連日行われる練習も厳しさを増すのだが、この時期に
我々が1年の時まで行われていた妙な行事があった。
　それは1年の髪を3年生が1枚刈りにするのである。
　通常期末テスト終了時期は、まだまだ梅雨明けして
おらず雨で練習が室内練習になるケースが必ずある。
　そこで行われるのが1年の断髪式だ。

　部員の1人が市販のバリカンを持ってきて3年生が1年生
の頭を1枚（2ミリ）に刈るのだが、我々が1年の年は3年
生が3人だったのに1年生は13人いたのだ。
　3年生が1人で4人はカットする事になる。

　ご存知のように床屋の息子の私など家で刈ればいいの
だが、そうはいかない。
　‘3年が1年をカットする事によって団結心が養われる’
というワケの分らない迷信としか思えない伝統行事だった
のだ。

　たださすがに1枚刈りは、みんな嫌なので‘オレは後で
いい’などと言って後回しにしてもらう者が多い。
　私など真っ先にやってもらったのだが、後回しになった
連中は後から酷い目に遭ったのだ。

　というのも1人で4人ほどカットするのだから、最初は
真面目にカットしていてもだんだん退屈してくる。
　そこで恐怖の遊びが始まるのだ。

　前からツムジの部分のみを刈られ、武士の月代のように
される者やモヒカンにされる者。
　また同じモヒカンでも真ん中のみを細く残されウルトラ
マンのようにされたり、右半分だけ刈られて‘キカイダー’
にされる者。反対に周りだけ刈られ御わんを被せたように
され‘ハカイダー’と呼ばれる者もいた。

　悲惨なのが一旦そこでカットを中断し‘帽子を被らずに
職員室に行って来い’とか‘外の店に行ってジュースを買っ
て来い’などとパシリをやらされるのだ。
　当然帽子を被って行くと修正してもらえないから‘お遊び
スタイル’に刈られた連中は、泣く泣くパシリに行くハメに
なる。
また先生方も‘今年も始まったか’という感じで笑われても、
怒られた記憶はない。
　1枚刈りをするとアンダーシャツやTシャツを脱ぐ時に
引っかかるのが難点だ。

　ただこの伝統は2年の時には3年まで全員が1枚刈りにした
のでこの行事は行われず、3年になった時はバカバカしくて
止めてしまった。
　それ以降この行事があったという話は聞かない。