ベテランのキャリアを侮るなかれ!

 今週の日曜に行われるWBCフライ級タイトルマッチの内藤大助-亀田
興毅戦だが某スポーツ紙の記者によると ‘ボクシング関係者のほとんどが
亀田有利と予想している’との事。

 これを聞いて‘だから日本のボクシングの世界戦の勝率が悪いのか’と
思った。
 つまり日本の関係者やマスコミは内藤を‘35歳だから年齢的に衰えている’
と捉え、亀田には‘若さと勢いがある’と考えているのだろう。

 しかし内藤にあって亀田にないのがキャリアだ。

 内藤は これまで40戦を戦い日本のトップ選手と軒並み戦って負けはなく、
元WBAフライ級王者の坂田健史と引き分けたのみ。 

 それに対し亀田の相手は(特にWBAのLフライ級タイトルを返上後は)噛
ませ犬と言われても仕方ない選手が ほとんどで、どこまでレベルアップして
いるか疑わしい。

  実は修羅場でモノを言うのが戦い方の引き出しの多さ。
 これは強敵と戦ってのみ得られるもので、噛ませ犬のような楽な相手と
何試合戦っても得られるものではない。

  96年3月に辰吉丈一郎が従来のバンタムから1階級上げてSバンタム級
王者のダニエル・サラゴサに挑戦した試合を思い出して欲しい。
 試合前の予想は若さとスピードがある辰吉が断然有利と言われ、サラ
ゴサに関しては‘39歳だしパンチ力もない’という評価だった。

 だから試合前から楽勝ムードだったが、実は辰吉はサウスポーとの対戦
経験がなくサラゴサは変則のサウスポーだったためパンチ力がないとはいえ
サラゴサのパンチを避け損ね被弾を重ね最後は目からの出血でストップ
負けを喫した。

 つまりサラゴサのキャリアから来る戦い方の引き出しの多さが
若いとはいえ15戦のキャリアしかない辰吉を圧倒したのだ。

 他にもレオ・ガメス-八尋史朗やウィルフレッド・バスケス-葛西裕一など
若さとスピード&パワーで勝ると思われていた日本人が 30歳以上のベテ
ランの老獪な戦略にまんまとはまって完敗した試合を多々見てきている。

 ベテランでパンチ力がない選手を日本の関係者は‘勝てる’と考えて呼び
寄せて若く勢いのある選手を挑戦させようとするが、ほとんどの場合 痛い
目に遭っているのに未だに気付かないのだろうか?

 元世界王者だった某ジム会長が‘ボクシングは20代までしかやれない’
などと言っていたが、正直言って この会長は肉を切らせて骨を絶つスタイ
ルだったので30歳前に引退している。 

 しかし越本隆志のように打たれないボクシングをして35歳で世界を取った
選手も出てきているし、今や世界的には30歳を越えて強くなる選手は多い。

 つまり打たせないボクシングをすれば長持ちするのだが、打たせない
スタイルを‘消極的だ’と批判しがちなのが日本のボクシング界でありマス
コミだ。

  打たせない=長持ちする=キャリアが長いという連鎖があるのを無視
して、若さと勢いやパワーなどのみを拠り所にするのは時代遅れだと思
うのだ。 

 やはり どんな競技でも強敵と鎬を削ったキャリアほど
凄い武器はないのだから! 

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
同感です (吉法師)
2009-11-28 00:31:54
サラゴサvs辰吉(1)で思い出すのは、1R開始30秒頃にサラゴサが放ったフェイント→いきなりの左ストレートの先制攻撃です。サラゴサはこの一撃で「見切りと勘でパンチをかわす」辰吉のディフェンスを機能不全に陥らせ、あとはどこから、どのタイミングでくるのかが予測しづらい、変則的なフック系パンチで辰吉をズタズタに切り裂いてしまいましたね。

若さと勢い、と言いますが、言い換えると亀田に利がありそうな事を探しても「それしか無い(かなり贔屓目に見ても)」と言うのが現実なのかもしれません。確かに体力はあるのでしょうが、それがボクシングの力量に結びつくモノなのか?となるとかなり疑問があります。

かつてカーン博士が白井義男さんを指導する時に留意していたのは「軟らかくしなやかに動き、スピードを損なわない筋肉を作る」事だったと言います。過度に負荷をかけるトレーニングはせず、ボクシングに必要な動きを想定した運動を行う、充分にウォームアップを行なう、ロープスキッピングもゆっくりと回数を多めに行う事で、持久力と柔軟性を付けさせるようにする、気温の低い早朝のロードワークは行わず、日が高く登った午前中に、これもゆったりしたスピードで一時間ほどのロードワークを行わせる、パンチを打つ時にに博士が両手の指で作る輪を移動させ、それを正確に打ちぬく(カス・ダマトがマイク・タイソンを指導しる際に使った“ナンバーシステム”と酷似)など。現在の目で見ても実に科学的かつ合理的なトレーニング内容だと思います。しかもフライ級のみならず、一階級上のバンタム級でも日本チャンピオンになるなど、一回り大きい対戦相手にも挑み、勝利しています。白井さんがカーン博士に指導を受け始めたのは23歳の時からで、チャンピオンになったのは28歳、チャンピオンから陥落し、最終的に引退したのは31歳。当時の日本人ボクサーとしては、異例な選手寿命の長さだったのは、カーン博士の合理的かつ科学的な指導の賜物と言うべきでしょう。

対して、亀田一家の行っているトレーニングをTVなどの映像で見た限りでは「歯を喰いしばって、力をかけ続ける」無酸素運動系のトレーニングが多いように感じます。これだとボディービルや重量挙げなどの競技には良いが、スピード+持久力+しなるような滑らかさ、が要求される現代のボクシングには向いていないように思えるのです。
よくこの一家を評して「今までに無い新しいやり方を実践している」という論評がありますが、実の所、かつて他の誰かがすでにやっていた事の焼き直しがほとんどのように思います。例のガードを固め、体ごと相手を押して行く「亀ガード」にしても、ウィービング・ボビングをせず、攻防が分離した横着なピーカブースタイルの劣化コピーだと、私には思えるんです。

内藤が行っているトレーニング内容を見ると、スピードの変化をつけたランニングと階段ダッシュ等の組み合わせで、持久力とスピードを養い、サンドバックを叩く際に、横からトレーナーが押してバランスを崩しそうになる状態でも、パンチを正確に打つ練習など、実戦的かつ合理的な内容だと思います。その動き、パンチのモーションなど、どことなくですが、ダニエル・サラゴサを連想する物がありますね。

思い通りに動いてくれない相手と戦い、かつそれを想定した練習の内容(内藤陣営)と、自分よりも体格が劣り、体力だけで押し切れる相手と主に戦い、様々な戦術を取る相手を想定しない、いわば一人よがりな練習の為、とも言える練習内容(亀田陣営)の差が如実に現れる試合内容、そして結果になるであろう。そう思いますし、そうなって貰わないと困る、切実にそう思います。
 
 
 
マスコミの不見識が (こーじ)
2009-11-28 23:48:53
>吉法師様
 まったくマスコミの不見識が露呈している感じですよね。
 若さと勢いだけならベテランは勝てないという事になりますし、亀田のような筋肉を付ければ却ってストレートパンチが打ちづらいという事になります。

 ボクサーはボディビルダーではないのですから、特に軽量級は減量との兼ね合いもありますのでね。

 亀田的な発想では体を大きくして圧倒するという考えでしょうが、そうなると減量が余計にきつくなるだけだと思いますけど。
 
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