草むしりしながら

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草むしり作「ヨモちゃんと僕」前24

2019-07-30 08:55:46 | 草むしり作「ヨモちゃんと僕」
草むしり作「ヨモちゃんと僕」前24

(春)イノシシ母さんとウリ坊たち④

 思ったよりも早く雨が降り始め、僕のつけておいた匂いを洗い流してしまいました。まっすぐな一本道だと思っていたのですが、ところどころに脇道があり、思ったよりも複雑で何度も道に迷いかけました。でも家にいるお母さんのことを考えると、脚が自然に家に向かっていきました。雨はしだいに激しくなり、家の明かりが見えたころには、僕は体の芯まで濡れて泥だらけになっていました。

「お母さん開けて」
 勝手口のドアが開いて、ヨモちゃんが飛び出してきました。
「あんた、いったいどこ行っていたの」
 いきなりヨモちゃんのパンチが鼻先をかすめました。
「おおっ、帰って来たか。なんだ、ずぶ濡れじゃなか。お母さん、タオル、タオル」
「ああ、フサオ、心配したのよ。泥だらけになって、いったいどこに行っていたの。わぁ、臭い。シャンプーしないとだめだわ」
「ああダメダメ。先になんか食わしてやろうよ。缶詰あっただろう」
「お父さん、ヨモギにも缶詰ちょうだい」
「でもこの子、臭いわよ。シャンプーが先よ」
「ああ、あぁ。ヨモギまで泥んこになっちゃった。シャンプーしてやらないと」
「ヨモギ、シャンプー嫌い」
 ヨモちゃんが逃げていきました。

 僕はお風呂でジャブジャブと洗われてしまいました。イノシシの親子の匂が消えてしまって残念でしたが、きれいになってとても気持ちがよくなりました。そのうえ缶詰はおいしいし、部屋の中はストーブが赤々燃えていてとても暖かでした。

「お父さん開けて」
 ヨモちゃんが勝手口のドアの前で、可愛い声で鳴きました。缶詰は半分しかまだ食べていないのに。もう外に行きたいようです。
「ヨモギ、今夜は雨が降っているから駄目だよ。それにほらさっき猟師さんが罠を仕掛けていっただろう。間違えて罠に掛かったら大変だろう。今夜はおとなしく家にいなさい」
「つまんないの」
「この缶詰食べないンだったら、ぼくが貰っていい」
「後で食べるから駄目」
「いただきます」
「また缶詰食べられた。カリカリの方も湿気ちゃったから食べていいわよ」
「やったー、いただきます」
「よくそんなの食べられるわね。クニャクニャしていておいしくないでしょうに」
「そのクニャクニャしたところがおいしんでしょう」
「あんたが来てから嫌なことばっかりだけど、湿気たカリカリ食べなくて済むから助かるわ」
 ヨモちゃんは皮肉っぽい言い方をして、二階に上がっていきました。
「僕がいなくて寂しかったって、正直に言えばいいのに」
「いいえ、せいせいしていました。バッカじゃないの」
 二階からヨモちゃんの声が聞こえました。

「バッカじゃないの。か……」女の子ってみんなああ言うんだなぁ。
「あらあら眠くなったのね。大冒険の後だもの、眠くもなるわ。ゆっくりお休みなさい」
 大きな欠伸をした僕を見て、お母さんはすぐに納戸部屋に連れて行ってくれました。納戸部屋の寝床の中はポカポカしていました。シャンプーの後なので、風邪をひかないようにとお母さんが湯たんぽを入れてくれたようです。

「お母さん、あのね……」
  お母さんにいっぱい話すことがあったのに、寝床の中に入ったとたんに急に意識が薄れていきました。「三本脚」「罠を壊された」断片的に聞こえていた父さんとお母さんの話声が、だんだんと遠くになり、僕はそのまま深い眠りに落ちていきました。


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