生前父は母のする家事に対しては、いっさい小言は言わなかった。しかしその時代の人らしく、自ら台所に立ったり箒を握ったりはまったくしなかった。それでも私がまだ小さかった頃には、父でなければならない台所仕事の一つや二つはあった。
川で捕ってきた鰻をさばくのもそんな仕事の一つで、母には絶対手を出させなかった。素手ではなかなか掴むことのできない鰻をカボチャの葉の裏側で包んで握り締めると、まな板の上に思い切り打ち付ける。鰻がショックでのびてしまったところに、すかさず頭にキリを刺し固定させる。
包丁の先を鉛筆で字を書く時のように握り、左手でカボチャの葉を被せた鰻を押さえつけながらゆっくりと用心深く背中から開いていく。骨と身を切り離すときに、黒い鰻の中の透き通った白い身に血が針の先ほどにじみ出て、それでも鰻は逃げようと身をくねらせる。子供心にも、命の力強さを見たような気がした。
家族の笑顔と大げさなくらい真剣な父の顔が、七輪から立ちのぼる煙の向こうに見え隠れする。戻りたくても戻れない、懐かしいあの時代。
「カボチャ葉の裏側のある小さなとげが、滑り止めの役目をするのよ」と、あの時はまだ家族の一員だった叔母から教わったのは、つい最近のことだった。
川で捕ってきた鰻をさばくのもそんな仕事の一つで、母には絶対手を出させなかった。素手ではなかなか掴むことのできない鰻をカボチャの葉の裏側で包んで握り締めると、まな板の上に思い切り打ち付ける。鰻がショックでのびてしまったところに、すかさず頭にキリを刺し固定させる。
包丁の先を鉛筆で字を書く時のように握り、左手でカボチャの葉を被せた鰻を押さえつけながらゆっくりと用心深く背中から開いていく。骨と身を切り離すときに、黒い鰻の中の透き通った白い身に血が針の先ほどにじみ出て、それでも鰻は逃げようと身をくねらせる。子供心にも、命の力強さを見たような気がした。
家族の笑顔と大げさなくらい真剣な父の顔が、七輪から立ちのぼる煙の向こうに見え隠れする。戻りたくても戻れない、懐かしいあの時代。
「カボチャ葉の裏側のある小さなとげが、滑り止めの役目をするのよ」と、あの時はまだ家族の一員だった叔母から教わったのは、つい最近のことだった。
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