寂しい突然のお別れ 赤湯温泉 山口館と苗場山
のつづき
子供たちも頑張って、苗場山に登頂した。
コースタイム通りの順調さだった。朝の6:40から歩き始めて
(直前に計画しすぎてタクシーがそれより早く予約できなかったの)
11:30に山頂だった。
山頂でのお楽しみはカップラーメン
先はまだまだ長いので30分後に出発。
下りの
昌次新道のほうは誰もいなく、
平坦な山頂の湿地帯のあと、急にがくんと
下り坂があって、広がる視界に山々の尾根と谷がまだらに紅葉しているのが
とってもテンション上がった。
なんか玄人好みみたいな道で。
静かで、深い。
バッタがたくさんいて、わたしたちが歩くと
ぴょんぴょん横にはねて逃げてた。
子供たちは毎年、キノコ(毒キノコ、笑)をとりながら
歩くの。これを温泉の湯(外に流れ出てるお湯)のところで
ゆでて遊ぶのが好きなの・・・
さるのこしかけは固すぎてびくともしない
大木に力をもらいながら。
本当に長かった。
下りきっても、最後に心臓破りの登りがまた出てきたり。
子供たちには忍耐のいるコースだったわ。
繰り返すけど、登りに四時間半、下りは五時間だったの。
みんなにスーパー小学生だって褒められたよ。
最後やっと、川沿いに出て、建物が早く見えないかと
待ち遠しかった。
当然、お兄さんが笑顔で出てきてくれると思っていた。
出迎えてくれたのは若いお姉さんだった。
そのときはまだ、到着した喜びで、わーーきゃーーおつかれーーって
ハイタッチなどしていた。
外にいた別のお客さんたちとも笑顔で話していた。
お姉さんに、わたし
「お兄さんは?」
と聞くと、「いないんです」って。
わたし
ええええええええっ、いらっしゃらないの?
信じられないっ。
(わたしたちが来るのにいないってどういうこと?という感じで)
次に厨房でご飯の支度をしていらっしゃったお父さんにごあいさつ。
なんだか後ろ姿からして、瞬間的に元気ないなあって思ったの。
「今年も子供たち連れてきました、よろしくお願いします」
て、言っても、お父さんは、なんだか「あぁ・・・」ってあまり気がないふう、に感じた。
「今日お兄さんいないんですってね」ってわたしが言うと、
「ジュンはなあ、この六月に死んでしまったんだよー」
って。
それを聞いたときのわたしは、きょとんとして
死ぬって言葉の意味を考えていた。
死んでしまうって、なんか別の意味なのか・・・て。
「くも膜下出血で突然死んじまった」て。
お姉さんの顔を見たら、お姉さんがすーって涙をこぼされて、
うなずいていた。
わたしも意味がわかって、
そんな悲しい現実を受け止めなければいけない重さを
パンチのように味わった。
六月のその日、
昼にここで別れて、お父さんは下りられたらしいの。そのときが最後で。
夜の無線にも朝の無線にも応答がなく、
これは何かあったな、と翌日、お父さんは登ってこられたらしいの。
車の入らないこの、秘湯の宿。
いつもの山道が、お父さんにはどれほど長く感じられただろう。
ジュンさんは、倒れて冷たくなられていたそう。
そんなことがあるんだろうか、と。
あんなにお元気だったのに。
先に温泉に入っていた子供たちとありちゃんを追って
わたしもいった。
そして子供たちに伝えた。
子供たちも言葉を失った。
だから、この日の宿泊は
寂しくて、なんかいつもと違いすぎて、ぼんやりしてた。
お父さんは子供たちにも
「みんなの大好きなお兄さんは死んでしまったんだよー」って。
こどもたちは
黙って寂しい顔だった。
あとのはーたんの日記を読むと
『いつもピザやカレーを作ってくれたり、遊んでくれたお兄さんが亡くなったそうです。
くもまっか出血だったらしいです。
とても悲しくなりました。山口館に入ったときから空気がなんかいつもと違ってドヨーンとした感じでした』
と書いていた。
わたしが初めてひとりで仕事の下見できたとき、
昼間にお兄さんが本を読みながらここにいらっしゃった。
世の中の騒がしく忙しい都会の生活とかけはなれた
静かな山の中の一軒宿。
大学を出てからここをつぐと決めたらしく、
笑顔で気さくな親切な方で、わたしは彼の人生を聞いたりして
こんなところが帰る場所なんて羨ましいなって思ってた。
小さいころには、外の湧き出る温泉の中で、おむつのウンチなどを
洗いながしてもらっていたそう。
なんて豊かなんだと思ってね。
だから、こどもたちを連れてきたいなあって思ったの。
電気のない生活、天然のお湯が沸きだす場所。
歩かないといけないところ。虫がたくさんいるところ。
お兄さんには彼女もいて来年にはご結婚の予定だった。
32歳だったそう。
ぽつりぽつり、話しながら、とってもとっても、寂しかった。
でも、お父さん
「また成長を見せに来て」って言ってくださった。
子供たちもまた来たいって言ってた。(苗場山には登らずにただ、宿に行きたいらしい)
翌日は雨だった。ずーっと雨だった。
去年より何倍も子供たちはよく歩くようになっている。
最初に休憩を取った場所まで、去年までは何度も立ち止まっていたのを覚えている。
雨で登りは蒸し暑かったり、
そのあとは冷えたり、いろんなことを体感した。
車まで約四時間、歩ききった。
大きなカエル
今回の旅では
美しい山の景色と、土のにおい、長い歩きの大変なことと、達成感だけではなく、
お別れの悲しみを味わった。
どれもこれも、生きてるってこういうことなんだ、って
私の中にも刻まれる。