tyokutaka

タイトルは、私の名前の音読みで、小さい頃、ある方が見事に間違って発音したところからいただきました。

Quark X Pressの斜陽

2008年09月16日 20時17分40秒 | DTP/Web


時間が出来たので、いろいろと身辺整理を行っている。
技術としてある程度持っていても、もはや使うことの無いDTPやWeb。
こういった関連に手を付け出した。とは言っても、パソコン関係の本だが。

ほんとうに自分にとって重要なもの、既に手に入れたものを大事にしたいから、捨てなければならないものがあるとしたら、今はこうしたものだ。

一時期は血道をあげて、パソコン関連の勉強をしたり、試験を受けようとした。
そんな時代、本気で欲しかったソフトがあった。Quark X Pressと呼ばれるレイアウトソフトだ。

Quarkは日本語に対応した3.3から4.1を通り、MacOS10に対応した6.1や6.5にバージョンアップを行い、どうやらこの8月の後半に8.0へと進化したらしい。

私がスクールに通って勉強したのはInDesignであった。「これからはInDesignですよ」とスクールの担当者も言っていた。2003年のことである。しかし、まだ当時、Quarkが幅を利かせていた。そのバージョンも3.3や4.1である。だから、仕事で指定されたら、使えないと困る。というよりも、仕事にありつけるかどうかわからない。

ただ、Quarkは一台30万円近くするソフトだった。たしかにコストパフォーマンス的には、InDesignの新規、9万円の方が良い。

こんなもの買えない。

だが、かえって欲しくなった。たかだかソフトにである。その代わりに、古本屋でQuark関連の参考書を見るたびに、買っていた。ある意味、上っ面の記号を消費していたのだ。その参考書にはCD-ROMが付いていて、評価版と呼ばれるソフトが付いている。

これを使って練習するが、保存は出来ないのはともかく、印刷もまともに出来ないのは参った。しかしわたしのなかのQuark信仰は深かった。

2004年10月、Quark X Pressは6.1へバージョンアップした。
翌月11月17日、私は大阪心斎橋のApple Storeで行われた新型Quark X Pressのデモイベントに参加した。
だが、同じ頃、奈良では女児誘拐と殺人事件が起こった。

しかし、高かった。確か当時、28万円はしていたはずである。どうした訳か、その後15万円まで価格が下がったことがある。どうにも売れなかったのだろう。確かにそうだ。印刷関係がバージョンアップするなどということは考えられなかったからだ。

「浸透していた」という表現はあまりに小綺麗すぎる。「保守的である」とは、本当にそれだけの職業威信があって、初めて使える。「不況だから」だったら、露骨だがある程度的を得ている。

ソフトのバージョンアップで新しくなると、パソコン関係の出版社はこぞってソフトの使い方や機能を網羅した本を出す。Quarkのバージョンアップも、そうして祝福されたはずだ。しかし、事態は全く逆だった。いやむしろ、それはある程度予想できたことではなかったか。

ともかく、ソフトの発売から半年以上経って、ようやく一冊の解説書が出された。毎日コミュニケーションズの『QuarkXPress 6.5マスターブック―for Macintosh&Windows (マスターブックシリーズ) 』である。さすがに食指が動かなかった。Quarkへの信仰は変わらなかったはずだが。

今年の3月だったか、ブックオフにこの本が入っていた。コンディションはそれほど良くない。結構長いこと書棚に置かれていたはずである。わたしは、つい先ほどこの本について調べてみようとアマゾンを開いたが、そこにあったのは、すでに古本屋を通じてしか手に入れることが出来ない事実だった。出版元のホームページの検索にも入れたが、出てこない。すでに版元品切れで、カタログから落ち、絶版状態なのだろう。だが、Quark JAPANのサイトは長いこと、この唯一に等しい参考書を、誇らしげに宣伝していた。トップページにバナーをつくってまでである。さらに驚いたのは、古書としてのこの本の価値である。販売価格は実に7900円。定価が2730円の本に対してである。

おとつい見た楼閣は、一夜にして砂に埋もれ、今日掘り起こして、考古学的価値を与え、喜ぶ。
そんな感じだろうか。

それから私はオペレータをはずれ、DTPからもWebからもはずれた。その世界から見て、私はもともと異質なる人間だったのかもしれない。

偶然にも知り合えた人物からの紹介で、私は短いレポートを書いて発表する機会を与えられた。編集者と話を行い、書いた文章をより読んでもらうための文章にし、初校を行う段階まで来た。

初校用原稿を見た時、私は、版面のそとに「.indd」を見つけた。InDesignで作って、直接出力したものらしい。少し私は苦笑した。スクールの担当者が言った言葉、「これからはInDesignですよ」を思い出したからだ。確実に浸透しているのだ。少しずつなのかもしれないが。

冒頭に話を戻そう。
身辺整理の結果、私はいらなくなった本の何冊かをブックオフへ持って行くことにした。
その中に、買い集めたQuarkの本も忍び込ませた。すでに、ネットオークションでは何冊かの本が出されているにもかかわらず、買い手が付いていないからだ。誰も見向きしなくなった、とは言いがたいが、参考書を買って勉強する人間は少なくなってきている。現に、この種の関係書を多く出していたエクスメディアは昨年倒産した。

持っていった本で値段が付かない本は、すべてDTPやWeb関連だった。
「残念ですが、これらの本は発行から時間が経ちすぎているので」
その中にはQuarkの3.3や4.1の参考書も混じっていた。
「時間が経ちすぎている」そう、あのままの、あの世界はなんの革新性もないのだ。

風が通り抜けて行くみたいだった。

「処分をお願いします。」わたしはゆっくりと笑みを浮かべて伝えた。

それがすべてである。