VOL2 わ・た・し流

おとぼけな私ですが 好きな本のことや 日常のなにげない事等 また 日々感じたことも書いていきます。

永遠の桃花通信45

2021-11-26 20:47:15 | 永遠の桃花

東皇鐘から落ちて来た夜華を腕に抱き

夜華を少しでも何とかしようと試みる白浅・・・

 

夜華の口から溢れるはずの血は墨淵の時の百分の一

にも満たない。玄色の長衣は血でびっしょりだが

かつて冗談のように語った「この色は 血に染まっても

水にぬれたくらいにしか思われない。敵には弱みを

みせることなく 大事な人には心配をかける事がない」

との言葉どおり。あれは 冗談ではなかったのだ・・

 

白浅は 自分の口と舌を使って 夜華の口をこじあける

 大量の血が夜華の口からあふれ出た。

 

白浅になって 夜華と愛しあったのはほんのひと月ほど

最も親密に過ごしたのは たかが数夜しかない。

 

夜華は白浅を押しのけ、ひどく咳き込んだ。

あとからあとから血が溢れ、白浅は目眩みをおこした。

夜華はそのまま地面に崩れ落ち、

胸は激しく上下している。

白浅は這って行って もう一度夜華を胸に抱いた。

「貴方はまた 全部を飲み込むつもりなの?

貴方はまだ こんなに若いわ。たとえ少し弱くたって

失望なんかしないのに・・・」

 

話す力さえ残っていないにもかかわらず、

夜華は 落ち着いたふうに見せ 淡々と言う

「私は大丈夫・・・こんな傷 大したことない・・

な・・泣かないで・・・」

白浅は両手で夜華を抱いているので 顔を拭う事も

出来ずただ 夜華の目を見つめて言った。

「元神を使って東皇鐘を祀った者は跡形もなく消える

 墨淵以外は。その墨淵でさえ まる七万年も

昏睡していた・・夜華 私は騙されないわ・・

貴方はもうすぐ 死ぬのね・・そうなのでしょう?」

 

夜華は身体を震わせ 目を瞑って言う・・・

「墨淵が 目を覚ましたと聞いた・・貴女は墨淵と

一緒に・・仲良くね・・彼はきっと 優しくしてくれる

私よりも はるかに良くしてくれるはず・・・

だから・・とても安心なのだ・・もう私の事を忘れてね」

 

白浅は 茫然として夜華を見つめた・・・

その一瞬は まるで何世紀ほどにも長く感じられた・・

すると、夜華は突然目を開けて あえぐように言った。

「死んでも・・そんな事は言わない・・わたしは・・

一生・・貴女一人しか・・愛した事がない・・

浅・・浅・・永遠に‥私を 忘れないで・・・

わたしを わすれる ことがあったら・・・

そんな  ことが あったら・・・

それでも・・・わたしは・・なにが・・で き る?」

 

「死んではいけません。夜華。もう少し耐えて・・

墨淵のところに連れて行くわ。彼はきっと助けてくれる」

 

彼の身体は ますます沈みこんでゆく・・・

 

白浅は 夜華の耳元で声を大きくして言った。

「貴方が死ぬつもりなら、私はすぐに折顔に薬を

もらって、貴方のことをきれいさっぱり忘れるわ!

墨淵、折顔と四哥と一緒に 幸せに暮らして

絶対に、永遠に貴方を思い出さないから!!!」

 

夜華の身体が震え、しばらくして笑みを浮かべて

彼は言った。「それも いいかもしれない・・・」

 

『彼がこの世で 私に残した最後の言葉が

 それも いいかもしれない・・・だった。』