VOL2 わ・た・し流

おとぼけな私ですが 好きな本のことや 日常のなにげない事等 また 日々感じたことも書いていきます。

永遠の桃花通信36

2021-11-13 15:27:12 | 永遠の桃花

柳家の門番が 自慢げに言う。

「うちの若様は百年に一人現れるかどうかの天才だぜ。

12歳には大学に入り、五年前皇帝様が 科挙を開いた時には

若様は 簡単に一位の状元になられた。今はすでに

戸部の尚書様だ。天から降ってきた天才なんだぜ」

 

白浅は雲を呼び 都へ向かった。

夜華を見つけた時 桃の花の下、白い質素な衣服を着た

女性と一緒に桃の花を鑑賞しながら酒を飲んでいた。

女性が何か言ったよう、彼はテーブルの上の盃を手に

 女性に向かって微笑んだ。女性は すぐに

恥ずかしそうに俯いた。

 

『彼の微笑み、優しく穏やかだったが、

私の目には 強すぎた。

六日間会わなかっただけで 彼に贈った約束の印が

無駄になった。やはり他の女性と 関わりを持って

しまった。

嫉妬の気持ちが沸き上がり、近づいて詳しく確認しようと

した時、背後から 突然声が聞こえた。

「上神、お久しぶりです。素錦は上神にご挨拶申し上げます」

私は驚き、振り向いた。

目の前の質素な衣服をまとった素錦に 居心地悪く言った。

「貴女が どうしてここにいるの?」』

 

素錦は 両目を少し細めて言う「君上はお一人で

劫を受ける為に 人間界にいらっしゃる。君上が

寂しい思いをしているのではないかと素錦は心配し、

わざわざ 君上が常に心に思っている人を作って

彼のそばに置きました。本日 西王母が開く茶会に

招待状を頂いたので、通りがかりのついでに

君上の為に作ったこの人がちゃんと君上のお世話を

できているのか、確認したかっただけのこと」

白浅「それはご苦労」

 

素錦は切実な目で白浅を見つめ、「素錦が誰をまねて

人形を作ったか上神はご存知ですか?」と言う。

 

じっくり見るが 女性に特別なところは感じられなかった。

 

素錦は ぼんやり遠くを見ているかのように言った。

「上神は 聞いた事がありますか?素素という名前を」

 

『私は胸が震えた・・素錦という小神仙は 最近

なかなか成長が著しい。確実に私の痛いところを

突く事ができるようになってきた。あの、誅仙台を

飛び降りた 団子の母親こと。かつて夜華が深く愛した

前夫人の名前を 私が知らないはずがない。しかし、夜華に

感じる自分の気持ちに気づいたとき、団子の母に関する

すべての噂を 厳重に風呂敷に包んで 箱に閉じ込め、

更に三重に鍵をかけて自分が嫌な思いをしないように

絶対にその箱を開けないことを誓った。私は 夜華が

最初に愛した人ではない。いつもそれを考えると

悲しくて残念に思った。恨んでも仕方のない事・・

ただ 時運をなげくしかなかった。

 

 素錦は私の表情を見つめ、言う。

「上神 お気になさる必要はありません。今の君上は

ただの人間。彼の前に座っている女性が人形だと

見破る事はできない。だからこそ、心から思ってやまない

夢を叶えてあげる事ができる。君上が天上にお戻りになって

本来のご身分に戻れば、例えその人形が素素の顔を

していても、君上の性格からすれば たかが人形を

相手にするはずがありません。」

 

今の夜華が すでにこの人形を 意中の人と思っている

とでも、彼女は 私に言いたいのかしら?

 

私は はははと笑ってから言った。「夜華が 元の

自分に戻った時に 貴女が彼をだました事を知って

咎めを受ける心配はしないのか?」

 

彼女の表情が一瞬凍り付いた後、かろうじて笑顔を作った。』