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利根輪太郎の閃き

2020年08月17日 02時24分32秒 | 投稿欄

2014-12-24 13:12:29 | 創作欄

利根輪太郎は夢を見た。
「閃かない?」
「まだかい?」
猫背の池上晃は前かがみになって輪太郎の顔を覗き込む。
急かされて閃くものではないので、輪太郎は目を閉じた。
高田三郎はニヤニヤ笑いながらショートピースを口にくわえライターで火をつけた。
競馬場の売店で買ったライターで丸い円の中に馬のイラストが描かれていた。
そこで夢から覚めた。
輪太郎の閃きは願望であったので、夢にまで投影された。

池上は元青年座に所属し役者を目指していたが演出家から「才能がない。辞めたらどうか」と言われて挫折した過去を持つ。
彼は歯を食いしばってまで奮起出来なかったのだ。
つまり役者を夢見たが淡い期待であり、「ダメ」を押されれば「そうなのか」と納得したのだ。
新宿のゴールデン街の居酒屋で働いていた池上は、客としてやって来た高田三郎の顔に見覚えがあった。
偶然にも高校の先輩に再会したのだ。
「高田先輩、久しぶりですね」オシボリを渡しながらにこやかに挨拶をした。
「おお、こんなところにおったのか。元気そうだな」高田は演芸部の先輩であり、卒業後は代々木の不動産屋に勤めていたので、新宿で酒を飲む機会が多かった。
「噂では、青年座に入ったそうだな」高田は羨むような目をした。
「それが、今年の春に辞めました」高田は恥じらうようにうつむいた。
「何で?大きなチャンスだったのに・・・」高田は惜しんだ。
「才能がなかったんです」池田は背を丸めながら先輩から注文を受けてカウンターへ向かう。
居酒屋の女主人は若いころテレビに出ていたお笑い系のタレントであったが、70を過ぎていて小太りで昔の面影はない。
高田の住まいは新宿御苑に近いアパートであった。
「池上君は、どこへ住んでいるんだ」
「小田急線の豪徳寺です。実家です」
「ああ、そうだったな。ところで明日は中山で有馬記念がある。行かないか」
「馬券は新宿の場外で時たま買っていますが、馬場へはまだ行ったことがありません」
「一緒にいくか?」
「行きたいですね」池上は乗り気になった。
「午後1時に総武線のホームの真ん中あたりで、どうか」
「わかりました」池上は応じた。

 

 

 

 

 


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