女スリにボーナス袋を奪われた徹は、帰宅して妻の朝子に嘘をつくほかなかった。
「実は、会社の事情でボーナスの支給日がの伸びたんだ」
「あら、そうなの」朝子は疑わなかったので、徹は安堵したが、いつまでも、嘘を貫き通すことはできない。
事情を話して、実家の母親に泣きつくことも考えた。
だが、その母親は子宮がんの治療中であったのだ。
夫の競馬狂いで生活の苦労をしてきた母親は、不憫であった。
母親は家政婦として、住み込みで働いていた時期もあった。
そんな母親に妹の明恵が夜道で、若い男二人から強姦されたことは、とても明かすことはできなかった。
残業続きの明恵は、兄に「駅まで迎えに来て」とあの日の朝、頼んでいた。
だが、徹はあの日は、大学の仲間との麻雀で家を空けていたのだ。
妹は高校卒で日比谷にある企業の新社員の18歳であり、徹は大学20歳2年生であった。
忌わしい事件から10年の歳月が流れていた。
思い余った徹は、親友の佐野孝彦に女スリの被害に遭遇したことを打ち明けた。
「そうか、我々にも責任があるね」彼は、「少ないけど多少は負担したい」と麻雀仲間にカンパを募るのだ。
その金が4万円となる。
徹は、その日、大井競馬のナイター競馬へ向かう。
そして、1月4日生まれの妹明恵への深い自責の念から1-4の目で馬券の勝負する。
追い込まれる身からの祈る思いの一発勝負であった。
信じられないことに、投じた4万円の1-4が126万円余りの配当となる。
麻雀仲間には、10倍返しでもおつりが十分にきたのだ。
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