木村勇作は、何時も誰かを好きになっていた。
3番目の職場は2年勤めたが、ここでいじめに遭うのだ。
元自治省の役人であった広田孝蔵社長は京都大学を出ていて、私立大学出身の社員たちを「頭の悪い奴らだ」と侮蔑していた。
さらに、猜疑心の強い歪んだ性格で、秘書の金子清子を監視役にしていたのだ。
社員が社内で何をしているを探るのである。
電話は秘書の清子によって盗聴されていた。
「君は、私用の電話が多いのではないか」社長に呼ばれた女好きの佐野真司は叱責される。
「堀君は、ライバル会社の人間とどういう関係なのかね」
「実は、大学の同期生なんですが」
「わが社のことは、一切しゃべってないだろうね」
「はい、なにも」
「以後、余計な付き合いはするな」
「わかりました」
社長室の扉は常に開かれているので、社員たちには、聞き耳を立てていた。
木村勇作も社長室に呼ばれた。
「雑誌が減り過ぎているそうだ。どこと、どこへ持っていつたのかね」社長は老眼鏡を外しながら、勇作を詰問するのだ。
勇作は、新規広告先を拡大しようとしていたのだ。
「効率的な営業をするんだよ。木村君、浜君に聞いたのだが、先月も雑誌を社内の書庫からたくさん持ちだしたそうじゃない」
浜博子は勇作の監視役であった。
勇作の大学の系列の短大を出た博子は何故か、勇作にいい感情を抱いていないようであった。
色々と社長に告げ口をしていたのだ。
勇作が髪にアイパーをかけていることも、社長に告げていた。
実は、勤務先のオフィスの隣に理容室があったのだ。
また、同じビル内にある地下の大ホールのコンサートへ行ったことも、博子は告げていた。
社内の規定で広田社長より先に、社員が退社することを禁じていたのだが、勇作は午後7時開演のコンサートへ行ってのである。
それは、二期会の新春オペラコンサートであった。
そのことで社長から厳しい口調で叱責された勇作は退社を、すでに決意していたのだ。
1年前に退社した先輩の水島翔太が「うちの会社に来ないか」と誘っていたことが幸いする。
そして、勇作は新らたな勤務先で恋した山崎瑞奈と出会うこととなる。
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