カキぴー

春が来た

「愛と名誉のために」&「逢う時はいつも他人」

2011年01月29日 | 映画・小説
ミステリーや探偵小説をシリーズで書いているハードボイルド派の作家たちは、何故かノン・シリーズの恋愛物も書いてみたいと思うらしい。 或いは自らの別な一面を読者に知って欲しいのかもしれないが、そんな中に意外と忘れがたい作品を残している。 アメリカの作家で言えば、「ロバート・B・パーーカー」の「愛と名誉のために」と、「エヴァ・ハンター」の「逢うときはいつも他人」の二つを挙げてみたい。 

パーカーが「スペンサー・シリーズ」のリアルな重圧から開放され、男の愛と誇りについて、ひたむきなまでに真正面から描いたのが 愛と名誉のために(原題:Love and Glory) 。 物語ははべトナム戦争の頃のアメリカ東部・ニューイングランド、21歳の夏、作家志望の青年ブーンはジェニファとの恋を失う。 生き甲斐を失った彼は酒に溺れ、失業を繰り返し、やがて抜け殻となった魂を抱えて放浪の旅に出る。 彼女に宛てた投函されることのない何通もの手紙とともに。

7年の歳月を過ぎても変わることのないジェニファーへの愛は、ついにブーンを突き動かす。 自分を磨き上げ、「彼女に相応しい男」 になる決意をしてからの彼の意思が凄い、まず怠惰な生活でぶよぶよになった肉体を徹底的に絞り上げ、再度大学で学び直し、教授にまで上り詰めると、自信を持って既に結婚しているジェニファーに、あらためて結婚を申し入れ、想いを遂げる。 それは徹底して一人の女にこだわるスペンサーの、スーザンに対する揺るぎない愛を連想させる。

一方の 逢うときはいつも他人の作者エヴァ・ハンターは、「87分署シリーズ」でお馴染みの「エド・マクベイン」が普通の小説を書くときのペンネーム。 妻子ある建築家が、近所に住む美しい人妻と出逢い互いに恋に落ちる、二人は不倫の恋に身を焦がしながら破滅への道を進む。 半世紀前に映画を観て、4分の1世紀後に翻訳された原作を読んで分かったのは、残念だが映画の結末がハッピーエンドになっていたこと。 

しかし映画も良くできていたと思う。 建築家に「にカーク・グラス」、人妻役は正にその頃が旬の「キム・ノヴァグ」、だが当時二十歳そこそこの僕には、人妻の心理や行動を理解するには若すぎた。 本でも映画でもそうだが年を重ねるごとに、その受けとめ方、感じ方、さらには時代の流れで恋愛観、倫理観も変る、そんな意味で何度か観直した記憶に残る映画だった。  男女の不倫を多く題材としているイギリスの作家 「グレアム・グリーン」の言葉が引っかかる。 「宗教心のない国に本当の姦通小説は育たない」。

 


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