カキぴー

春が来た

「航大小型機」、墜落事故への考察

2011年08月10日 | ニュース
去る7月28日、航空大学校帯広分校の小型機が剣山(1205㎡)の山腹に激突し、3人が死亡1人が重症を負った事故は、まさに起こるべくして起きた印象が強い。 事故機のビーチクラフト社製「ボナンザАー36」はかって僕が乗っていた小型機と同型で、単発レシプロエンジン6人乗りの機体は分厚い翼の形からして見るからに堅牢さを感じさせ、事実かなりのハード・ランディングをしても、びくともしない。 操縦して感ずるのはどっしりとした安定感で、その前に乗っていたセスナ172と比較して横風や乱気流に強く、航大において訓練機として多く採用されてる理由がわかる。 操縦桿や計器類は左右に同じものがダブルで装備され、機長は左側のシートに座る。

機長席で事故機を操縦していた川口訓練生の証言は生々しい。 頭に取り付けたフードを下ろし計器盤以外は見えない状態で、「雲の中を出入りするような感じを受けながら」計器飛行の訓練をしていた。 突然右シートに座る機長の「あっ」という声がしてフードを上げると、目の前に山が迫り回避する間もなく樹木に激突、直後にコクピットは火に包まれ火傷を負いながら機外に転がり出たという。 僕は昨年8月5日のブログ、「バーディゴ(空間識失調)の恐怖」(1)(2)の中で、飛行機が雲の中に入ることがどれほど危険かについて、自分の体験を通して記述しているが、通常のフライトでも天候の急変や雲を避けきれずに入ってしまうことは、よくあること。

そのため 「ホライゾン・インジケーター」(姿勢儀)という姿勢制御計器を中心に高度計、速度計などをまんべんなくチェックしながら、15分ぐらいは雲の中を飛べないと、ライセンスは取得できないし、取得したあともこの訓練も欠かせない。 事故機は9時11分に帯広空港を離陸し、9時30分には高度750mでレーダーから機影が消えている。 つまりこの19分の間に早くも計器飛行の訓練をしていたことになる。 しかし提出されていた訓練予定項目には、「低空空中操作」と記録してあり、訓練内容が大きく異なリ疑問が残る。 小型機には事故解明に不可欠な「フライトレコーダー」や「ヴォイスレコーダー」は装備されてない、だから今回もし生存者が居なかったとしたら、事故の原因究明はかなり難航したはず。

「計器飛行訓練」を雲中で行うことはない。 山岳地帯を避け充分な高度と視程を確保した上で、教官は必ず前方・周囲の監視しながら、いま何処を飛んでいるかの位置確認を常に怠らず、さらに訓練生がもしバーディゴに陥ったり、視界が悪くなった場合、すぐに操縦を代わるのが訓練の基本で常識。 飛行時間5000~9000もの経験を持つベテラン教官が2人も同乗しながら、なぜ自殺行為に等しい状態で訓練をしてたのかが謎。 それにしても難関を勝ち抜いて航大に入学し、避けられた事故で死傷した訓練生が、あまりに気の毒。  パイロットの世界的組織「AOPA」の傘下にある 「NPO法人・AOPA-JAPAN」で、技量保持委員長を務める 野村達夫氏が航大の事故に関してこんなことを書いている。

「拙速な事故原因の推測を、法的な部分を除いて言えば、今回ハンディータイプの『ガーミンGPS』を積んでいたならこの事故は100%防げた種類の事故かもしれない。 昨年航大仙台校でハンディータイプGPS・ZAON-TCASの搭載が表沙汰になり、これらの機器を法に従い撤去したと聞いた記憶がある。 今回の事故機もそのような機体であったとしたら、法と引き換えに命を絶った方々はさぞ無念であったろうと思う。」  (エアラインなどでは「T-CAS」と呼ばれる「衝突警告装置」の設置が義務化されているが、小型機では価格が高いこともあって装備されてない。 一方安価なハンデータイプが日常的に使われているのは誰もが承知の事実。 しかし法的には認められていない)   いずれにせよ事故の謎と疑問を解明すると同時に、再発防止策を「多角的且つ柔軟に議論して」今後にに生かさなければ、犠牲者が浮かばれまい。


最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (通りすがり)
2011-09-22 05:01:07
こんにちわ。
キャプテンイチロー様
専門知識のある方のサイトにこの件に関して
初めて記述させて頂きます。
不幸にも亡くなられた3名様のご冥福を
心よりお祈りいたします。
まず、一般の方に易しくご理解頂ける様に、
更なる予備情報として、
使用された訓練フードについてですが、
これはサンバイザーの様な物で、首を左右に振れば、
左側の小窓より地上が見え、首を縦にやや上げれば、
コックピットのダッシュボード上の窓より
前方は見える代物です。
飛行機が雲中に入った時、
独特な少しばかりの揺れを感じ、
フード使用でも雲中である事が推測可能です。
離陸後19分後の事故である事より、
レーダー管制の無い、
有視界基本計器飛行訓練が始まったばかり
であったと推測します。
私もキャプテンイチロー様と同じく、
訓練内容に大きく疑問がある為、
運輸安全委員会
航大帯広分校訓練機墜落事故進捗状況更新公表http://www.mlit.go.jp/jtsb/flash/JA4215_110728-110824.pdf
を拝見後、直接の事故原因に
繋がるかは解りませんが、
下記を事故防止分析官様へ8月30日質問しました。
8月24日付けの進捗状況更新中の、
3 判明事項、② 飛行状況の
飛行計画概要記載に質問がございます。
「高度2,000ft、4,000ft、6,000ft で空中操作」
とありますが、

①「2500ft,4500ft,6500ft」の
ウェブ上の入力表示誤りか、
② 基本計器飛行(BIF)訓練の為、
この数字が運行飛行計画記載上の
定型様式数字なのでしょうか?
③ 間違いなく、提出された飛行計画書中の
数字なのでしょうか?
上記質問に対し、分析官様よりでは無く、
広報課よりのご返答は、
ご質問いただいた件ですが、
これは飛行計画上の数字になります。
基本計器飛行(BIF)やAIRWORK等の訓練で
空域を使用する場合は、
プラス500ftで使用するわけではございません。
キャプテンイチロー様、および技能証明保持者なら
この問答の意味をご理解頂けるものと思います。
有視界、もしくは計器フライトプラン申請上、
FAA様式法規に基付く事なのでしょうか?
中途半端な素人の私よりのコメントでした。
ありがとうございました。
返信する

コメントを投稿