「ロッキード・Ｌ－１０エレクトラ」＆「女性飛行士アメリア・イアハート」

思い込みとは恥ずかしいものだ。　往年の名画「カサブランカ」の記憶に残るシーン、アメリカに亡命する男女を乗せ、モロッコ・カサブランカからポルトガル・リスボンに向け飛び立つ旅客機だが、長い間「ダグラス・ＤＣ－３」だとばかり思い込んでいて、これまでのブログの中でもそのように記述してきた。　しかし記憶を辿ってみると微かに引っかかるところがあった。　２枚の垂直尾翼が、水平尾翼の両側にあったような気がするのだ。　ＤＣー３の垂直尾翼は真ん中に１枚しかない、だんだん自信が無くなってきて、ＤＶＤでもう一度確認することにした・・・そして垂直尾翼は、やはり２枚あった。　１９３０年年代前期に作られた全金属製単葉レシプロ双発機で、ＤＣ－３と似たようなスタイルの旅客機といえば、ダグラス・ＤＣ－２、ボーイング・２４７、そしてロッキード・Ｌ－１０エレクトラ。　

このうち２枚の垂直尾翼を持つのは１機のみで、映画に出てくる旅客機はロッキード・Ｌ－１２エレクトラが正解。　初飛行は１９３４年２月、当初民間旅客機として運用された。　乗員２名、乗客１２名、エンジン４５０馬力×２基、最高速度３２５ｋｍ／ｈ、航続距離１１５０ｋｍ、最大高度５９１０ｍ。　第２次世界大戦では軍用機としても採用されたが、１９３６年から登場したダグラス・ＤＣ－３に飛行性能、輸送力、経済性などで差をつけられ、寂しく表舞台から去ることになる。　しかし別な面でロッキード・エレクトラを有名にしたのが、アメリカの女性飛行士「アメリア・イアハート」。　彼女は１９３２年にチャールズ・リンドバーグと同じルートを飛んで、女性初の大西洋横断飛行を成し遂げ一躍有名になった人。　

１９３７年５月２１日アメリアはナビゲーターの男性を伴い、アイランド・ホッピング（島伝えに行く方法）で赤道に沿って飛行する「世界一周フライト」に挑戦するため、カリフォルニア州・オークランドを飛び立った。　このとき使用した飛行機が、実は「ロッキード・Ｌ－１０エレクトラ」。　長距離を飛ぶため旅客用のシートをすべて取り払い６つの増槽タンクを設置し、太平洋を東周りに飛行して６月３０日パプアニューギニアの首都ラエに到着した。　通信機器の修理を待って７月２日、次の目的地・アメリカ領・「ハウランド島」に向けて離陸した。　この区間は４０００ｋｍを超える最も長い距離となるため、アブガスと呼ばれる高オクタン価ガソリン１１５０ガロン（ドラム缶２２本分）を積み込み込んだ。　

およそ１８時間後、ハウランド島近辺で飛行支援のため待機していた米国沿岸警備隊の艦船イタスカ号が、エレクトラからの電波を受信する。　「１０００フィート（３３０ｍ）の上空からイタスカ号を捜しているが発見できず、燃料が心配。　そちらからの電波が受信できないので、この周波数をモニターしてて欲しい」　との内容。　また他の受信者の情報では、「残燃量はあと３０分しかない！」と送信してきていたが、幾つかの意味不明な微弱電波を最後に消息を絶った。　アメリカ政府は大規模な捜索隊を編成して海上捜索に当たったが、機体は発見されなかった。　当時長距離飛行に不可欠な、ジャイロの原理を応用した「慣性航法装置」や衛星を利用する「ＧＰＳ航法」などは存在してない。　

またハウランド島に正式な飛行場はないから、ＮＤＢ・ＶＯＲ・ＤＭＥなどを用いて電波標識からの距離・方位を知る「地上航行援助施設」も利用できない。　エレクトラ機が採用したのが「推測航法」で、ラエからハウランド島までの方位と距離をチャートからプロッターで割り出し、それに風向と風速とを考慮して機首をどれだけ風上に向け、どれだけの時間飛行すれば目的地に到着するかを計算して飛行する航法。　しかしナビゲーターが計算違いをしたか、曇天で視界が悪かったこと、また重量を減らすため無線装置を簡略化したことなど悪条件が重なり、島を発見できずイタスカ号の支援も得られず、燃料切れで５５００ｍの深海に沈んだものと思われる。　アメリア・イアハート４０歳、死を悟ったとき彼女の意識に去来したものは何だったろうか？