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ユーさんのつぶやき

徒然なるままに日暮らしパソコンに向かひて心にうつりゆくよしなしごとをそこはかとなく書き綴るブログ

第100話「プラネタリウム」(昭和23年~27年)

2007-01-03 | 昔の思い出話
 四つ橋の交差点の角に大阪市立電気科学館という建物があった。屋上の尖塔が一際高く、全体が緑青色の特徴ある外観であった。現在は北区中ノ島の阪大校舎後に移転している。この電気科学館の内部には電気ならびに電気に関連する科学の展示物が陳列されていたが、メインの設備はプラネタリウムであった。
 小学6年生。このプラネタリウムを初めて見たときには本当に驚いた。丸いドーム天井の部屋に入るとその中央に得体の知れない昆虫のお化けのような機械が座っている。真っ黒な機械は巨大な蟻を想像させる。その蟻の頭には精巧な穴がいっぱい空いていて、宇宙の彼方から飛んでくるUFOの窓から漏れる光にも見えた。
 プラネタリウムの機械を中心にして円形の座席がしつらえてあり、座るといやでも天井に目が吸い寄せられる。映像が始まる前のドームには同心円の筋がいっぱいある。地平線に相当するドームの最下部の周りには、町の遠景を形取ったシルエットが配置され、東には頂上に飛行塔のある生駒山の山並みや大阪城の姿があり、西や北や南の方角には街のビルや工場の建物が見え、丁度大阪市のど真ん中にいるような気にさせられる。
 早く始まればよいのにとじりじりしていると、やがて開演のベルが鳴り、しずしずと暗くなり、辺りは夕景色に変わっていく。この夕暮れ時が一番つまらない時間帯で空にはまだ白いドームの天井の面影が残っているので、天井の同心円の筋も丸見えである。さらに暗さが増して天井の継ぎ目が気にならなくなる頃には、東の方の空に一番星が光り始め、この頃から天井に寄せられた意識は完全に夜の世界に吸い込まれていき、見事な星空に我を忘れて全神経が集まるのであった。
 時間の経過と共に刻々と星の数が増えていき、やがて満天ルビーを敷き詰めたような星空が現れる。今まで見たことも無いきれいな星空である。天の川もある。まるで本当の星空、いや、一筋の雲もないだけに本当の星空よりも遥かに鮮明で美しい。
 流れ星が走る。アナウンサーの説明と共に、空は夏の空から秋の空、冬の空へと変化していく。「あれが南十字星」と言われると、それまで見たことがない南十字星がはっきりと分かる。白鳥座、魚座、カシオペア座、水瓶座、それまで意識して見たことの無かった星座が、幻灯機のイメージ像と星の群れと重ねて写し出されると「なるほど、なるほど」と分かったような気になってくるのであった。
   「おかしいな、道頓堀のスカラ座と松竹座がないやんけ!」
   「あほ、それは映画館の名前や!」
   「そうは言うても、今、オリオン座と言いよった」
   「ホンマのあほ、オリオン座は映画館もあるし星座にもあるんじゃ」
   「ほんなら、新オリオン座は何処にあんねん?」
   「ばか、そんな星座はあるけえ、映画館だけや」
などと、小学生同士、他愛のない冗談を言いながら見物を続ける。
 天の川を挟んだ織り姫と牽牛のロマンスを聞かされると、臨場感はさらに高まってくる。小熊座や大熊座なども理科の教科書に載っていた通り、確かに柄杓の形をしている。北極星も何処にあるのか、はっきりと分かる。すべて学校で習ったとおりであった。
 人間とは技術の力で本当に何でもやれるものだと感心するばかりである。残念なことに、聞くところによれば、このプラネタリウムはドイツ製であった。当時の日本にはこの様な精巧な機械を作る技術が無く、ドイツから何千万円というお金を出して輸入したものであるとのことであった。何故、日本人の手で作ることが出来ず、ドイツ人ならば作れるかと言うことに合点がいかず、悔しい気がした。
 あまりの精巧さに驚いて、プラネタリウムで映し出した星を望遠鏡で眺めたら、天文学はもっと簡便に研究が出来るのではないかと本気で暫く考えていたのである。
   「宇宙をまっすぐに行けば何処まで星があるんやろか?」
   「何億光年も向こうの方まで続いとる」
   「そしたら、さらにその向こうはどうなってんや?」     
   「やっぱり、星がある」
   「ほんなら、その向こうは?」
と続けていくと、どこかに限界があると思わざるを得なくなる。
   「限界のその向こうには何があんねん?」
   「何にもあれへん」
   「何にもないちゅうのはどう言うことや?」
   「何にもあれへんのや」
   「わからんなあ」
分かったようで分からない会話が続く。
   「その向こうには神様が居たはんねん!」と思わざるを得ない。
 科学の世界にも分からないことがまだまだあると言うわけだ。その後、自分は、好きであった理科がさらに好きになり、現在のこの年になるまで、宇宙や天文学に興味を持ち続けて来れたのは、このプラネタリウム見物の影響がずいぶんと大きいのではないかと思っている。


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