時の泉庭園

小説は、基本、ハッピーエンド。
話は、最後まで出来上がってからUPなので、全部完結済み。

(^◇^)・・・みん兎

花ぬすびと 24

2010-07-16 06:43:32 | 花ぬすびと
「やれやれ・・鈍いわい。そういうことは、源大納言を確認できた時点で、もう少し早く思い出せ。」
 権大納言が、渋い顔をしている。左大臣が、頷き。
「なるほど・・。といって、検非違使に引き渡すのに、あまり見苦しい格好をさせていては、当方も詮索を受ける。ともかく、着がえを取りにやるから、隔離しておくことにしようか・・。」
 左大臣が指示を出したあとで、傍らの三条の中納言に。
「はて。源大納言が女御殺害の犯人だったとは・・・。故右大臣も、とんでもない勘違いをしたものよ・・。どう処理したものか・・。」
「今さら、殺害だったと明かしてみても、却っていらぬ勘繰りを免れないでしょう。亡くなられた方の身の潔白も、あらぬ憶測で汚されるでしょうし・・・あの折は、中宮さまも疑われた。こんなに時間が経って、呪詛ということを覆せば、左大臣家が、疑われるかもしれません・・。家宅捜索をして、何か、証拠が出て来たということにしては?」
「ふん・・・では、あの折、亡くなった乳母は偶然呪詛の事実を知って殺されたことにして、それをどこかに匿われて生きていた娘ごが、女五の宮に訴え、今夜、囮になって捕えたことにしておこうか。罪状は、あとで決まるであろうが・・・問わずとも、もう、本人は何もわからない状態だがな・・・。」
 左大臣は、ひとまず、女五の宮たちを、西の対に移らせて、連れて来た護衛たちを、寝殿のまわりに立たせ、兵衛佐と彼が連れて来た者たちを、源大納言の近くに配置して、検非違使が到着するまで、見張っているように命令する。権大納言や、三条の中納言を連れて、西の対へ移る左大臣に、兵衛佐が、持って来た扇を渡し。
「不思議な話でございますが、自宅で、こちらへ来る支度をしていたところ、りん、という鉦の音が聞こえたかと思ったら、これが投げ込まれまして・・。古い扇でございます。何やら、そのままにしておけない気がしまして、持って来てしまいましたが・・」
 差し出した扇を、三条の中納言が先に拾い、中を開けた。
「・・これは、やはりあのお方の手蹟かな・・故右大臣はこれを拾い、勘違いなさったのかもしれない・・。しかし、故右大臣が言っていた証拠の品とはこれか・・。それにしても、誰が・・・。」
 開いた、扇には、和歌が書きつけてある。
「あくがれいづる蛍・・・恋多き女といわれた女房の和歌だな・・確か、捨てきれぬ思いを抱いて、貴船に詣でた折に詠ったのではなかったか・・この歌と亡き女御の関係がわからぬが・・この手蹟は、あのお方に訊けば、何かご存知かもしれない。訊ねてみて・・そうだな、一役かってもらい、たまには、役に立っていただくか。」
 左大臣が、扇を閉じて、
「兵衛佐。こちらのことは、検非違使に引き渡すまで、頼むぞ。」
「はい。」
「三条の中納言。行方不明の娘ごが、見つかったうえに、こんなしっかりした婿まで、よかったのう。」
 ぽんと肩を叩かれ、
「だ、誰が婿ですか。まだ、婿と認めたわけじゃありません。誤解です。娘を助けてくれたことは感謝しておりますが・・。」
「ほう、そうであったか。兵衛佐、まあ、がんばりなさい。」
 三条の中納言の言葉を、鷹揚に受け止めて、左大臣はゆっくり歩を進める。そのあとに従う三条の中納言に、まとわりつくように、権大納言が、顔をのぞかせ。
「どうだ。私も、婿候補に立候補するぞ。・・そうか、やっぱり麗しの彼の君の娘ごか・・。私は、あの手の顔が好みで・・わ、そんな怖い顔するなよ。三条の中納言どの。」
 じろりと睨まれ、
「言っとくが、彼の君には、相手にもされなかったぞ。その形見に傍におこうなんて、狭い了見で言っているのではない。梨花どののういういしい感じは、違うものだからな。婿として、私なら、金も地位も、申し分ないだろう?妻として、大切に屋敷に迎え入れますぞ。」
「な・・。」
 そのやりとりを見て、左大臣がくっくっと、笑いをこらえかねている。
「なるほど、貴殿は、今は、決まった妻がいない。一応、独身ではあるな・・・しかし、年が離れすぎているではないか。見目も整っていたし、三条の中納言の娘ともなれば、他にもたくさん、若い公達がすぐに手をあげるだろう。妻にしても、おちおち、外出もできなくなるんじゃないか?有能な臣下が、ひとり減ったら帝もお困りになろう。」
 半ばあきれた目をしているから、いい年をしてやめておけよ・・と、思ってるのだ。
 三条の中納言が、こほんと咳払いをして。
「婿として、条件は悪くはないが・・。娘はまだ、子供子供したところがあるから、いきなり、寝所に忍び込んで迫るなんてことはなさるなよ。いつも、相手になさってる訳知りの女房たちと違って、そんなことしたら、思いっきり嫌われますぞ?それに、あの兵衛佐と鉢合わせして、刃傷沙汰ということになれば、うちの娘の評判がガタ落ちになりますから、それだけは、やめて下さいよ。」
「・・おや、文は送ってもかまわんのか?意思表示ぐらいは許すと?」
「出来れば、自分より年上の男を婿と呼びたくないですが・・それは、娘の意思にまかせます。あの子は、苦労しているから、人を見る目もありそうだ。誰が、真心をくれるのか、見抜くでしょう・・。」
「・・まるで、私が不誠実みたいに言うが、これでも、これと思った相手は大事にするぞ?」
「それは、わかっております・・・。しょっちゅう角突合せているわけですから・・。」
「ま、お互い様か・・・・・。さても、源大納言はまじめで善人だと思っていたが、まるで、鬼にでもとり憑かれたようでもあったな。・・その、梨花どのの母御のことは、胸が痛むのう。三条の中納言、あまり思い悩むなよ。」
 ずっと密かにいなくなった彼女たちを、人を使って探していたことを、権大納言は知っていた。意外な思いやりの言葉に、三条の中納言は、黙って頷く。
 そのまま、左大臣とともに、二人は、女五の宮のもとに向かい、居合わせた女房たちにも、昔の女御が亡くなられたのが、呪詛ではなく、捕えた源大納言による殺害だったと真実を告げた。女五の宮の乳母の容疑も晴らし、梨花が彼女の娘だったことも付け加えておく。けれども、事をうまく処理する為に、女五の宮から、女房たちに、左大臣に口裏をあわせることを厳命し、ともかく、一件落着した。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿