時の泉庭園

小説は、基本、ハッピーエンド。
話は、最後まで出来上がってからUPなので、全部完結済み。

(^◇^)・・・みん兎

学園で・・・2

2016-04-28 11:30:31 | I Think I‘m Lost
足早に、廊下を立ち去りながら、アン・サヴィーネは、これから、やりにくくなると、心の中で、ため息をつきたくなる。
 コンスタンシア個人の感情を害したくらいでは、別に、何かがあるわけではない。彼女は、小意地の悪いお嬢さまではないし、せいぜい出くわすたびに、互いに、気まずい思いをするくらいだろう。けれど、彼女のお友だちたちは、どうだかわからない。
 まるで、悪役令嬢だ。
 あれじゃ、物語のラストで、悪役令嬢をつるし上げる場面に見えただろうな。
 何も、知らない、食堂に来ていた人たちの目には、へりくだるべき自国の王族がいたにもかかわらず、生意気な反応しかしなかった自分は、さぞかし、悪役に見えただろう。
 こりゃ、無理無理にも、涙を浮かべて、自分の境遇を訴え、相手の反応を待たず、駆けさるべきだったか。
 けれど、前世の自我のせいで、取巻く彼らは、子供に見え、全く、恐いとも何とも思わなかった。修羅場なら、経験した覚えがあるせいか、あんなのは、大したことはない。
 それが足をひっぱって、年頃の女子らしい反応を示せなかったのは、失敗だ。
 これが尾を引き、学院にいづらくならなければいいが。
 貴族出身の男の子たちは、魔力あるなしに係わらず、ほとんどが騎士科に一旦在籍する。どうしたって、アン・サヴィーネと同じ、学科にいることになる。同学年ばかりではなかったが、多くの人に影響力のある、さっきの男の子たちは、アン・サヴィーネに悪い印象を抱いたままだ。
やれやれ・・・暗澹たる思いで、アン・サヴィーネは、廊下の大鏡の前に立ち、ポケットから髪を結ぶ紐を出し、月のしずくのような金色の髪をひとつに手早く纏める。
淡い金髪、アイスブルーの瞳。白い肌には、そばかすもなく、ぱっちりと長いまつげに彩られた涼しげな目もとに、鼻も口もバランスよくおさまった顔は、人形めいている。
美人だからいいと言うモノではないのだな。
そう心の中で呟く。前世の自分は、確か、平々凡々、可もなく不可もなく。失恋して、もっと綺麗だったら・・とか、思ったものだ。死の直前にも、傷つけられる出来事があったばかりで、強く、そんな拉致もない恨みごとを抱いたせいだろうか。
こんな人生に放りこまれたのは・・・。
ここまで、整った容姿は望んではいなかった・・というか、これなら、平凡な人生のほうが、幸福を享受していたのだと、今なら理解できる。
その、おぼろげな遠い記憶を懐かしむ。普通の親子、兄弟関係の記憶を引きずり出し、残った子供のアン・サヴィーネの心を温めてやる。そうしないと、融合した今も、消えてなくなりそうなほど、弱弱しい存在なのだ。
あ、そう言えば、失恋のきっかけは、容姿よりも、きつい性格だった。普段は、それほどではないけれど、一度、カチンときてしまうと、徹底的に受け入れない。そういう強情さが、面倒だと告げられた。
やっぱり、このアン・サヴィーネの人生を生きる為には、少し、弱い自我をひっぱりだし、たまに前面に立たせることもしたほうがいいのかも・・・。
食堂での、人の反応を思い出し、アン・サヴィーネは、悩む。
「アニー。大丈夫?」
 さっきの一件を聞き、探してくれたのだろう。仲のいい、友だちのユーフェミアとイザベラが声を掛けて来た。彼女たちは、魔力持ちを公にしてい、騎士科の科目をとる珍しい部類の令嬢仲間だ。ユーフェミアは、ブラーノという王国の二番目の王女さまで、イザベラが、この国の伯爵家の出だ。二人とも、淑女科というほとんどの令嬢たちがいるところに在籍しているが、魔力持ちを明らかにしているので、騎士科の科目をとらなければならない。あまり運動神経には恵まれていないので、いつももたもたしていて、アン・サヴィーネが、何故か、面倒をみることになり、それがきっかけで、信頼できる友人となった。
 もちろん、二人は、アン・サヴィーネの事情を良く知っている。
 だから、あんなところで声をかけたコンスタンシアに、腹を立てている。
「心配してくれてありがとう。この先、社交界へでることはないから、私は、評判が悪くなったって、平気。大丈夫だと思うわ。」
「アニーったら、人がいいわね。そのつもりだったら、どうせなら、ノワール侯爵のことぶちまけてやればいいのに。そうすれば、あの女のほうが、印象悪くなるわよ。あんなに信奉者の男がいるんだから、多少、恥をかいても、あの子が、困ることはないでしょう。まるで、女版ハーレムみたいで、いやらしい子だわ。」
 イザベラは、コンスタンシアを嫌っているので、そう非難する。
 ユーフェミアは、それに苦笑をうかべ。
「コンスタンシア嬢が直接何か言ってくることはないと思うけれど、あの場にいた騎士科の人たちは、随分と剣呑な表情をしていたわ。究極のお坊ちゃまが多いから、中には、自分の考えを押し付ける傲慢なタイプもいるでしょうし・・アニーに辛く当たる人が出るかもしれないわ。」
 ユーフェミアの国は、ファルケンベルクを取り囲む小国のなかでも、とりわけ、弱小国なので、王女さまではあるが、目線は一般人のようだ。彼らが、権力を嵩に、友人に嫌がらせをしないか心配している。
「まあ。いくらなんでも、プライドがあるから、女を殴るとか、そんなことはしないでしょう。孤立を心配してるなら、あまり、今と状況は変わらないし、気にしないことにするわ。ともかく、最終的に飛行便に就職できて、自立できたらいいのだし、騎士団になら、つてもあるから、あの人たちと上手くいかなくても、影響はないでしょう。それより、私と仲良くしてて、あなたたちは、大丈夫?」
「何言ってるの。私があなたのこと見放すとでも?」
「そうよ。へんな遠慮しないでよ。・・それに、私たちは、淑女科だから、影響はないわ。あのね。コンスタンシア嬢は、目立つから、彼女を好ましく思わない人たちもいるのよ。」
「・・そうなの。」
 まあ、あれだけ男の取巻きがいれば、確かに、女の子どうしの中では嫌われるだろう。素直で純粋培養のコンスタンシアは、自分の思いを優先させて、さっきは声をかけたのだろうが、人の耳目を集めるあの場で、断りにくい状況をつくったあざとい奴だとか、悪くとる人もいるだろう。と。
 学院で、完全に孤立することはないだろうとわかり、アン・サヴィーネは、気持ちが楽になる。
「ユーフェ、ベラ、ありがとう。気が楽になったわ。さ、次の授業に遅刻しないように、校庭へ向かいましょう。」
 アン・サヴィーネは、この一件で、心安い友人を得たが、その後、学院生活は、あまり、楽なものではなかった。この後、出た剣術の授業に、遅刻すれすれで駆け込んだために、講師の先生に目をつけられた。
その日は、授業は受けられず、バツとして課された走りこみをずっとやらされ、暑い日差しに倒れたアン・サヴィーネを軟弱な奴認定し、その後の授業では、強者の練習相手と組まされて、アン・サヴィーネが負けるたび、バツを言い渡され、難癖を付けられた。はじめの走り込みのとき、淑女科だという理由で、ユーフェミアとイザベラは、すぐに、許されたから、アン・サヴィーネを狙ったものだろうと、気づいたのは、医務室で、起き上がれるようになってからのことだ。
そういえば、あの講師も、あの場で、コンスタンシアの側で見ていたな・・と。
ふん、ロリコン・・と、アン・サヴィーネは、心の中で悪態をつくことで、溜飲をさげたが、前任者であった講師が病気療養のため、臨時で引き受けたその講師は、結局、アン・サヴィーネが卒業するまで、学院に在籍していた。
その講師が、影響力のあるカリスマ性を備えていたせいだろう。彼の生まれ持つ権力に阿るつもりもあり、他の、講師にも、彼に追従するものも出て、その為、理不尽な目に遭うことが増えた。
そんなわけで、アン・サヴィーネの学生生活は、あまり思い出したくもないものとして、終わった。
けれど、継父の伝で、アベル伯爵家の領地のある、ファルケンベルクの西の方を担当する騎士団に就職できた後は、そんなことは、忘れてしまうほど、平穏な毎日を送っている。


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