岩切天平の甍

親愛なる友へ

Monsieur Verdoux

2008年06月13日 | Weblog

ヴィレッジのフィルム・フォーラムでチャップリンの“殺人狂時代”を観る。

「一人を殺せば犯罪者だが、百万人を殺せば英雄だ。」と言う言葉を有名にした映画。

チャップリン扮する連続殺人犯によるラストの裁判シーンでのその高名なスピーチは、撮影もまずそこから始められたそうだけど、初めにそのアイディアありきと言ったような、そこまでの物語とどこかちぐはぐな感じがする。

映画で演じられた主人公が、来し方を背負ってそのセリフが言われていると思えない。

そこに無駄を承知の順撮り(映画の撮影では能率を良くするために、台本に書かれたストーリーの順番通りに撮影しないことが多い。これに対して時系列通りに撮影する事を順撮りと呼ぶ)の意味があるのか。

その哲学的なセリフは主人公の生き方を納得させてもくれず、感情移入も出来ず、犯罪の言い訳にすら聞こえない。

サイレント時代のチャップリン喜劇を期待して来た客はがっかりしたのか、途中で席を立つ人もちらほらと。

くるくるとめまぐるしく展開する笑いの名人芸の真ん中で、常に目ん玉だけがどっかりと冷たく落ち着き払っている。観客が笑っているその中でも、悲しみさえもたたえたその目にメッセージがあるのか・・・。



いなか

2008年06月11日 | Weblog

アイオア取材も今日で終わり。明日ニューヨークに飛んで、そこで専門家のインタビューを撮ったら全て終わりだ。

コーディネーターのショーンはこの仕事が終わったら、結婚式を控えている。
ショーンと言うのはアメリカン・ネームで、れっきとした日本人だけど若い頃からアメリカで育っているからどっちだか分らないようなところもある。

奥さんになる人はカナダ人だそうで、ショーンの両親に会うために一生懸命日本語を勉強した。そして日本に行って、みんなで食事にでかけて、おかあさんが聞いた。

「どうです?足りましたか?」

さあ、ここだとばかりに彼女はおなかをさすってにっこりと答える。

「はい、もう、い・な・か、おーっぱい!」

・・・・

ちょっと、ちがったかなー?
一瞬の間があって、みなさんひーひー涙を流して喜んだそうです。
ご両親のいたく気に入られたのは言うまでもないでしょう。



エタノール

2008年06月10日 | Weblog

幸いにもトルネードは家を直撃したわけではなく、トウモロコシの倉庫のビニール屋根が半分剥がされているだけだった。

ギャリーさんは知り合いのトラックを総動員して忙しく積み出しを指示しながらも、いやな顔ひとつせずに我々の撮影にも付き合ってくれた。
本当にありがとう。

ガソリンスタンドでバイオエタノールを買う客に訊くと、皆が口を揃えて「安いから買うのさ。」と答える。

バイオエタノールはそのまま売ろうとするとガソリンより高くなってしまう。
米政府から投入される莫大な補助金無しではやって行けない。

バイオエタノールは、原料となる植物の光合成で、大気中からCO2を吸収するため、それを燃やしてCO2を出しても、全体としてはCO2量を増加させないという事になっていて、京都議定書では、バイオエタノール使用によるCO2は、排出量としてカウントしないことになっている。

京都議定書にも参加しない米共和党政権は、環境問題に消極的との批判をかわすためにバイオエタノールに力を入れる。
環境を大義に税金をつぎ込み、潤った業界から政治に寄付金が還元される。そこに商機を見る投機マネーが一気に流れ込んで、農家は踊り、生産拡大だと設備投資した矢先に値崩れが起きて、エタノール工場が潰れる・・。
バブリーだねぇ。どうにかならんのかねぇ、この投機マネーってやつ。
一体誰が環境の心配をしているって言うのか・・。

たとえガソリンよりコストが高くても、いつか枯渇するであろう石油に代わる代替燃料の開発はもちろん悪い事ではないだろう。
中東などの石油に頼るエネルギー政策を変えて行くのは国益にかなうと政府は言う。

でも、仮にアメリカの全農地をあてたとしても生産できるエタノールの量はアメリカの石油の使用量の二パーセント程度にしかならないらしい。それ以前に生態系破壊を考えるとそれさえも出来えない。

「結局、人口問題が解決すれば、全部解決するのよねー。」
「行き過ぎた自由経済がいけないんだ。」
「グローバリズム、グローバリズム!」

アイオアをまたまた西へ横断しながら(一体何周するんだ)車の中で、不毛で、だけどわりと真剣な議論を延々と繰り返す。

何だかハイウェイの向こうに人類滅亡の背中が見えてきそうな気がした。




トルネード

2008年06月09日 | Weblog

 日本から超多忙なスケジュールを縫って長野トモコさん到着。
昨日着く予定の飛行機が遅れに遅れた。見るからの疲労困憊を押して、即取材開始。タイヘンだ。

バタバタと撮影をこなし、再びこの旅の始めに行った農家のギャリーさんに会うためにアイオア横断。

途中、東京から「長野さんのリポートを撮ってくれ」との指示で、トルネードの被害にあった街に立ち寄る。

地図を頼りに、さてこの辺りの筈だがと、ハイウェイをおりると・・、あまりの光景に皆が口をつぐんだ。
街一つ、建物の基礎部分を残して消えている。所々に何だか分らないがれきが集められて、それが見渡す限り、ずっと向こうの丘を超えて、視界を遮るものが無い。

こ・れ・は・ホンマにワイルド・ウェストやなぁ。

リポートを撮り終えたクルーは、口数少なく再び東へ走る。
と、ショーンの携帯が鳴った。

「ハロー、ハーイ、ギャリーさーん、ハウ アー ユー・・・何だってぇ?・・・」
「どうしたの?」
「ギャリーさんから。ゆうべトルネードが来て、屋根が飛んじゃったんだって。」
「いいーっ?」
「トウモロコシが濡れちゃったからダメになる前に今大急ぎで積み出してるって。明日の撮影は来てもいいよって言ってるけど・・・。



Wild Rose Casino

2008年06月07日 | Weblog

トウモロコシ畑の真ん中に忽然と建つ、“Wild Rose Casino”を取材。
エタノールブームに湧く農家のカネを狙って建てられたとのウワサ。

平日の昼間からスロット・マシーンに向かう人達は、リタイアした老若男女が多い。「淋しいから、人に会いにくるんじゃよ。」と笑う・・さみしーい。

撮影後、カジノのレストランで食事。
がらんとほとんど客のいないレストランの奥で二人のバンドが懐メロヒットパレードを演奏している。
イーグルス、ジム・クローチ、エバリー・ブラザース、エルトン・ジョン、なかなか上手い。

おばちゃんグループが笑いながらゆらゆら踊っている。
ああ、アメリカ。





Let it be me

2008年06月06日 | Weblog

シェナンドアのダウンタウンはこじんまりとした、まるで映画のセットの様な街並。昔の鉄道駅を作り直したバー兼レストランで朝食を食べる。

広いホールのテーブルにはちらほらとアンティークのじいさんばあさんが座って珍しそうにニッポン人を眺めている。
壁に飾られたガラクタに混じってエバリー・ブラザースの古い写真を見つけた。この街の出身だそうだが、ジューク・ボックスに彼らの曲は無かった。

今日はエタノール工場の撮影。
広報担当の人達は皆にこにこと親切で、ほんとはあまり好意的な筋書きじゃないんだけど・・・と少々ココロがイタい。

予定していなかったトウモロコシ農家まで紹介してくれて、スケジュールはタイトなのに困ったナと早々に切り上げようとしたら「ランチを用意してあるよ。」とにっこり。納屋にバーベキューがじゅうじゅう煙を上げて、近所の人達も集まっている。

さぁさぁ食べなさい食べなさいと勧められ、でも一緒に座って食べ始めると 女性も子供達も人なつっこいのに男共は身内で固まってしまって喋らない。何だかシャイな感じがたまらない。そう言えばうちの田舎でも男ってこうだったような・・・。

スケジュールは押しに押して、街を出たのが七時過ぎ、街中のどこにもエバリー・ブラザースのCDは売っていなかった。しかたがないのでipodに入っていた二曲を聴きながら、6時間かけてアイオアを今度は北へ縦断する。

傾く夕日を横目で睨みつつ、夕景を撮るポイントとタイミングを探す。「ここだぁー!」と車を止めて、トウモロコシ畑に走る。

ハイウェイよりもローカルの州道をのんびりと走るのが楽しい。晴れた日の夕暮れならばなおさらのこと。
街道沿いのレストランで食事をして、次なる街エメッツバーグのモーテルに着いたのは午前二時。

Let it be me / The Everly Brothers


アイオア横断

2008年06月05日 | Weblog

ダビュークから西へ車で約五時間、アイオア州をほぼ横断してシェナンドアというこれまた小さな田舎町へ、エタノール工場を取材する予定。

ここのところの大雨でハイウェイ沿いのトウモロコシ畑が水に浸かっている。

夕暮れの工場に到着して、さてちょっと淋しい感じでも撮ろうかとカメラを取り出したとたん一天にわかにかき曇り大粒の雨、サイレンがうなり、ただならぬ雰囲気。
町内放送みたいなスピーカーが何か繰り返している。ショーンが、「しーっ!」と耳をすます。「トルネードだって!すぐに避難しろって言ってる。」「ひえーっ、ひなんって、どこに行きゃいいのよ?」

と言ってる間にバケツをひっくり返したような嵐と稲妻の輪唱森のくまさん。
ほうほうの体でホテルに逃げ込む。

やる事も無いし酒でも買って来ようと出かける。嵐の中にぼんやりと浮かんだスペンサーズと言う名のガン・ショップで、銃といっしょに酒を売っている。
すでに上機嫌らしいお兄ちゃんが入って来たかと思うと僕ににっと笑って「くっ、くりがおりのさけだぁー。」と五ドルの巨大なウイスキーのボトルを抱えて嵐の中へ行ってしまった・・・。



アイオアへ

2008年06月04日 | Weblog

バイオ・エタノール取材でアイオア州のダビュークという町へ、先乗りしていたディレクターとコーディネーターに合流。

トウモロコシ農家のギャリーさんを訪ねる。
「いやー、もうかっちゃってー、もうウハウハよー!」
と言ってもらいたいところなんだけど、とても質素で真面目そうなギャリーさん、なかなかそうは言ってくれない。

トラックに積み込むトウモロコシに埋もれて窒息しそうになりながら撮影。




My Bluberry Nights

2008年06月03日 | Weblog

ウォン・カーウァイの新作、“My Bluberry Nights”を観る。
シンガーのノラ・ジョーンズ主演のニューヨークを起点にしたせつないロード・ムービー。

カメラマンはあのクリストファー・ドイルじゃないけど、絵はカーウァイ節全開、まさにニューヨークの映画といった雰囲気、ああ、ジャームッシュはどうしてるんだろう。

それにしてもノラさん何でこんなに演技が上手いの?あるいは英語ネイティブが見るとそうは思わないのかな・・。
メンフィスのシーンに出て来るおっちゃんの演技に動けなくなる。デヴィッド・ストラザーンという人らしい。

家に帰って日本版のホームページを見てまた驚く。
何この字幕?ちがうじゃん。つまり自分が見て来たヨーロッパ映画とかもこんな字幕で見ていたってわけかい・・と、ガックリ。

以前アンソロジー・フィルム・アーカイヴスでウォン・カーウァイ特集をやった時の事。映画が終わって帰ろうと階段を降りていたら、一緒に出て来た若い白人の男の子がにこにこしながら「良かったね。彼の映画、どれが一番好き?」と話しかけて来た。「そうね、“Days of being wild”かな。」と答えると「僕は“Fallen angel”だな。」と嬉しそうだった。
カナシロタケシに聞かせたいものだと思った。



ガソリン高騰

2008年06月01日 | Weblog

おはよう日本中継コーナー用の前取材。

ここのところのガソリン高騰で? ニューヨークではスクーターが流行。

ベスパ・クラブの日曜ツーリングについて行き、到着地のブルックリンのベスパ・ショップの前ではニューヨーク中から集合したベスパ乗りたちがビール片手にバーベキューパーティー。ストリートにはロックンロールバンド。

モノは足りないくらいが人は豊かになれる?・・。