ヴィレッジのフィルム・フォーラムでチャップリンの“殺人狂時代”を観る。
「一人を殺せば犯罪者だが、百万人を殺せば英雄だ。」と言う言葉を有名にした映画。
チャップリン扮する連続殺人犯によるラストの裁判シーンでのその高名なスピーチは、撮影もまずそこから始められたそうだけど、初めにそのアイディアありきと言ったような、そこまでの物語とどこかちぐはぐな感じがする。
映画で演じられた主人公が、来し方を背負ってそのセリフが言われていると思えない。
そこに無駄を承知の順撮り(映画の撮影では能率を良くするために、台本に書かれたストーリーの順番通りに撮影しないことが多い。これに対して時系列通りに撮影する事を順撮りと呼ぶ)の意味があるのか。
その哲学的なセリフは主人公の生き方を納得させてもくれず、感情移入も出来ず、犯罪の言い訳にすら聞こえない。
サイレント時代のチャップリン喜劇を期待して来た客はがっかりしたのか、途中で席を立つ人もちらほらと。
くるくるとめまぐるしく展開する笑いの名人芸の真ん中で、常に目ん玉だけがどっかりと冷たく落ち着き払っている。観客が笑っているその中でも、悲しみさえもたたえたその目にメッセージがあるのか・・・。