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ビジネスにも料理にも役立つ“ネタ”が満載!社労士・診断士のコンサルタント立石智工による経営&料理ヒント集

好評御礼:「飲酒運転と企業対応」を特集化!

2006-09-21 | 飲酒運転特集
飲酒運転と企業対応に関するエントリには、本当にたくさんのアクセスを頂いており、誠に感謝しております。好評につき、関連エントリを「飲酒運転特集」としてまとめさせていただきました。飲酒運転と企業対応に関するエントリを一度に読まれたいという方は、ぜひa href="http://blog.goo.ne.jp/tateishi_awing/c/6227ebc38b9159045d28f2384f4798f1" target="_blank">コチラからご覧ください。

さて、相変わらず飲酒運転に関する報道が続いておりますが、その中で一つ気になる記事を見つけました。朝日新聞の記者が酒気帯び運転で検挙され、懲戒解雇となったそうです。以下、記事を一部引用いたします
本紙記者を懲戒解雇 酒気帯び運転で検挙
酒気帯び運転をして道路交通法違反(酒気帯び運転)の疑いで山梨県警甲府署に検挙された朝日新聞甲府総局の中川裕史記者(27)=20日付で管理本部付=について、朝日新聞社は21日の代表取締役会で、同日付で懲戒解雇する処分を決めた。

(中略)

 中川前記者は19日未明、甲府市内の自宅近くで、酒気帯び状態で乗用車を運転、甲府署員に検挙された。さらに、自身の検挙を上司に報告しないまま、公人が酒気帯び運転で検挙されたことを報じる記事を執筆した。
(出展:asahi.com)

労働基準法の規定により、解雇を行う場合には「解雇事由に関する就業規則への定め」が必要とされています。特に制裁処分である懲戒解雇の場合には、「限定列挙」すなわち「列挙されている事柄に当てはまらなければ、懲戒解雇ができない」と考えられています(罪刑法定主義と同様の考え方ですね)。

さて、今回のケースが朝日新聞社の就業規則の何に該当していたのかは定かではありませんが、広報部の説明によれば「法規に触れる行為であった上、検挙されたことを上司に報告していなかった」ということが懲戒解雇事由にあたるとされた模様です。

ただ、今回のケースを見ていると、もしこの記者が「懲戒解雇処分の効力」を争ったとしたら、実は争うことができる余地があるのではないかと私は感じました。即ち、「会社が行った懲戒解雇処分の客観的合理性」を否定する主張をするための材料が残ってしまっていると感じています。

まず第1点目は「この記者が酒気帯び運転で検挙されたのが、完全なプライベート時間であった」ということ。Yahoo!ニュースの読売新聞の記事によれば、「18日の日中に焼酎を飲み、19日の未明に自宅近くの検問で検挙された」ということです。酒量はもちろん、飲み終えてからの時間や行動が分からないので「自覚があったか否か」は不明ですが、少なくとも「会社とは無関係な私的な時間」に起こった出来事であることは間違いが無いようです。そうすると、そもそも「私的な時間に行った行動で、しかも、“被害者”が未だ存在しない」という行為に対して、そもそも報告の義務があるのかという点に疑問が残ります。

また、第2点目としては「発生事象に対して、懲戒解雇という処分が重すぎる可能性がある」ということです。今回の場合、「自分のことを棚にあげて、人のことを記事に仕立てて報道している」という事実があります。これは、報道に携わる「記者」の資質を否定されても仕方がないと考えられます。したがって、少なくとも「このまま当社の新聞記者として続けてもらうわけにはいかない」という判断は妥当性があると思われます。

しかし「このまま当社の社員を続けてもらうわけにはいかない」という判断が妥当かどうかというと、必ずしも妥当とは言い切れない面があります。なぜなら、「朝日新聞社として行っている業務は、何も記者だけとは限らない」という側面があるからです。記者を続けさせられないとしても、例えば印刷工場や配送センターでの現業職(それも車を使わない業務)であれば、十分に仕事をさせられる可能性もありますし、大企業である朝日新聞社の場合、「一人の従業員の配置転換」が出来る程度の柔軟性は持っていると考えられてしまいます。したがって、「懲戒処分としては、配置転換+降格(その職種にふさわしいレベルまで下げる)が相当であって、懲戒解雇処分までは行き過ぎではないか」とツッコミを入れられてしまうケースも考えられてしまうのです。(もちろん、この記者の雇用契約が記者業務に職種限定されたものである場合には、職種変更を伴う配置転換ができませんので、解雇やむなしでしょう。)また、過去の同種同様の事例(プライベート時間中の酒気帯び運転での検挙+未報告)においてどのような処分が行われてきたかも考慮材料の一つにされることでしょう。

これらのことを総合すると、今回の懲戒解雇というものの有効性については、「自分たちが(公務員を中心に)ツツいてしまった結果、自分たちにも跳ね返ってきてしまった」と言ってしまっても良いのではないかと私は思います。ただ、このような処分を行ってしまったことで、結果的に「朝日新聞社のコンプライアンス」に対する問題が生じることになってしまっているのではという別の危惧も生まれます。

「組織として法令に抵触する可能性を否定できない意思決定を行った」とすれば、これは「一従業員が私的な時間に法令違反を犯した」ことに比べてはるかに大きなコンプライアンス上の問題となってしまいます。自分たちが闇雲に報道した結果、結局自分で自分の首を絞めてしまっているような感じを受けてしまう今回のケースでした。

P.S.
本日のYahoo!ニュース(毎日新聞)には、
<飲酒運転>罰則付き県条例制定へ 宮城県議会が全国初

という記事も紹介されていました。この件につきましては、また後日ゆっくりと考えてみたいと思います。

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