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最高裁判決:「酒気帯び検挙+個人情報紛失」も懲戒免職無効とのこと

2007-07-13 | 飲酒運転特集
最近では年金記録問題に押されてすっかり話題が薄れてしまった「飲酒・酒気帯び運転」にまつわるトピックスですが、昨日の最高裁で、労務実務として注目したい判決が行われたようです。

<懲戒免職>「酒気帯び運転2回ではダメ」熊本の元教諭勝訴(Yahoo!ニュース-毎日新聞)


 酒気帯び運転で一晩に2回検挙され懲戒免職になった熊本県の元中学教諭の男性が、県教委を相手に処分取り消しを求めた訴訟の上告審で、最高裁第1小法廷(才口千晴裁判長)は12日、県教委側の上告を退ける決定を出した。教諭側が逆転勝訴した2審・福岡高裁判決(06年11月)が確定した。
 2審判決によると、元教諭は03年11月、紛失した光磁気ディスク(MO)を拾った人との待ち合わせ場所に向かう途中、酒気帯び運転容疑で検挙。約2時間仮眠して車で帰宅中に再び検挙された。MOには生徒の個人情報が入っており、県教委は2度の検挙とMO紛失を理由に処分を加重して懲戒免職とした。

報道にある2審判決の全文が最高裁の判例DBに掲載されていますので、早速入手してみました。

こうした免職無効(≒解雇無効)の裁判で争点とされる点はいくつか有りますが、今回のケースでは
(1)処分基準の有効性(基準が重いのではないか?)について
(2)本件処分の違法性(処分が重過ぎるのではないか?)について
の2点が主な争いの対象となっていたとのことです。(

まず(1)について、元教諭は「教員だからといって、通常の県職員より重い懲戒処分を受ける基準そのものがまず問題だ」といっていますが、福岡高裁は

教職員だけを一般の地方公務員から区別し,より重い処分基準で臨むというのは,公平取扱いの観点からすると問題がないわけではないが,少なくとも教員については,児童生徒と直接触れ合い,これを教育・指導する立場にあるから,とりわけ高いモラルと法及び社会規範遵守の姿勢が強く求められるものというべきである。そうであれば,こと教員に関する限りは,上記のような本件指針の基本的な態度にもそれなりの理由があるものということができるから,本件指針が合理性を著しく欠いており,無効であるとまではいえない。
(傍線筆者)

として、一定の職にある者に対して重い処分を課すことについて、有効性を認めています。

一方、(2)については、福岡高裁は「違法性がある」と認定し、これを持って「懲戒免職処分が無効である」との判決を行っています。これについては、少し解説が必要でしょう。

まず第1に確認すべきは、「もともとの処分基準」がどうなっていたのかという点です。熊本県が設定していた懲戒処分時点での教員に対する処分基準は
本件指針において,酒気帯び運転のみの場合の処分標準例は「停職」と
されており(本件指針第2の1(1)イ),個人情報の紛失等についてのそ
れは「減給又は戒告」とされている(本件指針第2の4(10))。
とあり、さらに
本件指針も,その「第1 基本事項」
において,「第2に掲げる複数の非違行為等に該当する場合は,標準例よ
り更に重い処分を行うこともある」と定めている
となっています。

しかし、この加重処分の適用について、裁判所は厳しい評価をしています。特に「減給処分」や「停職処分」からの加重は、もともとの処分が「柔軟な幅」を持っていることから、「相当の事情がなければ加重しない」という考えをとっているようです。
停職処分についても,停職期間の長短の調整により柔軟な処分が可能なのであるから停職や減給にしか当たらない非違行為が複数あるという場合(ただし,少なくとも停職に当たる非違行為自体が複数ある場合でなければ問題にならない。)においても,できる限り停職処分の範囲内での処分にとどめるべきである。特に,免職処分は,当該職員の職員としての身分を失わせ,職場から永久に放逐するというこれ以上ない厳しい処分なのであるから,当該非違行為自体が免職に相当するという場合であればともかく,加重処分として免職を選択するについては,当
該非違行為そのものの行状はもとより,それに至る経緯,動機及びその後の経過をはじめ日ごろの勤務実績に至るまで,当該職員をめぐるあらゆる事情を総合考慮した上で,なお当該職員を職員としての地位にとどめ置くことを前提とした懲戒処分(すなわち停職以下)では足りないという場合に,はじめてその相当性が肯定されるものというべきである。


これを受け、今回の「酒気帯び×2+個人情報紛失」のケースについて裁判所は次のような判断を行っています。
  • 本件酒気帯び運転は一度の機会におけるものといっても差し支えない性質のものであって,時期を異にして酒気帯び運転を繰り返したというものではない
  • 偶然の結果にすぎないとはいえ,本件酒気帯び運転においては,人身事故はもとより,物損事故すら伴わなかった
  • 本件MOの紛失期間は約4日間にすぎず,その拾得者も判明し,無事回収されている。しかも,本件MOの中には生徒の成績など重要な情報は保存されていなかったし,そもそも,その保存内容が,eはもとより,他のいかなる部外者にも洩れ たことはない
  • 本件酒気帯び運転を自らb校長に申告し,その調査の過程で遅ればせながら本件紛失についても申告している

ということで、裁判所は「控訴人を免職にした本件処分は,上記イで見た加重処分の判断基準に照らしていかにも厳しすぎ,重きに失するものといわざるを得ない」との判断を行っています。

さらに、福岡高裁は「懲戒免職処分に至る手続きの妥当性(弁明の機会の付与が無かった)」についても「重大な問題を含んでいる」と指摘しています。

本判決は、昨今の飲酒運転に対する厳しい見方からすれば、「なんと裁判所は甘いんだ」と感じる方も多いかと存じます。しかし、本判決の内容はこれまでの懲戒解雇・免職に関する労働裁判の判例の流れに十分に沿ったものであり、労働問題の視点からすれば納得できる判決といえます。

さらに、本判決の中では
被控訴人は,本件指針について,「かかる基準の性質は,法令と異なりあくまで内部の基準として任命権者の判断の指針として扱われるべきものであり,任命権者としてはこれに拘束されることなく,裁量権に基づき処分を決定できる」旨主張する。しかし,上記1のとおり,本件指針自体が,教職員について一般の地方公務員よりも重い処分をもって臨むこととしていることに思いを致すならば,そのような本件指針にさえも拘束されることがなく,裁量権に基づき処分を決定できるとするのは,被控訴人が教職員の懲戒処分についてほとんど無限定な自由裁量権を有しているというに等しいいささか乱暴な主張であって,到底採用することができない
とも述べており、懲戒処分については、無限低な自由裁量というものを認めていません。これらを含めて考えると、本判決は労務実務の上で飲酒運転問題を考える際には、少なくとも「酒気帯び運転は一発解雇」と単純化することはできず、就業規則の整備や処分の軽重判断をはじめ、「一つの労働問題」として多面的に考えることが求められることを改めて示していると私は感じます。


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