遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(484) 小説 希望(8) 他 石は空裏に立つ ほか

2024-02-04 12:14:50 | 小説
            石は空裏に立つ(2022.11.23ー30日作)
              禅の言葉

 この世は巡る
 朝が来て 夜が来る
 風が吹く 雨が降る
 陽が射して 雲が動く
 
 わたしは ここに居る


            言葉
         
 
 言葉はその人 独自の言葉で語る事によって
 一つの世界が創られる
  それを記録する事によって
 世界が広がる


 言葉をいじくり廻しても詩は書けない
 物事 事象の本質 その心を見抜く力がなければ
 詩は書けない


 詩とは
 言葉を人の心に響かせる技術
 感動を生む力を持った言葉を書く行為


 言葉は信用出来ない
 言葉を信用する
 心が言葉を決定する
 言葉は心



            行動

 
 行動は言葉を超える
 行動の前に言葉は無力だ


 プロとは物事の境目を
 明確に理解出来る人の事を言う
 プロは臆病だ
 プロは闇雲な行動に走らない




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              希望(8)



 
 皆、二十五、六歳だった。
 クロちゃんは中でも一番大柄で、髪をモヒカン刈りにしていた。
 鍛え上げられた様に見える逞しい肉体はボクサーかレスラーを連想させた。    
 その上、その夜集まった仲間内でも一番口数が少なかった。
 一見、近寄り難い印象で一言一言、重い口調で言葉を口にした。
 暫くは北川が提案し、みんなが議論に加わり、最後にクロちゃんが締めるという話しの展開が続いた。
「とにかく、当分の間はチームで走るのは控えた方がいいよ。何人か、自分達だけで走るのはかまわねえけっど。マッポ(警察)がこれまでになく、本気で取り締まりに掛かって来てるからさあ」
 北川が結論を口にした。
 クロちゃんは自分でビールを注いでは頻りに飲んでいた。
「ブラックキャッツだって、大っぴらには走れねえだろうからなあ」
 ひとりが言った。
「それはそうだよ。奴らにだってマッポの眼は光ってるさ」
 北川が言った。
「じゃ、いいかな。悪りいけど俺、先に帰らせて貰うよ」
 クロちゃんがグラスに残っていたビールを一気に飲み干して言った。
「けえ(帰)んのか ?」
 北川が聞いた。 
「うん」
 クロちゃんが腰を上げた。
 誰もクロちゃんの行動に不快感を見せなかった。
 みんなが病気の母親を抱えるクロちゃんを労わるように優しい眼差しを向けた。
「クロちゃんも当分、走れねえんだろう ?」
 一人がクロちゃんを見上げて言った。
「うん、大人しくしているよ」
 黒い革ジャンパーに腕を通しながらクロちゃんは言った。
 相当量のビールを吞んでいたが酔った素振りも見せなかった。
「おふくろさんがしんべえ(心配)するもんな」
 北川が言った。
「うん」
 クロちゃんは気のない返事をした。
「修二、鍵を開けてやれよ」
 北川が修二を促した。
 修二は頷いてすぐに立ち上がった。
 クロちゃんが先に立って階段を降りた。
 クロちゃんがブーツを履いている間に修二はサンダルを引っ掛けて店の出口へ向かった。
 ガラス戸を開け、鎧戸を鍵を開けて押し上げた。
「有難う」
 クロちゃんは鎧戸を潜り抜けて外へ出た。
 修二も後に続いた。
「おふくろさん、うんと悪いんですか」
 ジャンパーの胸元を合わせているクロちゃんの背中を見ながら修二は聞いた。
 一見、近寄り難い感じのクロちゃんだったが、修二は何故か親しみに近い感情を覚えていた。
 口数が少なく、何処か無愛想に見えたが、人柄には信頼が置ける気がした。
「癌なんだ。もう手遅れみてえだ」
 クロちゃんは胸元を合わせるファスナーの手元に視線を落としたまま答えた。
 特別の感情も見せない無表情な声だった。
 修二は癌だという言葉に息を呑んだ。
「手術をしても駄目なんですか」
 少しの間を置いてから聞いた。
 クロちゃんはヘルメットを脇に抱えてオートバイの置いてある場所へ向かった。
「駄目みてえだ。今は薬でどうにか持ってるけっど、今度、入院するような事があったら終わりだろうって医者は言ってた」
 何処か、他人事のようにクロちゃんは言った。
「おふくろさん、癌だって知ってるんですか」
 クロちゃんの後を一足遅れで歩きながら修二は聞いた。
 何故か、おふくろさんを大事にするクロちゃんが気になった。
「多分、知ってると思うよ。本人には何も言ってねえけっど」
「心配ですね」
 心底からの思いを込めて修二は言った。
「あと半年か、長く持っても一年だと思うんだ。だもんで、なるべく心配えを掛けねえようにしてるんだ。おふくろは俺が二歳の時、大工をしていた親父が材木の下敷きになって死んでから、ずっと苦労しながら育ててくれたんだ。だから、今は俺が出来る限りの事はしてやりてえって思ってるんだ」
 クロちゃんは静かな声で自分に言い聞かせるように言った。
「おふくろさんと二人だけなんですか」
「うん」
 大きなオートバイが小さな空き地の片隅に黒い影を見せていた。
 クロちゃんはオートバイに近寄るとハンドルにヘルメットを掛け、ジャンパーの内ポケットに手を入れてキイを取り出した。
「クロさんはおふくろさんが居ていいですね」
 クロちゃんの背中を見ながら修二は言った。
 母親と心の結ばれているクロちゃんが羨ましく思えた。
「おめえ、おふくろは居ねえのか ?」
 クロちゃんは振り返ると皮手袋を嵌めながら修二を見て言った。
「いや・・・・」
 修二は言ったが、なんと答えたらいいのか分からなかった。
 クロちゃんの視線を痛いように感じて顔を反らした。
 修二に取っては、母親は実の母親でありながら母親ではなかった。
 何処かの尻軽な浮気女の一人にしか思えなかった。
 母親へ抱く感情は憎しみの感情しかなかった。
 母親を恋しいとも思わなかった。
 醒めた感情だけが修二の心を支配していた。
 クロちゃんは修二の曖昧な言葉にもこだわっていなかった。
 ヘルメットを被るとすぐにオートバイに跨りキイを差した。
 エンジンの乾いた音が起ち上って夜の空気を引き裂いた。
「じゃあな、有難う」
 クロちゃんは修二に言って、オートバイはすぐに動き出した。
「おやすみなさい」」
 修二は言って軽く頭を下げた。
 オートバイは一気に加速してたちまち夜の中を遠ざかって行った。
 修二は小さくなるクロちゃんの後ろ姿を見送りながら、心から母親と呼べる人のいるクロちゃんを羨ましく思った。
 クロちゃんには帰って行く場所がある・・・・
 マスターもおかみさんも鈴ちゃんも、ここではみんな優しかったが、それでも修二は自分には帰る場所が無い気がして寂しさが込み上げた。
 クロちゃんの姿が見えなくなると修二は店に帰った。
 なんとなく、クロちゃんなら好きになれそうだという気がした。

 修二は週に一度の休日には何時も一人で過ごした。





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              takeziisan


               有難う御座います
              一月 初めの川柳 まず堪能 相変わらずクスリ・・・・
              楽しいですね 書く事の魅力が此処にも伺えます
              もう十年以上も前の記事 何事もなく過ぎるのが一番の幸せ
              正にその通りだと思います
               中学生日記 前にも拝見した記憶があり 書いたと思いますが
              全く同じような日常を過ごして来ました
              狭い日本 西も東もそんなに変わらないものです
               白菜写真 ただただ羨望の眼差しのみ 何か見ているだけで
              日常が浮かんで来て気持ちがほのぼのとします
              こんな何気ない物の中に眼には見えない生きる事の喜びが隠されているのですね
              この平凡な写真が実に心に沁みる良い写真に思えます
               朝の目覚め・・・・夢 わたくしも夢の不思議を文章にまとめてあります
              何時か発表する心算でいますが ちよっと長くなりますので
              バランスを考えて 何時かと 思っているところです
               雪山の写真 いいですね 実際の光景 是非見てみたい物の一つとして
              心にありますが出不精のわたくしには叶わぬ夢です
               カチューシャ ダークダックス 歌声喫茶ーーー
              つい先日も BSにっぼん こころの歌 でカチュウーシャを放送しました 
              ダークダックスを思い浮かべながら聞いていました
               今回も楽しませて戴きました
              何時も楽しい記事 有難う御座います






















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