原題:『癒しのこころみ~自分を好きになる方法~』
監督:篠原哲雄
脚本:鹿目けい子/ますもとたくや/錦織伊代
撮影:長田勇市
出演:松井愛莉/八木将康/水野勝/中島ひろ子/秋沢健太朗/橋本マナミ/渡辺裕之/藤原紀香
2020年/日本
スル―されてしまう「トラウマ」について
主人公の一ノ瀬里奈はCM制作などをてがける広告代理店に就職したものの、激務の上にパワハラに遭い辞職してしまい、その直後に転職フェアで出会ったカリスマセラピストの鈴木カレンの施術を受けたことでセラピストになるのだが、わずか一ヵ月の研修で現場に出るあたりから怪しくなってきて、職場で改めて教えて貰っているような有様なのである。
一ノ瀬の施術を受けた碓氷隼人はかつて千葉ロッテマリーンズの一軍選手で、頭部にデッドボールを受けたことがトラウマになり戦力外になりプロを目指しながらバッティングセンターで子供に野球を教えているのだが、自ら指名したにも関わらず一ノ瀬の施術に文句をつける。
碓氷の奇妙な言動はさらにあり、在日米軍チームに頼んで碓氷は自分のバッティングを見てもらうのであるが、初球をヒットして二球目にデッドボールを受けながら三球目はホームランにしてしまい、とてもトラウマを持っているようには思えない。
碓氷に叱責された一ノ瀬は何としてでも碓氷に認めてもらおうと碓氷を鈴木カレン主催の「森林セラピー」に誘うのであるが、ただ富士山麓あたりの森林を巡るようなもので、セラピーを受けているような感じがしない。
やがて「トライアウト」のようなものを受けて、四国の独立リーグに誘われた碓氷は家族と共に引っ越すのであるが、「トライアウト」にしては一球で決まってしまい簡素過ぎるのである。
それではこの作品は何の話なのか勘案するならば、実は碓氷の「トラウマ」ではなく、元の職場で上司からパワハラを受け、さらに碓氷から仕事を否定された一ノ瀬自身の「トラウマ」からの回復が描かれているのではないだろうか。
藤原紀香が真剣に演じれば演じるほど却ってその一挙手一投足が可笑しくなって仕方がないのだが、それはもちろん藤原の責任ではなく友近の責任ではあるが、明らかに下手な演出だから新人監督が撮ったのかと思ったら、最後のクレジットに監督としてベテランの篠原哲雄の名前を見つけた時には本当に驚いた。脚本に口出しできない契約でもあったのだろうか?