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「円安が日本を滅ぼす」野口悠紀雄

2022年11月02日 07時43分08秒 | 読書(経済)

「円安が日本を滅ぼす」野口悠紀雄

どうして日本経済は衰退したのか?
バブルの後遺症なのか?
否、と。それ以前から問題は潜在していた、と。
目から鱗の数々。
実際、読んでみて。

P63
2019年に、実質賃金が下落していることが国会で論議されたことがある。これに対して安倍首相(当時)は、「賃金の総額(総雇用者所得)が増えているから問題ない」と答えた。しかし、これでは指摘に答えたことにならず、問題をはぐらかしたにすぎない。賃金低下の大きな原因は、非正規労働者が急増したことだったのだから、本来は、FTEベースでの賃金を示して反論すべきだった。

P72
IT人材についてはすでに国際的なマーケットができつつある。この中で、日本企業は専門家に対して他国と競争できるような賃金をオファーすることができない。

P81
日本は、1990年代の後半以降、円安政策をとるようになり、2000年以降は顕著な介入政策をとった。このため、1990年代ころまでの産業構造が温存されることとなった。これこそが日本経済衰退の基本的な原因である。

P85
とくに、2013年からのアベノミクスでは、金融緩和で金利を低下させたため、顕著な円安が進行した。

P114
日本のシェアが下がるのは、1987年からだ。この頃には、中国の輸出拡大が本格化し、アメリカでも、日本の輸出はあまり問題にされなくなっていた。(中略)
結局、日本停滞の引き金を引いたのは、アメリカではなく、中国だったのだ。(中略)
ただし、韓国や台湾のように中国工業化をうまく利用すれば、それを日本の新しい発展の始まりにすることもできたはずなのである。その意味で言えば、日本の選択の誤りこそが日本衰退の基本原因だったことになる。

P137
時価総額リストの最上位は、これまでGAFA+Mと呼ばれてきた企業群がほぼ独占している。フェイスブックがメタと社名を変えたので、これらの企業群は、いまやGAMMAと呼ぶべきだろう。

P139
時価総額50位までの企業で、従来型の製造業企業は、サムスン(17位)、ナイキ(47位)、トヨタ(35位)、シスコシステムズ(44位)しかない。

P140
2010年頃に、日本の電機メーカーから、「打倒サムスン」の声が起きた。しかし、実際には、打倒されてしまったのは、日本のメーカーだった。(ソニー、日立、富士通、三菱電機、東芝、NEC、パナソニック、これら全てを合計しても2,851億ドルで、サムスンの7割にしかならないP141・・・呆然とする現実だ、涙。さらにトヨタを加えても台湾のTSMCに及ばない)

パナソニックの大坪文雄社長(当時)の、「わが「打倒サムスン」の秘策」(文藝春秋、2010年7月号)について
P182
大坪氏は、日本の製造業が振るわない原因として、5点を挙げた。その一つが円高であり、もう一つは法人税であった。(現在、アベノミクスにより円安となり、法人税も当時30%→現在23・2%となった。私は、日本の政治家や官僚がダメでも、経済人は一流と信じていた・・・でも、IT社会に対応できなかったのね。経営の神様・松下幸之助もパソコンに理解を示さず、他企業におくれを取っていたし)

P186
現在のところ、TSMCとサムスンだけが、5nmのロジック半導体を量産することができる。そして、サムスンは、TSMCに先駆けて、3nmプロセスの半導体を製造する計画を立てている。世界最先端の半導体競争は、このレベルで展開されているのだ。

P187
日本の半導体は、1970年代から80年代に世界を制したと言われる。しかし、半導体の全般について日本が強かったわけではない。DRAMというメモリー半導体に限ってのことである。
演算用半導体CPUは、インテルが支配した。計算回路の設計はソフトウェアであり、日本のモノづくり技術では、歯が立たなかった。現在のロジック半導体は、これが進歩したものだ。
付加価値が高いのは、DRAMではなくCPUだ。日本の半導体産業の問題は、CPUのような高度な技術を必要とされる製品を生産できなかったことだ。

P230
日本の低下傾向を食い止め逆転させることは、自然の法則に反することではない。1人1人の国民と企業が毎日の努力を積み重ねれば、実現できたことである。それが、補助政策や円安政策のために駄目になってしまっただけのことだ。

【参考リンク】

「戦後経済史 私たちはどこで間違えたのか」野口悠紀雄

【ネット上の紹介】
日本はいま先進国の地位を失う瀬戸際に立たされている。さまざまな経済指標がそれを示している。一人あたりGDPがOECD平均に追いついたのが1970年代の初めだった。この時に日本は先進国の仲間入りをし、一時はアメリカより豊かになった。しかし、1990年代の中頃以降、日本の成長がストップし、日本はさまざまな国に抜かれた。これを食い止めなければ、約50年間続いた日本の先進国の時代は終わってしまう。本書は、賃金を中心に、日本経済の衰退がなぜ生じたのか、それを克服するには何が必要かを考える。

第1章 日本が先進国だった時代が終わろうとしている
第2章 どうすれば賃金が上がるのか?
第3章 円安政策こそが日本経済衰退の基本原因
第4章 日本衰退の基本原因は、中国工業化への対処の誤り
第5章 未来に向かって驀進する世界の企業群
第6章 韓国、台湾の成長は今後も続き、日本を抜く
第7章 日本企業はどこに行く?
第8章 日本再生のために政府は何を出すべきか

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