リオオリンピックは中止ないし延期すべきであるという論が出てくるのは”お約束”みたいなものですが、その論拠に耳を傾けてみましょう。
- リオデジャネイロのジカウイルス感染症(ジカ熱)は、誰の予想よりも広く拡がっている。リオはいま、どの都市よりも感染者数が多いと見積もられている(26000)。リオは流行の端っこにいるのではなくド真ん中にいるのだ。デング熱など他の蚊媒介とおなじく五輪の頃には減ると予想する向きは多い。その予想は合理的ではあるが、冬のジカをリオは経験していない。デングは、冬に減りはするが消失はしない。また、デング熱の発生自体、今年のリオは未曾有で昨年の6倍水準(8133vs1285)
- ジカウイルス自体は70年ほど前から報告されているものだが、その遺伝子分析から、今流行しているのは以前からのものと比べて大幅に異なっている。→小頭症やギランバレーの話へ
- 50万人の旅行者が五輪で訪れ、これが世界中に拡散する可能性。ただ一人が持ち帰るだけの可能性。いまブラジルで席巻しているジカは、2013年5月から12月のあいだに、ただ1人の持ち込みから始まったと推定されている。
- 五輪(による人の動き)によって流行の拡大が加速されてしまえば、その対策にかかる時間が奪われてしまう。ジカ対策の開発ーワクチン、治療薬、検査キット、殺虫剤、ーは現在すでに最優先ですすめられている。が、しかし、流行が加速すればその時間も足りなくなってくる。
- オリンピック憲章との矛盾。オリンピックは社会的責任と世界共通の倫理的原則を尊重する(“Olympism seeks to create … social responsibility and respect for universal fundamental ethical principles”)とあるが、病気を世界中に拡大してしまえば倫理もへったくれもない。しかも、オリンピックを見に来れるような富裕層は自分でリスクをとればよいが、帰国後感染させられる方は富裕層ではない大衆だ。
ジカを理由とするオリンピック延期/中止論は、これからも色々出てくるでしょう。そしてそれは確かに合理的な論だと管理人は支持します。
しかしながら、問題は、こうした医学的社会的に合理的な論は、金儲けの好きな人々の資本の論理にはなかなか勝てないということ、そしてオリンピックにからむ利権があまりに巨大だということでしょう。こういう論がまとまりを見せてうねりを作り出せてゆくのか否か、期待をもって見つめつつも、その勝負の行方はあてにせず、「ブラジルに50万人集まる」前提で淡々とリスクコミュニケーションに取り組んでゆくというのが結局は我々のスタンスになるのでしょう。
ソースはハーバード公衆衛生
http://harvardpublichealthreview.org/off-the-podium-why-rios-2016-olympic-games-must-not-proceed/
Off the Podium: Why Public Health Concerns for Global Spread of Zika Virus Means That Rio de Janeiro’s 2016 Olympic Games Must Not Proceed
Amir Attaran, DPhil, LLB, MS. Faculty of Medicine and Faculty of Law, University of Ottawa
