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夜明け前午前5時

徹夜明けの思いつきレベルな発想を、推敲なしでお届け

目かくし

2006-05-21 01:15:17 | 本:小説

ちょっと間があいてしまったな。
精神的にダウナーな時期は、あんまり本が進まないのです。

あ、特になにかあったわけではなく、バイオリズム的に低調なだけ。
周期的にそういう時期ということで。


さて、最近はシリ・ハストヴェットの「目かくし」をようやく読みました。
以前に書いた「ナイン・インタヴューズ」で一番気になってた人。

これはおもしろかった。

感想としては「なんか密度が異常に濃いなー」。

どちらかといえば分析的な文章で、「だった」調の短い文をつなげて
いくんだけど、なかなか改行しない。
結果、ページには会話のところ以外は文字がびっしり埋め込まれてる。

で、こういう文体だと普通は思考先行で頭でっかちな感じになるけど、
この小説はそうじゃない。逆に、感覚的というか、皮膚感覚が強い。
なんか不思議な感覚です。

現実とフィクションが入り混じる感じは個人的に好きなタイプなので
案外すんなり読めました。


あと感想をもうひとつ。
精神的なアップダウンが激しい内容なので、普通だったら「私小説」に
なってしまうと思うのです。日本だと大体そうなる。
破天荒な生い立ちの人が破天荒な生活をして破天荒な小説を書く、
といった感じ。

でも、この人はちゃんとした生活をしてるようだし、コンスタントに活動
しているようだし、そもそもポール・オースターの奥さんだし。

派手な行動とか、奇抜な言説とか、そういったところで評価されやすい
表現の世界ではあるけれど、結局のところ知的体力を維持して、かつ
深めていくには、ちゃんとした生活をして健康であることが大事なんだな、
と思いました。


夜の公園

2006-05-15 02:17:05 | 本:小説

川上弘美の最新作です。

この作品で、作風ががらっと変わってます。
文体すらも、これまでの空気感を意識的に排除してる。

感想としては、最後のほうに至るまでは、正直「なんだかなぁ~」
という感じでした。

色恋沙汰の、想いドロドロな部分を描いていて
あんまり出来のよくない向田邦子みたいです。


それが、最後の数章で、「こういうことがやりたかったんだ」と
ようやく分かりました。

以前に感想を書いた映画「恋する惑星」は、同時代に同じ空間で
人と人が出会うことが、どれだけ奇跡的なことか、を描いてます。
(ということがこの映画のキモだと思ってます)

この小説は、「恋する惑星」と同じことを言ってる。
ただし、人と人が別れることについて。


前半部分がかなりかったるいし、性的な描写も何のためなのか
理解に苦しむので、かならずしも成功しているとは思わないけど、
何か見えている新しいものを描こうとしているのは分かります。

でも、これからも「椰子・椰子」みたいな作品たまには書いてほしいな。


母なる夜

2006-04-24 01:54:30 | 本:小説

ヴォネガットの比較的初期の作品

やっぱり初期の作品のほうがいいです、ヴォネガットは。

この本は、ナチス・ドイツの宣伝員でありながら、アメリカの
スパイだった男・キャンベルの物語。
#もちろんフィクション

この男自体はけっして悪人じゃない。
でも、指示に従っただけであっても、男自身は「ふり」をしていた
だけであっても、それが生きるためであっても、ヴォネガットは
許すようなストーリーを展開しません。

最後、この男は人生を救われない形で終えるんだけど、途中で
「あれ? もしかしたらうまくいくの?救われちゃうの?」という感じに
なります。
暗闇の中で、遠くにちょっとだけ光が見えて、そこにむかってもがく感じ。

でもこれも、いかにもヴォネガット的な急展開でその光は消えます。


時代とか、国家とか、大衆・世論とかにストレートな怒りをぶつけてきている
この本は、ハッピーな物語じゃないけど、非常に好感が持てる。


お花見

2006-04-02 12:17:23 | 本:小説

毎年恒例のお花見に行ってきました。

今年は場所取り班でしたが、前夜確保組がいたので、
朝に行ってのんびりしていればよい、というラクな役割です。

写真は暇つぶしグッズ。


ビール飲みながら本を読む、つもりでしたが、持って行った本がハズレちゃいました。
ボルヘスの「不死の人」。

ちょっと前によんだ、ガルシア・マルケスの「百年の孤独」が予想外におもしろかったので
ラテン・アメリカ文学を読んでみようと思って選んでみたのです。

「感想:古代ギリシアやら、旧約聖書やら、いろいろ出てきすぎて、訳分からん。」

物語の中で物語を語ることで物語性自体を批評する、メタフィクションって要素が
満載なのですが、そんなこと普通の本好きにアピールされても困ります。
とにかくページが進まない。読んでてぜんぜん楽しくない~。


一番おもしろかったのは、訳者あとがき。
一部抜粋すると...

『言葉即世界と見るヘブライ的ロゴス崇拝における、世界の始源としてのアレフと、わが悉曇字門において一切法本不生の理をあらわすとされる阿字と、これら両者の内包が、実は全く同一のものであることに思いあたるとき、ボルヘス文学はわれわれにとって、にわかに親近性を帯びはじめるのではなかろうか。~』

...。「なかろうか」って言われましても。
呪文みたいな日本語でぜんぜん分からないッス。

内容をちょっと調べてみると、どうやら、訳者はこんなことを言いたいらしい。

『サンスクリット語の「アレフ」が持つ意味って、日本密教の「阿字」観と、
要は同じなんだよねぇ。地球の裏側アルゼンチンで、ボルヘスも同じこと
考えてたなんて、おもしろいッス。』

だったらそう言え。

この本、訳が違えば読めるのかもしれない。


というわけで、本を読むのはとっとと止め、Buffalo Daughter聴きながら昼寝して、
買出し組の到着を待つのでありました。


ジェイルバード

2006-03-30 23:33:10 | 本:小説

カート・ヴォネガットの比較的最近の作品
っていっても1979年だけど。


カート・ヴォネガットは、ひとつの作品の中で、「ユーモア」と「皮肉」、
「希望」と「絶望」が、ものすごい揺れ幅で入り混じるのが特徴だなー
と、本を読むといつも思うのです。
SFだから、当然物語自体の揺れ幅もすごいですが。

で、すごい揺れ幅でも、いちおう作品ごとに重心はあって、ジェイルバードは
どちらかというと、「皮肉」「絶望」寄りに感じる。
うーん、その辺がどうもあまり好みじゃない。

さらに、皮肉も、なんとなく年配者特有の空気があって、そこも気になります。

物語自体のレベルはすごく高し、いろんな人物が現れ、物語の展開が速いにも
かかわらず、無理なく読めるのはなかなかすごい。

でも、やっぱこの小説は諦念が強すぎる。
最後、ストーリーとしては救われる方向に展開していくけれど、そこに「希望」
とかは感じないのです。「諦め」の空気が強い。


ヴォネガットだと、「タイタンの妖女」がものすごく好きなのですが、その理由は
ものすごい揺れつつも、最後、あっと言わせるようなやり方で、希望とやさしさを
見せてくれたところなのです。
タイタン~の最後の展開は、本当に、泣けてくるぐらい感動したなぁ。

初期の作品で読んでないのがあるから(「猫のゆりかご」とか)、そっちを今度は
読んでみよう。