今日は新聞休刊日なので、昨日のコラムを見てみましょう。
朝日新聞
・ 汗はかくべきか、かかざるべきか――。アトピー性皮膚炎の専門医はしばしば患者から相談を受ける。医学に疎い当方など汗はかゆみの元と思い込んでいたが、実はかなりの難問。近年は汗を治療に使う試みも本格化してきた
▼大阪大病院の室田浩之准教授(48)によると、アトピー患者は炎症が強くなると発汗機能が低下するログイン前の続き。「汗を上手にかければ、皮膚の湿度を保つなど汗の主な利点をいかせると考えました」
▼自転車通勤を続けて症状が緩和した患者もいる。医師に「汗は極力避けて」と指導され、長年守ってきた。思い切って汗を流し、直後にタオルでふき、保湿剤を塗るなど丹念な手入れをした。「汗は放置すると悪化につながる。でもかきたての新鮮な汗は別。皮膚を守ってくれます」
▼汗の是非に限らず、アトピーには謎が多い。鼻炎やぜんそくを伴いやすい、家族に似た症状が出る、成人後に再発する……。これらはなぜなのか。そもそもアトピー自体、「奇妙さ」を意味するギリシャ語「アトピア」に由来する
▼室田医師らが格闘中の課題は、汗をかいた瞬間になぜかゆみを感じるか。「難題です。でもひとつひとつ答えを見つけていけば、いつか『奇妙』な病気でなくなるはずです」
▼きょうは「皮膚の日」。いい(11)皮膚(12)の語呂合わせだ。かゆみ、痛み、乾き、湿疹など症状は千差万別ながら、筆者の周囲でも悩む人は少なくない。謎が残らず解き明かされ、病名からアトピーの言葉が消える日の到来を願う。
毎日新聞
・ 裏声でこぶしを入れる島唄はなぜもの悲しく、美しいのか。NHK「新日本風土記」のテーマ曲である「あはがり」。歌うのは、古くから奄美群島に伝わる島唄の唄者、朝崎郁恵(あさざき・いくえ)さんだ
▲<浮き世 仮島に 何時(いてぃ)がでぃむ 居(う)らりゅむい 情けあれぃよ 仮那(かな) くぬ世ば うさむぃれぃがでぃ>(この世は神様からいただいた仮の世 いつまでとどまって居られましょうか 命を敬い生きていきなさい この世の生をなし終えるまで)。歌には島の魂が宿る
▲天皇、皇后両陛下が16日から奄美群島を訪問される。島々は戦後、沖縄や小笠原とともに日本から切り離され、1953年まで米軍統治下に置かれた。それ以前にも薩摩藩に支配された時代がある。人々が息を抜けるのは一晩中歌を会話のように続ける歌遊びの時だったという
▲52年4月28日、日本はサンフランシスコ講和条約の発効で主権を回復した。だが沖縄や奄美群島にとっては復帰がかなわなかった日だ。2013年の同じ日に政府は両陛下出席のもと、記念式典を開く
▲式典会場で「天皇陛下万歳」の声が上がった。沖縄や奄美への配慮は感じられなかった。両陛下は03年に奄美大島での日本復帰50周年の記念式典にも出席して島の歴史を胸に刻んだ。お二人に「万歳」はどう聞こえただろう
▲島唄が哀調を帯びるのは苦難の歴史からか。奄美大島には陛下の詠んだ「復帰より五十年経るを祝ひたる式典に響く島唄の声」の碑がある。その時、陛下はきっと島の魂に触れられた。
日本経済新聞
・ 今朝は天気が良ければ、空には白っぽい半月がかかっていることだろう。そこにいくら目を凝らしても見えはしないけれど、月面のレゴリスと呼ばれる細かい砂の上には、計12人の宇宙飛行士の足跡がくっきりと残っているはずだ。加えて、不思議な遺物もあるという。
▼月刊誌「ナショナルジオグラフィック」によると、鳥の羽根とハンマーだ。アポロ15号の船長が「空気の抵抗がなければ、重さにかかわらず物体は同じ速さで落ちる」というガリレオの言葉を実証してみせた。さらに、土砂を採る器具の柄に6番アイアンを付けて打ったゴルフボールも。見事、クレーターに沈めたとある。
▼これらを月面遺産として保全すべきだとの意見もあると聞く。地中から出土する土器のように扱われる日が来るだろうか。「遺産」はさらに増えそうな気配だ。米グーグル主催の月面探査レースが大詰めに来ている。民間主導の世界5チームが機器や車で「500メートル移動」「画像を地球に送信」といったミッションを競う。
▼日本も目指す優勝賞金は約23億円で、来年3月末が期限である。さらに先月は、衛星「かぐや」の新発見も伝わった。月の地下に長さ50キロメートルの空洞があるらしい。ここに宇宙への前進基地や居住空間を造る構想も練られている。遠い将来、人類の歩みの貴重な痕跡となるに違いない。新たな開拓史が刻まれつつあるようだ。
産経新聞
・ 西鉄の大投手、稲尾和久は打席でも頼りになった。巨人と争った昭和33(1958)年秋の日本シリーズは、登板した第5戦でサヨナラ本塁打を放っている。作家の丸谷才一さんはこの一打を「球界の神話」と賛美した。
▼西鉄が3連敗から4連勝で制した伝説の名勝負である。聞けばうなずくオールドファンも多いだろう。〈「神様、仏様、稲尾様」だから当然だけれど〉。丸谷さんが『野球いろは歌留多(かるた)』に書き留めている。投打の分業制が敷かれた昨今の野球事情を思えば、「神話」とは言い得て妙である。
▼いやいや、当代にも「神様」候補はいます-と泉下の丸谷さんに投げ掛けてみる。漫画の中の「投げてはエース、打っては4番」という夢物語を形にした青年が、「二刀流」を携えて海を渡る。日本ハムの大谷翔平選手(23)である。
▼今オフの入札を経て米大リーグに挑むという。11日の会見で「(投打のうち)一つ諦めるということは今の時点では考えていない」と語った。昨年は「1番・投手」で先頭打者本塁打を放ち、今年は「4番・投手」で先発している。
▼常識や定石ではこの大器を測れまい。最速165キロの速球を放つ右腕と快音を響かせるバット、本場の猛者を黙らせるのはどちらの刀か。投打一方への専念を促す声はあるものの、「翔平の天井はこんなところではない」という栗山英樹監督の言葉を信じ、二兎(にと)を追う若者の武運を祈ろう。
▼〈今やかの三つのベースに人満ちてそゞろに胸の打ち騒ぐかな〉正岡子規。満塁本塁打に熱狂するファンをよそに、ダイヤモンドを涼やかに駆ける「4番・投手、大谷」を夢想する。「大谷君だから当然だけれど」。丸谷さんをうなずかせることができれば、二刀流も免許皆伝である。
中日新聞
・ 日本ハムの栗山英樹監督は中学のとき、野球選手に「なりたい」と思ったそうだ。野球選手に「なる」と言い切る自信や決意はまだなかった。あくまで願望を込めた「なりたい」だった
▼「君はどうだったか」。栗山監督は二人の選手に聞いたことがある。一人の選手はこう言った。「中学時代からプロになると信じていた」。中田翔選手。中学でプロ入りを確信していた。栗山さんとはだいぶちがう
▼もう一人の選手の言葉にはそれ以上の確信があった。「高校のときには世界一の選手になると思っていた」-。大リーグ挑戦を正式に表明した大谷翔平選手である。記者会見でも、「世界一の選手になりたい」と語っていた。高校時代からの確信を実現させる旅にいよいよ出発するのか
▼寂しいがそれを上回る期待と夢がある。そしてこちらにも確信があるのだ。投打いずれの才にも恵まれた現代野球の「革命児」は大リーグでも旋風を巻き起こすだろう。世界一の選手になれると。行ってこい
▼幼き日、誰もが何かに「なりたい」「なる」の夢を描く。大人になるとは現実と折り合いをつけ、その「なりたい」を忘れる過程、とはややふてくされた言いぐさか
▼「なりたい」を追い続ける二十三歳の二刀流がぎらりとまぶしい。すまないのだが、子どもの「なりたい」と大人の「なりたかった」を君の右腕にのっけさせてもらう。
※ 大谷選手が2社で登場しました。
スポーツ選手が大手新聞のコラムに登場することは、それほどあるものではありません。
ここからも非凡さが伝わってきます。
大リーグでの活躍を期待します!
朝日新聞
・ 汗はかくべきか、かかざるべきか――。アトピー性皮膚炎の専門医はしばしば患者から相談を受ける。医学に疎い当方など汗はかゆみの元と思い込んでいたが、実はかなりの難問。近年は汗を治療に使う試みも本格化してきた
▼大阪大病院の室田浩之准教授(48)によると、アトピー患者は炎症が強くなると発汗機能が低下するログイン前の続き。「汗を上手にかければ、皮膚の湿度を保つなど汗の主な利点をいかせると考えました」
▼自転車通勤を続けて症状が緩和した患者もいる。医師に「汗は極力避けて」と指導され、長年守ってきた。思い切って汗を流し、直後にタオルでふき、保湿剤を塗るなど丹念な手入れをした。「汗は放置すると悪化につながる。でもかきたての新鮮な汗は別。皮膚を守ってくれます」
▼汗の是非に限らず、アトピーには謎が多い。鼻炎やぜんそくを伴いやすい、家族に似た症状が出る、成人後に再発する……。これらはなぜなのか。そもそもアトピー自体、「奇妙さ」を意味するギリシャ語「アトピア」に由来する
▼室田医師らが格闘中の課題は、汗をかいた瞬間になぜかゆみを感じるか。「難題です。でもひとつひとつ答えを見つけていけば、いつか『奇妙』な病気でなくなるはずです」
▼きょうは「皮膚の日」。いい(11)皮膚(12)の語呂合わせだ。かゆみ、痛み、乾き、湿疹など症状は千差万別ながら、筆者の周囲でも悩む人は少なくない。謎が残らず解き明かされ、病名からアトピーの言葉が消える日の到来を願う。
毎日新聞
・ 裏声でこぶしを入れる島唄はなぜもの悲しく、美しいのか。NHK「新日本風土記」のテーマ曲である「あはがり」。歌うのは、古くから奄美群島に伝わる島唄の唄者、朝崎郁恵(あさざき・いくえ)さんだ
▲<浮き世 仮島に 何時(いてぃ)がでぃむ 居(う)らりゅむい 情けあれぃよ 仮那(かな) くぬ世ば うさむぃれぃがでぃ>(この世は神様からいただいた仮の世 いつまでとどまって居られましょうか 命を敬い生きていきなさい この世の生をなし終えるまで)。歌には島の魂が宿る
▲天皇、皇后両陛下が16日から奄美群島を訪問される。島々は戦後、沖縄や小笠原とともに日本から切り離され、1953年まで米軍統治下に置かれた。それ以前にも薩摩藩に支配された時代がある。人々が息を抜けるのは一晩中歌を会話のように続ける歌遊びの時だったという
▲52年4月28日、日本はサンフランシスコ講和条約の発効で主権を回復した。だが沖縄や奄美群島にとっては復帰がかなわなかった日だ。2013年の同じ日に政府は両陛下出席のもと、記念式典を開く
▲式典会場で「天皇陛下万歳」の声が上がった。沖縄や奄美への配慮は感じられなかった。両陛下は03年に奄美大島での日本復帰50周年の記念式典にも出席して島の歴史を胸に刻んだ。お二人に「万歳」はどう聞こえただろう
▲島唄が哀調を帯びるのは苦難の歴史からか。奄美大島には陛下の詠んだ「復帰より五十年経るを祝ひたる式典に響く島唄の声」の碑がある。その時、陛下はきっと島の魂に触れられた。
日本経済新聞
・ 今朝は天気が良ければ、空には白っぽい半月がかかっていることだろう。そこにいくら目を凝らしても見えはしないけれど、月面のレゴリスと呼ばれる細かい砂の上には、計12人の宇宙飛行士の足跡がくっきりと残っているはずだ。加えて、不思議な遺物もあるという。
▼月刊誌「ナショナルジオグラフィック」によると、鳥の羽根とハンマーだ。アポロ15号の船長が「空気の抵抗がなければ、重さにかかわらず物体は同じ速さで落ちる」というガリレオの言葉を実証してみせた。さらに、土砂を採る器具の柄に6番アイアンを付けて打ったゴルフボールも。見事、クレーターに沈めたとある。
▼これらを月面遺産として保全すべきだとの意見もあると聞く。地中から出土する土器のように扱われる日が来るだろうか。「遺産」はさらに増えそうな気配だ。米グーグル主催の月面探査レースが大詰めに来ている。民間主導の世界5チームが機器や車で「500メートル移動」「画像を地球に送信」といったミッションを競う。
▼日本も目指す優勝賞金は約23億円で、来年3月末が期限である。さらに先月は、衛星「かぐや」の新発見も伝わった。月の地下に長さ50キロメートルの空洞があるらしい。ここに宇宙への前進基地や居住空間を造る構想も練られている。遠い将来、人類の歩みの貴重な痕跡となるに違いない。新たな開拓史が刻まれつつあるようだ。
産経新聞
・ 西鉄の大投手、稲尾和久は打席でも頼りになった。巨人と争った昭和33(1958)年秋の日本シリーズは、登板した第5戦でサヨナラ本塁打を放っている。作家の丸谷才一さんはこの一打を「球界の神話」と賛美した。
▼西鉄が3連敗から4連勝で制した伝説の名勝負である。聞けばうなずくオールドファンも多いだろう。〈「神様、仏様、稲尾様」だから当然だけれど〉。丸谷さんが『野球いろは歌留多(かるた)』に書き留めている。投打の分業制が敷かれた昨今の野球事情を思えば、「神話」とは言い得て妙である。
▼いやいや、当代にも「神様」候補はいます-と泉下の丸谷さんに投げ掛けてみる。漫画の中の「投げてはエース、打っては4番」という夢物語を形にした青年が、「二刀流」を携えて海を渡る。日本ハムの大谷翔平選手(23)である。
▼今オフの入札を経て米大リーグに挑むという。11日の会見で「(投打のうち)一つ諦めるということは今の時点では考えていない」と語った。昨年は「1番・投手」で先頭打者本塁打を放ち、今年は「4番・投手」で先発している。
▼常識や定石ではこの大器を測れまい。最速165キロの速球を放つ右腕と快音を響かせるバット、本場の猛者を黙らせるのはどちらの刀か。投打一方への専念を促す声はあるものの、「翔平の天井はこんなところではない」という栗山英樹監督の言葉を信じ、二兎(にと)を追う若者の武運を祈ろう。
▼〈今やかの三つのベースに人満ちてそゞろに胸の打ち騒ぐかな〉正岡子規。満塁本塁打に熱狂するファンをよそに、ダイヤモンドを涼やかに駆ける「4番・投手、大谷」を夢想する。「大谷君だから当然だけれど」。丸谷さんをうなずかせることができれば、二刀流も免許皆伝である。
中日新聞
・ 日本ハムの栗山英樹監督は中学のとき、野球選手に「なりたい」と思ったそうだ。野球選手に「なる」と言い切る自信や決意はまだなかった。あくまで願望を込めた「なりたい」だった
▼「君はどうだったか」。栗山監督は二人の選手に聞いたことがある。一人の選手はこう言った。「中学時代からプロになると信じていた」。中田翔選手。中学でプロ入りを確信していた。栗山さんとはだいぶちがう
▼もう一人の選手の言葉にはそれ以上の確信があった。「高校のときには世界一の選手になると思っていた」-。大リーグ挑戦を正式に表明した大谷翔平選手である。記者会見でも、「世界一の選手になりたい」と語っていた。高校時代からの確信を実現させる旅にいよいよ出発するのか
▼寂しいがそれを上回る期待と夢がある。そしてこちらにも確信があるのだ。投打いずれの才にも恵まれた現代野球の「革命児」は大リーグでも旋風を巻き起こすだろう。世界一の選手になれると。行ってこい
▼幼き日、誰もが何かに「なりたい」「なる」の夢を描く。大人になるとは現実と折り合いをつけ、その「なりたい」を忘れる過程、とはややふてくされた言いぐさか
▼「なりたい」を追い続ける二十三歳の二刀流がぎらりとまぶしい。すまないのだが、子どもの「なりたい」と大人の「なりたかった」を君の右腕にのっけさせてもらう。
※ 大谷選手が2社で登場しました。
スポーツ選手が大手新聞のコラムに登場することは、それほどあるものではありません。
ここからも非凡さが伝わってきます。
大リーグでの活躍を期待します!