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国内需要が弱いのに、財政収支黒字化と金利、量の両面での金融引き締めを組み合わせるのはデフレ温存政策である

2024年07月02日 09時25分41秒 | 全般

以下は今日の産経新聞に掲載された田村秀男の定期連載コラムからである。
財務省の受け売りではない、正しい経済論を書いているのは、彼と高橋洋一氏だけであるといっても過言ではない。
何故、その他は、正しい経済論すら言えないのか?
前章に再掲載した長谷川幸洋氏の論文に正鵠を射た答えが書いてある。
本論文は日本国民のみならず世界中の人たちが必読。

超円安の元凶はデフレ温存にあり
円相場は1ドル160円台に乗った。
財務省は外国為替市場介入の機会をうかがい、日銀は早期利上げに前のめりという、いつもの通りのパターンが投機筋に見透かされる。 
そこで問う。
超円安の元凶とは何か。    
 
会田卓司氏(クレディ・アグリコル証券チーフエコノミスト)は「日本のデフレ完全脱却への期待が剥落するリスクが生まれていることだ」とみる。
同感である。 
家計実質消費は昨年4~6月期以降、この1~3月期まで4期連続で前期を下回る。
総務省の家計調査4月分には春闘の大幅賃上げが反映し始めたはずだが、実質家計可処分所得は前年同月よりも減ったままだ。 
岸田文雄政権は先に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2024」本文冒頭で、「デフレから完全に脱却し、成長型の経済を実現させる千載一遇の歴史的チャンスを迎えている」と威勢が良かったが、打ち出した財政方針は2025年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)黒字化目標を明記した。
PB黒字化は財務省が増税と緊縮財政に政権を誘導するためのガイドラインであり、1997年度の導入以来、慢性デフレを定着させる要因になった。それに気づいた安倍晋三元首相が岸田首相に対し、骨太2022の本文から25年度PB黒字化目標を削除させたのだが、岸田氏は復活させた。 
日銀のほうは植田和男総裁体制が昨年4月に発足して以来、円安が物価上昇を招くという懸念から、今年3月には大規模金融緩和政策を打ち切った。
6月の金融政策決定会合では長期金利上昇につながる国債購入減額を打ち出した。
同会合では「遅きに失することなく適時に金利を引き上げることが必要だ」との意見が強く出た。そんなタカ派の姿勢があらわになるたびに、円安にはずみがつくという皮肉な結果を招いているのに、日銀幹部は気にならないようだ。 
国内需要が弱いのに、財政収支黒字化と金利、量の両面での金融引き締めを組み合わせるのはデフレ温存政策である。
ならば、経済の活力は戻りそうにない。
国内に見切りをつけた日本の企業、金融機関、さらに一般の人までもが対外投資に走る。
そのプロセスで円売り、ドル買いが進む。
1㌦=150円台、そして160円台へと対ドル相場が下がり続けているのだ。   

グラフは日本の対外債権、対外債務の前年比増減額を円ドル相場と対比させ、推移を追っている。この3月末の残高は債権1584兆円、債務1101兆円である。
対外債権増は円安に連動する。
増加が著しいのは証券投資で、この3月は前年比で124兆円増え、対外債権増加額の過半を占めた。
生命保険など機関投資家に加えて、家計も銀行も証券投資に走る。
対照的に企業は証券投資を手控え、直接投資を増やしている。 
対外債務は海外の対日債権と言い換えられる。
目を引くのは、今年に入っての急増ぶりで、前年比で191兆円増だ。
そのうち107兆円か株式投資である。
投資ファンドを中心とする海外勢は「安い」日本市場について、投資収益を挙げる絶好機と捉えている。
米国の投資家たちは不動産バブル崩壊不況からの出口の見えない中国への投資に見切りをつけている。
昨年半ば以降、ウォール街きっての親中派と称されてきた「ブラックストーン」など、大手投資ファンドがこぞって対日投資を本格化させている。
筆者自体、対中投資を打ち切って、日本に切り替えようとする米機関投資家のグループから、日本市場についてよく聞かれる。
外国からの対日投資は円買いを伴うので、円安抑制‘効果がある。
しかし、日本から出ていくカネのほうがより大きいことから円安が止まらないというのが実情だ。 
すると、今後、さらなる円安を止められるかどうかの鍵を握るのは、海外志向を強める家計を含む日本の投資家や企業ということになる。
自国の経済再生に確信を取り戻さない限り、国民が精いっぱい稼いだカネは外に流れて、本国に還流しないだろう。
そのための条件がデフレからの完全脱却なのだが、前述のように岸田政権、植田日銀も口先だけで、することは逆だ。 
折しも、通常国会閉幕とともに、秋の自民党総裁選を控え、自民党内では「岸田降ろし」の動きが表面化してきた。
政治と政策の迷走は論外だが、党内で政策を競い合いながら、脱デフレと日本再生を果たす新しいリーダーが選ばれるかどうか、が焦点となる。       
(編集委員)


2024/6/29 in Osaka

 


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