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ドイツは自国のエネルギー安全保障でも迷走…トランプ氏は…「ロシアの捕虜」と痛烈に批判

2021年03月08日 09時45分27秒 | 全般
先日、杉山大志氏の論文が産経新聞に掲載された時、私が本当に驚いた事は既述の通り。
以下は発売中の月刊誌WiLLに、日本の危機を招く、脱炭素の罠―背後の中国、と題して掲載されている櫻井よしこさんと杉山大志キヤノングローバル戦略研究所・研究主幹の対談特集からである。
日本国民のみならず世界中の人たちが必読である。
そもそも日本国民は朝日等を購読しNHKを視聴している暇に、これらの月刊誌、WiLL,Hanada,正論を購読しなければ物事の真相は何も分からないのである。それぞれが約950円。
有数の読書家である友人の口癖は「本ほど安いものはない」だが、これらの月刊誌は、毎月、その事を完璧に実証している。
1回のランチ代で、日本と世界の実態や真相を完璧に知る事が出来るなんて奇跡に等しい事である。
世界には私が出来る限り知らしめる。
「温暖化対策に協力」の見返りに「人権や安全保障で口を出さない」でいいか
オバマ政権の大失敗
櫻井 
バイデン大統領は就任初日、トランプ政権下で米国が離脱した「パリ協定」に復帰する大統領令に署名しました。
バイデン政権は環境政策に力を入れると明言していますが、中国が温暖化対策に協力するというカードを利用して、米国に人権問題や安全保障で譲歩を引き出すのではないかと懸念しています。
杉山 
悪しき前例をつくったのはオバマ政権ですね。
オバマ氏は任期終盤、人類の歴史に残る「レガシー」を残そうとして、温暖化問題に目をつけました。
国際合意をとりつけるためには、米国と中国が参加しなかった京都議定書を超えるものをつくる必要がある。
オバマ政権は中国と交渉を行い、2015年6月にCO2削減の数値目標を設定。
これを契機に国際合意の機運が一気に高まり、同年12月にパリ協定が合意に至りました。
櫻井 
オバマ政権がパリ協定に熱を入れる問、中国は2年ほどかけて南シナ海での行動を激化させました。
七つの環礁(ファイアリークロス礁、ジョンソンサウス礁、クアテロン礁、ヒューズ礁、ガベン礁、スービ礁、ミスチーフ礁)を奪って人工島を建設し、3千メートル級の滑走路や格納庫、レーダー施設までつくってしまった。
杉山 
オバマ政権が中国に強硬姿勢を見せれば、中国はパリ協定への参加を取りやめ、中国と関係の深い開発途上国もそれに同調する可能性がありました。
環境問題に手足を縛られたオバマ氏は、中国の膨張を黙って眺めているしかなかった。
レガシーを残したいというオバマ氏の“わがまま”によって、ベトナムやフィリピンが犠牲になってしまったのです。
櫻井 
中国の対米戦略を分析するためには、オバマ氏が米国は「世界の警察」ではないと語った2013年9月まで遡る必要があります。
当時、シリアのアサド大統領は化学兵器を使用して、10万人を超える自国民を殺害していた。
これを受け、オバマ政権は「レッドライン」、つまり越えてはならない一線を越えたと宣言した。
にもかかわらず、軍事介入に踏み切りませんでした。 
動かないアメリカを尻目にロシアは次々と先手を打ち、化学兵器の国際管理を提案。
アサド政権を支援するプーチン大統領は、「テロリスト撲滅」と称して反アサド勢力を攻撃します。
それが中東の混乱を深め、大量の難民を生み、欧州を追い詰め、英国のEU離脱の原因となりました。
中東におけるオバマ氏の弱腰発言が引き金となり、米国を主軸とした冷戦後の国際秩序に異変が生じたわけです。
杉山 
中国が露骨に米国の足下を見るようになったのも同時期ですね。
櫻井 
ええ。
オバマ氏が「世界の警察」を辞めると宣言した2ヵ月後、中国は突如、東シナ海の上空に防空識別圏(ADIZ)を設定し、圏内を飛ぶ航空機は飛行計画を中国側に提出するよう求め、従わない航空機には中国が「防御的緊急措置を講じる」と発表しました。
恫喝に等しい無法な要求にオバマ政権は屈してしまい、民間航空各社に中国の意図を尊重するよう命じた。 
以降、中国は「ここまでなら米国は何も言ってこない」と見極めながら、南シナ海・東シナ海での行動を激化させていくことになります。
イシユー・リンケージ
櫻井 
バイデン政権は「2050年にCO2排出ゼロ」を宣言しています。
バイデン氏はオバマ政権で副大統領、気候変動問題大統領特使のジョン・ケリー氏は国務長官を務めていました。
さらには、国内の気候変動対策を担う大統領補佐官に、オバマ政権で環境保護局(EPA)長官を務めたジーナ・マッカーシー氏が就任した。
温暖化問題に取り組むのは構いませんが、対中関係でオバマ政権の轍を踏んでしまわないでしょうか。
杉山 
ケリー氏は、「知的財産の盗難市場へのアクセス、南シナ海等の問題は、温暖化問題と交換されることは決してない」と述べています。
しかし、外交には「イシュー・リンケージ」という常套手段がある。
相手が重要視する問題について交渉しているとき、別の問題においては相手の攻撃的な行動を抑制できるというもの。
パリ協定の結実に熱心だったオバマ政権の足下を見て、中国が南シナ海で軍事拡張を進めたのが典型です。
櫻井 
バイデン政権は、「気候変動対策を外交と国家安全保障の柱に定める」と明言しています。
温暖化問題が何事にも優先されるような印象ですが、最初から米国が中国に対して劣位に立たされかねない。
杉山 
ケリー氏の記者会見の翌日、中国外務省の趙立堅報道官が記者会見で次のように発言しました。 
「中国は、気候変動に関して米国や国際社会と協力する準備ができている。とはいえ、特定の地域での米中協力は、冬の寒さにもかかわらず温室で咲く花とは異なり、全体として2国間関係と密接に関連していることを強調したい。中国の内政に露骨に干渉し、中国の利益を損なう場合、2国間および世界情勢において、中国に理解と支援を求めることはできない」
環境NGOは中国に物言えず
杉山 
今年は「環境の年」になりそうです。
早くもバイデン政権は、4月22日の「地球の日」に、中国を含む主要な排出国を招いて気候変動サミットを開催すると発表しています。
その後もG7、G20、国連総会などで温暖化が重要議題に据えられるでしょう。
そして、最後の総仕上げとして11月にイギリスでCOP26が開催されます。
そこで各国は、CO2削減目標の引き上げを議題として交渉し、国際合意を目指すことになる。
一連の交渉で、中国は温暖化について協力姿勢を見せると思いますが、そこに罠がある。
中国は環境問題で協力する見返りに、人権問題や軍事拡張について口を出すなと要求してくるはずです。
櫻井 
中国も「2060年にCO2排出ゼロ」を掲げています。
温暖化を食い止めたいという信念ではなく、国際政治のカードに利用する意図が透けて見えます。
杉山 
おっしゃる通り。
イシュー・リンケージを狙うと同時に、温暖化対策で自由主義陣営の経済を制限すれば、相対的に中国経済が優位に立つことができる。
同じような目標でも、経済に与える破壊力は段違いです。
櫻井 
どういうことでしょうか。
杉山 
国際的な環境問題への取り組みにおいて、大きな影響力を有しているのが環境NGOです。
彼らはかつて社会主義にシンパシーを抱いていた人たちの流れをくんでいます。
個人や企業の活動を制限して経済を計画・管理するというのは社会主義的な発想で、資本主義を否定する側面があると考えれば理解しやすい。 
そんな歴史的背景があるので、環境NGOは自由主義諸国の企業や政府には強烈な圧力をかける一方で、中国政府・企業には甘いのです。
櫻井 
たとえ目標を達成できなくても、中国は欧米や日本に比べてさほど国際的非難を浴びないということですか。
杉山 
ええ。
わかりやすい例が“環境少女”グレタ・トゥンべリ氏。
彼女の背後に環境NGOの大人たちの影が見え隠れしますが、グレタ氏が中国に批判の矛先を向けることは稀で、米国や欧州をメインターゲットにしていますよね。 
ほかにも、グリーンピースは「持続可能性を優先したことは、世界における中国の遺産を確固としたものにするであろう」と述べていますし、世界自然保護基金(WWF)は「習近平主席が発表した新たな目標は、世界の温暖化対策を一層強化することについての、中国の揺るぎない支持と断固とした措置を反映している」と発言している。
天然資源保護評議会のバーバラ・フィナモア氏に至っては、『中国は地球を救うか』と題した本を執筆して中国の環境政策を賞賛しているほどです。
環境運動=宗教?
杉山 
10数年前まで地球温暖化は、環境問題の関係者だけが扱うマイナーなテーマでした。
ところが状況は一変、いまや日本や米国、そして欧州で急進的な環境活動家が政治を乗っ取ることに成功している。 
LGBTや移民などマイノリティの権利保護と並んで、温暖化対策は左派の政策にしっかりと組み込まれています。
欧州の主要メディアもリベラルが強く、連日のように今すぐ温暖化対策が必要だと説教している。
テレビは、「人類の好き勝手な振る舞いに自然が怒っている」というキリスト教的なストーリーに、実際のところは温暖化と無関係な自然災害の映像を乗せて、人々の恐怖心を煽っています。
そんな欧州発の環境保護運動を米国や日本が輸入している。
櫻井 
民主党のオカシオコルテス氏など急進左派が掲げる「グリーン・ニューディール」には、大量のCO2を排出する航空機の利用制限も含まれています。
ですが、果たしてビジネスや経済のことをどう考えているのでしょうか。
ここまでくると理想を超えて、もはや宗教に近いと言わざるを得ません。
杉山 
そもそも地球温暖化というのは、経済に甚大な悪影響を与える「CO2ゼロ」政策を正当化する理由にはなり得ない。 
温暖化で台風や大雨などの災害が頻発していると報じられていますが観測データを見ればすぐに否定できるフェイクニュースです。
米シンクタンク「ビュー研究所」によるアンケート調査でも、「地球温暖化が米国にとって重要な脅威である」と答えたのは民主党支持者が84%、共和党支持者が27%。
トランプ氏に限らず、米国の共和党支持者は温暖化が大した問題ではないことを知っていて、議会でもメディアでもデータに基づいた議論がなされています。 
ところが日本では、保守もリベラルも温暖化それ自体に疑問を投げかけない。省庁には各々の温暖化対策予算が割り振られていて、補助金に群がる企業がある。
研究者は政府予算を使って“結果”を残さなければならず、「温暖化で災害が起きる」という論文を発表するーそんな既得権があるからです。
欧州の迷走は続く
櫻井 
話を中国に戻します。
昨年12月、EUは中国と包括的投資協定を結びました。
11月にも中国はASEAN十日韓豪ニュージーランドとRCEP(包括的経済連携)を締結している。
中国はTPP参加についても積極姿勢を見せていますが、経済だけでなく自由主義という価値観の連携に楔を打とうとしているのです。 
トランプ政権のポッティンジヤー米大統領副補佐官(当時)は投資協定について、「米政府、議会の指導者はEUが新政権発足前夜に新投資協定に動いたことに当惑している」と不快感を示していましたが、よくわかります。
杉山 
昨年末の投資協定に続き、今年2月1日に中国とEUはハイレベルでの「環境と気候の対話」を開催しました。
気になるのが、一連の流れのなかでEUが中国の人権問題にダンマリだったことです。
櫻井 
中国がいかに安全保障上の脅威かという意識が、EUは驚くほど低いのです。
杉山 
遠く離れた東シナ海・南シナ海のことですから、他人事だと思っているのでしょう。
櫻井 
ドイツは自国のエネルギー安全保障でも迷走しています。
2018年、トランプ氏はNATO議長との会談で、メルケル氏を「ロシアの捕虜」と痛烈に批判しました。
NATO諸国にとって脅威であるはずのロシアに対し、ドイツが海底ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の敷設で協力していたからです。 
いかなる国家にとっても、エネルギーは最重要の戦略物資にほかなりません。
にもかかわらず、欧州の電力供給をロシアに依存するような方向に舵を切ってしまった。
NATOの同盟関係を自ら切り崩しにかかるようなもので、トランプ氏が怒るのも当然です。
杉山 
メルケル氏やマクロン氏が中国偏重の姿勢ですからね。
EUのフォンデアライェン欧州委員長は米国との関係を重視しようとしていますが、ドイツやフランスは中国との経済関係を捨てきれずにいる。
EUの足並みが乱れて米国との関係がこじれれば、得をするのは中国です。
米国分断を煽る中国
櫻井 
バイデン政権は地球温暖化だけでなく、人種差別と社会の分断、経済の建て直しなど、政治的熱量のほとんどを消耗しそうな課題を抱えています。
他方、中国は国際社会の非難など気にも留めず、独裁専制の「中華帝国」路線を突き進んでいる。
杉山 
温暖化が党派の対立につながることを知っている中国としては、環境問題を持ち出して米国政治の分断を深刻化させる意図もあるでしょうね。
先ほど述べましたが、温暖化対策についての反応は米国内で二つに割れている。
民主党は積極的なコミットを支持する一方、共和党は国内経済の影響などを考慮して消極的です。
櫻井 
バイデン氏は最初の1週間で30件以上の大統領令に署名していますが、その大半がトランプ政権の否定。
米国社会の分断を念頭に置いて、バイデン氏は就任演説で「結束」を強調しました。
ところが実際は、さらに分断を深刻化させるような方向に進んでいないでしょうか。
現実的な政策によって国益を守らなければならないはずのリーダーが、力を
増していく民主党左派の要求に引きずられる恐れがあります。
杉山 
バイデン氏が署名した大統領令には、石油・ガス採掘に対する国有地・公有地の新規リースを一時停止するものも含まれています。
しかし他方で、民主党左派が求める水圧破砕法(注)の規制には慎重でありたいとも表明している。 
民主党と共和党が50議席ずつで拮抗している上院では、民主党から7人造反が出て、57対43で水圧破砕法の新規制の阻止が決議されました。
ペンシルベニア州やニューメキシコ州をはじめ、石油や天然ガスの採掘などエネルギー産業が盛んな州は、水圧破砕法が規制されると経済が大打撃を被る。規制に賛成すると自分たちが選挙に落ちてしまうからです。
「エネルギー州」の民主党議員は規制に賛成できないので、たとえ政府が環境税を導入したいと思っても、議会がストップをかけるでしょう。
議会を経ずに大統領令で決められることは限られていて、連邦政府の公用車をEV(電気自動車)にするといったものにとどまる。
バイデン大統領は「2050年にCO2ゼロ」を宣言していますが、国内の状況を考えると現実的な線に落ち着くと思います。 
(注)地下の岩体に超高圧の水を注入して亀裂を生じさせる手法。シェールガスおよびシェールオイルの採取に用いられている。
 
 
 

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