方言、俗謡、オーラルヒストリー

2023-01-17 17:14:14 | ことば関連

 

 

 

 

「おもしんにゃーねー」(面白くないね)という言葉は私の周りで普通に使われてきた言い回しだが、高校の古文の先生教師曰く、それは熊本市内だけの話らしい。確かに山を越えるとかすると断絶や独自変化が生じるのはわかるとしても、市内限定というのはいかにも不思議な話。彼によると、先に述べた独特の語尾は「みゃー」とか「やぁー」とかで有名な名古屋にも見られるもので、熊本城や城下町を築いた加藤清正は尾張国愛知郡(現名古屋市)出身であり、その城下町に自身の部下たちを住まわせたため、その地域の方言が市内にだけ定着したのだとか。

 

先日熊本城を20年ぶりに訪れた際、「あんたがたどこさ」の歌を見ながらそんな話をふと思い出した(ただ、よう考えたら歌詞の語尾の「~さ」って熊本にいて一回も使ったことないんだけど、これは何由来なんちゃろね?)。

 

こういう風に今自分たちが当然のように使っているものの由来を知るのは非常に興味深いが、冒頭の「おとつい」に関する分布の話も似たような感想を抱いた(北海道が開拓民により飛び地的に波及しているのもおもしろい)。

 

自分たちの言葉がどういう来歴で成り立っているのかを知るのは、歴史のそれと同じで非常に興味深いのだが、

 

 

 

 

 

これら配信でも出てくる方言とそれに対する反応にも見られるように、「九州弁」とか「関西弁」とかいう括りはあまりに粗雑であって、例えば福岡でも「博多弁」と「小倉弁」や「北九州弁」では違うし(ちょこ先生の語尾は小倉の方っぽい)、「関西弁」でも京都・大阪・兵庫で違い、同県でもミナミは違うとか年齢層や性別によって好まれる方言が違うといったものは当然存在する(冒頭に話した「おもしんにゃー」の事例もそうだが、これは国民国家という共同幻想が孕む問題とも似ている・・・と言ってわかりにくい場合はスペインのカタルーニャ問題やらバスク人のことを思い出しておくれやす)。

 

さて、方言ついでにもう少し別の話をしておくと、実は今回の帰省でふと思い出して母親に質問したのがあって、それが「朝鮮征伐太閤記、シベリア鉄道ないけれど~土瓶の口から餡いっちょ~♪」という謎の歌である。これは以前紹介した『戦国武将:虚像と実像』で豊臣秀吉にまつわる逸話がどのように形成されていったのかを読んだ際に、母親が以前口ずさんでいた歌に「朝鮮征伐太閤記」とか出てくるのあったな~と思い質問してみたのだが、「日本の、乃木さんが、凱旋す、スズメ、メジロ、ロシア、野蛮国、くろばたき、きんのたま、負けて逃げるは犬殺し、シベリア鉄道ないけれど、土瓶の口から飛び出した云々」というもので、あれ、朝鮮征伐太閤記どこいった??という話だが、ついでに少し調べてみると、こちらは俗謡で様々なバリエーションがあるんだそうな(こちらのサイトから引用させていただきました)。

 

①「陸軍の乃木さんが凱旋1)す、雀、目白、ロシヤ、野蛮國2)、 クロパトキン3)、金の玉。マカローフ4)、ふんどし締めた、 高ジャッポ(帽子)。ポン屋売り、陸軍の…」

②「陸軍の乃木さんが凱旋す、雀、目白、ロシヤ、野蛮國、クラボトキン、金ダルマ。まーわーし締めた、 高シャボン。盆参り、陸軍の…」

③「陸軍の乃木さんが凱旋す、雀、目白、ロシヤ、野蛮國、クロパトキン、金の玉。 負けて逃げるはチャンチャン坊、棒で叩くは犬殺し、シベリヤ鉄道あるけれど、 土瓶の口から湯気吐けば、バルチク艦隊逃げてゆく、國を守るは陸軍の…」

④「陸軍の乃木様が凱旋す。進め、目指せ、千里の陸路。ロシヤ、ヤポンスク、クロパトキン、金の弾。 負けて逃げゆくチャンチャン坊。棒で叩くは犬殺し。シベリヤ鉄道長かれど、ドドンと大砲(おほづつ)火を吹かば、 バルチク艦隊壊滅し、死んで海底(みなも)に沈みたり…。陸軍の…」

⑤「日本の乃木さんが凱旋す、雀、目白、ロシヤ、野蛮國、クロパトキン、金の玉。 たまげて逃げるはチャンチャン坊5)、棒で叩けば犬殺し6)。 シベリヤ鉄道長けれど、土人の國まで撃ちませば7)、バルチク艦隊沈没し、 死んでも守るは日本の…8)」

⑥「日本の乃木さんが凱旋す、雀、目白、ロシヤ、野蛮國、黒鳩金9)、金の玉。 真っ黒け、ケツのふんどし締めました。高シャッポ(帽子)。ポンヤラヤ、野砲兵、兵隊さん。 三勇士。シベリヤ鉄道遠ければ、婆さま御歳(おんとし)八十二。日本の…」

⑦「日本の乃木さんが凱旋す、雀、目白、ロシヤ、野蛮國、黒畠(くろばたけ)、剣の玉。 負けてたまげるチャンチャン坊、棒で殴るは犬殺し。シベリヤ鉄道ないけれど、土民の口から吐き出せば、 バルチク艦隊撃沈し、島津の殿様十文字。地獄の沙汰も金次第、いつもの店賃払う日に、 二階の窓から逃げようか、火事場のおっさん熱かろに。日本の…」

⑧「日本の乃木さんが合戦10)す、雀、目白、ロシヤ、野蛮國、栗畑、剣の束。番頭さん、 三遍廻って煙草の火。火の玉。たまげて逃げてくチャンチャン坊。棒でどつけば犬殺し。 シベリヤ鉄道ないけれど、ドボンと肥溜め落ちたれば、ばあ様拝んで往生し、死んで御陀佛(おだぶつ)八十二。日本の…」

⑨「日本の乃木さんが凱旋す、雀、目白、ロシヤ、野蛮國、クロパトキン、金の玉。 負けて逃げるはチャンチャン坊、棒で叩くは犬殺し。シベリア鉄道長けれど、 土瓶の口から沸き立てば、バルチク艦隊全滅し、死んでも命があるように。日本の…」

⑩「(雀から始まる)雀、目白、ロシヤ、ヤボンコク、クラボトキン、金の玉。 負けて逃げてくチャンチャン坊、棒で叩くは犬殺し。シベリア鉄道長ければ、バルチク艦隊全滅し、 死んでも立派な、日本の乃木さんが凱旋す、雀…」

⑪「日本の乃木さんが凱旋す、雀、目白、ロシヤ、野蛮國、クロパトキン、金の玉。 負けて逃げたるチャンチャン坊、棒で叩くは犬殺し。シベリヤ鉄道あったれど、 土瓶の口から火を噴けば、バルチク艦隊惨敗し、島津の殿様十文字。 爺さんあの時八十二。日本の…」

⑫「日本の乃木さんが凱旋す、雀、目白、ロシヤ、野蛮國、クロパトキン、金の玉。 負けて逃げゆくチャンチャン坊、棒で殴るは犬殺し。シベリヤ鉄道長ければ、 バルチク艦隊降参し、島津の御紋は十文字。地獄の火の池熱かろに。日本の…」

 

バルチック艦隊やクロパトキンの話がほぼ共通して出てくるので日露戦争以後に流行ったのは間違いないとしても、これだけバリアントがあるのは興味深い。特に「島津」があったりなかったりするのは地域性を表しているように見えておもしろいが、あるいは先に述べた「朝鮮征伐太閤記」が実際に歌に含まれていたなら、それも熊本=名護屋(佐賀)や朝鮮半島に近いという地域性と関連しているからかもしれない(想像をたくましくすれば、日露戦争の勝利とあわせて、日本の大陸進出の文脈で朝鮮出兵にも言及するバージョンだったのだろうか?)。

 

戦争映画やらの影響で小さいころから軍歌は耳にしていたため「同期の桜」だの「月月火水木金金」などは普通に知っているが、そういう戦意高揚歌だけでなく、こういう俗謡を拾い上げていくのもなかなかにおもしろそうだ(こういうのは無宗教の話で重視している実際の帰属意識のあり方の調査などとも関連してくる)。これは例えば片山杜秀の『革命と戦争のクラシック音楽史』などと結びつけて体系化することができるかもしれない。

 

こういうのに関連して、現在興味を持っているものの一つにオーラルヒストリーがあるが、その一環として今は亡き母方の祖父の日記がまだ残っているらしいので、もし不要であれば自分が引き取れないかとこないだの帰省で持ち掛けたりした(生前に話した際も従軍時の話とか色々参考になったので)。

 

ん、祖父の日記、そうそふのにっき・・・これかーーー!!!

 

ちょっくらマジカント行って淵源の記憶を掘り返してくるわ(・∀・)

 

 


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