ひぐらし礼アニメ版~なぜ最後が賽殺し編ではないのか~

2010-06-11 18:52:27 | ひぐらし
先日の記事で「ひぐらし礼を見たが追加してコメントすることは特にない」と書いたが、ものすごい大事なことを見落としていた。


確かに、内容面については書いた通りだが、その形式は非常に重要な情報を含んでいる。ひぐらし礼は「恥晒し編→賽殺し編→昼壊し編」という流れになっている。でも、よく考えるとこれっておかしくないか?なるほど恥晒し編が最初にくるのはよくわかる。例えばひぐらし解でも厄醒し編という沙都子視点のオリジナルストーリーが挿入されており、ともに「つかみ」なのだろうと理解できるからだ(またイリーやクラウドの扱いが罪恋し編を意識しているのは明白)。しかし、昼壊し編が最後にくるのは奇妙である。話の分量的にも、内容的にも、賽殺し編こそラストにふさわしいのは明らかだからだ(これについては初回プレイ時のレビューで書いた「いじめ問題」の部分を参照)。


賽殺し編を挟んでのコントラストを狙ったのか?なるほど昼壊し編は単におバカな内容であるだけでなく、「人に好かれる」グッズ(海パン)が脈絡もなく出てくる恥晒し編に対し、「人を好きになる」グッズ(オットセイのキーホルダー)が登場する。また恥晒し編は男性(圭一)が影響を受けるのに対し、昼壊し編は女性(レナ)が影響を受けている。あるいは始めにそもそも本当に効果があったのかさえ不明なアイテム(海パン)に絡む話を出して昼壊し編の緩衝材にするとか、最後は明るい話で終わらせる、といった意図を推測する人もいるかもしれない。なるほどそれらの要素もゼロではないかもしれない。しかし、それらは非本質的な見方であるように思う。


では一体どんな意図が考えられるのか?ここで「ひぐらし賽殺し編再考」が生きてくる。そこで述べたことを要約すると…

 賽殺し編は、一回的な生を肯定することによって、他の物語・可能性(が存在しうるという視点)を「夢」・「神の視点」として否定している。このことは、梨花が「魔女」という超越的・非日常的存在から脱却し、モータルな存在として日常に回帰することで真の戦いの終わりを意味するとともに、これ以上の物語の創生を否定するような内容になっている(これで打ち止め!)という意味で、完全な「オチ」のように見える。
 しかしそうすると二つの深刻な矛盾が生じる。一つは賽殺し編の詩。もう一つはお疲れ様会の発言である。
 前者は、今から語られる話がプレイヤーの要望に応えるために生み出された一つのバリアントにすぎないと語っている。つまり、賽殺し編を(ベタな)作者の主張であるとか、あるいはそれを「オチ」として捉える解釈の正当性を決定的に揺るがす内容なのである。また後者について言えば、お疲れ様会では(本編の設定を無視したものも含む)多様な物語の可能性を肯定する発言がわざとらしいまでに繰り返されており、賽殺し編の内容と明らかに齟齬をきたしている。
 ではこの矛盾をどのように考えるべきか。
 ここで、お疲れ様会がひぐらし本編の舞台裏という意味でその上位に位置する(メタフィクショナルな)ものであること、そして賽殺し編が(シナリオロックなどによって見る順番を強制されないことも含め)罪恋し編、昼壊し編とフラットな存在として扱われていることに注目したい(ちなみに詩の作者であるBernkastelも皆殺し編や祭囃し編で世界を俯瞰する場面でプレイヤーに直接語りかけているから、物語の上位に位置する存在と言っていい)。とすれば、賽殺し編の一回的な物語(生)の肯定はプレイヤーの要求に即して生み出された一視点にすぎず、お疲れ様会に見られる物語の多様性の肯定をこそ、作者の主張として見なすべきなのである。
 要するに賽殺し編(あるいはひぐらし礼)は、内容面では一回的な生(物語)を肯定する一方で、形式的にはそれもまた一つのバリアントでしかないと示すことによって、実際にはそのような立場を(無力化は言いすぎにしても)相対化する役割を担っているのである。

という具合。


さて、このような観点からすれば、昼壊し編がなぜ最後なのか、より正確にはなぜ賽殺し編が最後に配置されなかったのかは明らかである。つまり、一回的な生を肯定し、多様な物語を否定する賽殺し編が最後に来ることで、それが最終結論になることを避けたかったのである(まあ穿った見方をすれば、製作者側にとってはこれから新しい物語を出していくのに不都合な結論なわけですなw)。


ひぐらし礼アニメ版の「恥晒し編→賽殺し編→昼壊し編」という一見奇妙な物語の配置には、以上のような意図があると推測される。またこれをもって、以前書いた原作版賽殺し編の解釈を補強する材料にできるだろう。以上。

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