初音

雲去りて余寒の空の残りけり
冴返る指先しんと夜のコート
初音して踏み出す足を止めさせる

春の雪

翳る森しばし淡雪降りにけり
春の雪降る中へまた陽の差しぬ
冴返る檜の樹影くっきりと

冴返る

風の音光る二月の森歩く
明るさのさらに際立ち冴返る
佇めば春疾風なお森に吹く

梅の香

春の道走り出したくなることも
梅の香に囲まれている静けさよ
満開の梅に目白のこぼれ飛ぶ

春一番

わが内に何呼び覚ます春一番
春荒れを夢とうつつのあわいにて
春嵐明けおだやかなる朝に

猪狩 花冠3号（2008年12月）

猪狩を外れし犬と出会いけり
風荒れて山の眠りを深くする
植替えを待つ葉牡丹の積まれおり
平らかに冬陽かえして播磨灘
かろやかに陽を浴び枯木道をゆく
植木積み師走の町を走りけり
頂の枯れの中なる三角点

梅開く

春の山黙して行きし豊かさよ
その白きまことの中に梅開く
トイピアノ弾けば白梅香りくる

霞

頂の霞の中に眠りけり
春きざす濡縁で食ぶ混ぜご飯
さらさらと春風そよごの葉を鳴らす

春の雲

追儺会の喧騒遠く春の雲
毘沙門天立像春の光あり
春の風火を待つ護摩木に柔らかく

春山路

湿りおる走り根踏んで春山路
水盤を溢れて落ちし春の水
球を打つコートのかなた春の月