久女忌

久女忌や皸わが手になかりけり
それぞれの木々にありけり春隣
うきうきと寒の雨中を帰るなり

大寒

胸中の願いはひそか寒参り
亡き人の歌を聴きつつ寒の内
大寒や熱き甘酒もらいけり

水仙

風吹きぬ梅の早さを促して
うつむいて咲く水仙を揺らす風
葉牡丹の渦真ん中に雨残し

波郷の忌 花冠2号（2008年11月）

一片の雲なき空よ波郷の忌
輝きを空の青さへ冬紅葉
新たなる落葉の積もる山路行く
秋空に槌音高く杭を打つ
初冬の薔薇淡きバイオレット
朴落葉かさりと時の重なりぬ
ひとたびは空へ舞い飛ぶ散紅葉

寒の雨

開業のコンビニへ細き冬の雨
書を読みぬ朝より静か寒の雨
決意せし面洗うや寒の水

震災忌

震災忌祈るだけしかなき時も
ヘッドフォンはずす耳もと冬深し
吟行の人と出会いし寒椿

大霜

大霜へ光の波の寄せて来る
雲間より冬の海へと陽の射しぬ
枯葉踏みマウンテンバイク遠ざかる

虎落笛

陽の前をゆく雲はやし虎落笛
過ぎ行きし雲の影ある枯野かな
冷え深く光明るし今朝の晴れ

月冴ゆ

冴え冴えと月昇りくるわが前に
月光が凍てし雲より漏れきこゆ
夜具いちまい増やして眠る寒夜かな

手袋

大鳴門橋まで見えし寒の晴れ
陽の熱を手袋越しに感じ取る
わらわらと屋根よりこぼれ寒雀